表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/155

侍女の怒りと失言

「アバンチュールも恋人も、どちらも最悪です!」

 怒りに震え、地をはうような声が、公爵令嬢のつぶやきに答えた。


「ユナ……?」

「まぎらわしい事をされた、ウィルフレッド様にも――少しは責任が、あるかもですけど。

 お嬢様にあんな、ひどい憶測おくそくを、いかにも正論のように話すなんて……ゴート卿は、デリカシーが無さすぎです! 

 しかも何で、『なぐさめ=女性』って、決めつけるんでしょう!? 

 サウザンド王国、いえ、全世界の女性に、謝って頂きたいです‼」


 フーフーッと、毛並みを逆立てて怒る、ネコのような侍女の姿に

「ユナったら……」

 くすりと、悪いき物が落ちたような、笑い声が出た。 



「テリー伯父様も、悪気があって、お話した訳ではないのよ」

「そう――ですか?」

「貴族の結婚は、たいてい親が決めるもの。だから愛情の無いご夫婦も、いるでしょうし。他に恋人を、作られる方も……」


 奥方の間へと、階段を昇りながら、シャーロットが低い声で語ると

「でも、狼城の領主様と奥方様、こちらの前領主ご夫妻のように、仲のよろしいご夫婦も、たくさんいらっしゃいます! 

 お嬢様とウィルフレッド様も、きっとそうなられます‼」

 きっぱりと、ユナが断言する。


「そうなれたら……いいわね」

 夢を見るように、紫の瞳を細めてから

「あっ! わたくしったら――ミセス・ジョーンズに、『今夜は、伯父様の夕食はいらない』事を、まだ伝えてなかったわ!」

 はたと、気が付く。


「では、わたしが伝えて参ります!」

「ありがとう、ユナ――よろしくね」

「はいっ!」

 階段を足早に降りて行く、侍女の背中に、


「本当に……ありがとう、ユナ」

 あなたがいてくれて、よかった……。

 想いを込めて、公爵令嬢は、ささやいた。



 使用人棟に向かうため、モーニングルーム(居間)から裏庭に出たところで、ユナの足がぴたりと止まった。

「ハルー! ナツー!?」

「どこだー、ナツーッ!」

「ハルちゃーん……怒ってないから、出ておいでー!」

 10人程ほどのメイドや従僕が、口々に、子ウサギ達の名前を呼びながら、庭の茂みや木の影、庭師の道具小屋等を、探している。


「ジェイン――どしたの?」

 顔見知りのメイドに、たずねると

「ユナ! ねぇ、ハルとナツ、見なかった!?」

 あわてた声で、聞き返される。

「見てないけど――逃げちゃったの?」

「そーなの……誰かが小屋のカギを、かけ忘れたみたいで」

 はぁ~っと、ため息をついて、


「ユナは? どこ行くの?」

「ミセス・ジョーンズに、お嬢様からの伝言を伝えに」

「あ、それ私が伝えてあげる! その代わり、お屋敷の中を一応、探してみてくれない?」

「いいの?──了解!」



 そのまま侍女は、屋敷内に戻り、迷子のウサギ探しを始めた。

 とは言っても、重い扉がきっちり閉まっている部屋ばかりで、子ウサギが入り込む隙間すきまは、ほとんど無さそうだ。


 玄関ホールの隅や階段裏を、そっとのぞいていると、すっと人影が、ホールを横切った。

 足早に通り過ぎる、その横顔は――顔の下半分を白いヒゲにおおわれた

「ゴート卿……?」

 少し前、シャーロット様と、見送ったばかりの『テリー伯父様』だった。


「今の……」

「『ゴート卿』、だな?」

 耳元でつぶやかれて、ひゃっと振り向けば、すぐ後ろにウィルフレッドの従者じゅうしゃ、ミカエル・ドッゴが。 

 不審ふしんそうに、『テリー伯父様』が入った、書斎の扉を、見つめていた。



「今日は午後から、レミントン卿を、ご訪問の予定――でしたね?」

「は、はいっ……! 先ほど、お見送りしたばかりです」

 少し気まずい思いで、ユナは返事を返す。

 昨夜の食堂で、『ビッグメック』について、聞かれそうになったとき、『お嬢様が呼んでるから!』と、逃げてしまったから。


「出かけるふりをして、戻って来られたのか?」

「そうですね……それとも」

「それとも?」

「ゴート卿は、実は『双子ふたご』だった──とか?」

 ユナの推理に、ふっと、笑いをこぼすミカエル。

 黙っていると冷たい印象の、整った顔立ちが、笑うと急に、子犬のようになる。


「確かホームズに、そんなトリック、あったっけ?」

「えっ――『シャーロック』に!? そんなエピ……」

 はっと、口を押さえた時は、遅かった。

「うん──原作にも、ドラマにも、そんなエピソードは、なかったね?」



 この世界には存在しない『名探偵』の名を、つい口走ってしまった侍女に、ハシバミ色の瞳を細めた従者は、にやりと笑い返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ