侍女の日記6
◇◇◇
お久しぶり(前回から、まだ一日しかたってない――って嘘でしょ!?)、ユナです!
いや~……名探偵もびっくりの、大事件でしたね!
犯人のウィーズルは元役者で、自分と背格好の似た貴族に、ニセモノの紹介状で雇われては、主人に成りすまして、盗みや賭け事を、繰り返していたそうです。
身に覚えのない借金の請求書を、不審に思ったテリー伯父様が、ウィルフレッド様のお父様に相談。
ポートリアに出向き、過去の事件も調べたお父様に、問い詰められたウィーズル。
自白するからと、人気のない場所に、お父様を呼び出し、頭を殴って崖から落とそうとした。
その現場を、港に入ろうとした海軍の船から、たまたまジェラルド様に見られていた――という偶然にも、びっくり!
幸い、船上の軍人達が騒ぎ出したので、崖から落とすのはあきらめて、そのまま逃げたらしいけど。
「思い出すのが遅くなっちまって、すまん!」
と、頭を下げたジェラルド様に
「とんでもない! ジェルさんは、父の命の恩人です! 本当に、ありがとうございました‼」
ウィルフレッド様も深く頭を下げて、二人がっちり握手をした……という話を聞いたのは、お見舞いに来てくださったシャーロット様から。
「だからジェル兄様は、前領主の肖像画を、あんなに気にされていたのね?」
にっこりと、わたしのベッドの枕元で、微笑んでらっしゃる……まぶしい! 殺風景な使用人棟の寝室に、たった今、天使が降り立ちました!
「大丈夫です! どこも痛くないし、普通に働けます!」
と言い張る、わたしの主張は、聞きとげられず、
「いけません――! 今日は一日、おとなしく寝ていること!」
「まったく昨日は、生きた心地がしなかったよ……今日はベッドから、一歩も出るんじゃないよ!」
お嬢様とおばあちゃんにWでしかられ、事件の翌日、丸一日休むことに。
それにしても
「こんな事件、『千バラ』には、かけらも出てこなかったけど。ミックの事も……原作に無い事が、なんで次々と起こるんだろ?」
う~むと、ベッドの上で、首をひねっていたら
「ユナ――! 大丈夫!?」
「昨日、大変だったんでしょ!?」
お昼休憩の合間に、エマ達が、わたしの昼食 (オートミールのトマトリゾット)を持って、お見舞いに来てくれた。
「ごめんね、ユナ。わたしが『お屋敷の中を探して』なんて、頼んだせいで……」
しょんぼりとジェインが、頭を下げる。
ちなみに、子ウサギ達を逃がしたのも、犯人の仕業。
自分が書斎を探す間、使用人達を、屋外に留めておくために。
まったく、敵ながら頭の回るヤツ!
ハルもナツも無事だったから、良かったけど。
(迷い込んだ厨房で、新鮮な人参をたくさん貰って、ちやほや甘やかされていたそうです)
「何言ってるの!? ジェインのせいじゃないって! あれはわたしが、勝手に暴走したせいなの!」
あわてて否定した、わたしに
「でも、ほんと申し訳なくて……あのこれ、お見舞い」
そっと、『紙ばさみ』が、手渡された。
「この前ユナに言われて、その――お話を、書いてみたの。『妖精のシャーロット姫と、人間のウィルフレッド王子』の」
恥ずかしそうに、小声で言われて
「嬉しい……すっごく嬉しい! ありがとう! 読むの、めちゃめちゃ楽しみ‼」
前世のバインダーに似た、紙ばさみの中には、びっしりと文字が書き込まれた紙が。
やったーっ! ウェルカム、二次創作‼
「わわっ! 目の前で読むのは、止めてー‼」
「ちょっと、二人だけで、何話してるの?」
「何でもないから!」
ほかほかのリゾットを頂きながら、メイド仲間と、盛り上がっていると
「にぎやかね?」
すぅっと涼やかな、風のような声が通る。
「シャーロット様……!?」
公爵令嬢がにっこりと、わたしの部屋の入口に、たたずんでいた。




