侍女の日記5
◇◇◇
(しみじみと)お疲れ様、私……こんばんは、ユナです。
いや~、今日もバタバタの一日でした!
それもこれも、原因は『テリー伯父様』。
ご本人は、陽気な白ヒゲおじさんで――身の回りの世話をする従者も、同行してるけど。
で・も・いきなり来るのは、やめてーーっ‼
晩餐の準備やら客用寝室の用意やら、兎穴全使用人 (おばあちゃんと私含む)が全力疾走!
お嬢様のお仕度も、おばあちゃんとの連携プレーで、何とか乗り切ったけど。
正装されたお姿の、美しさ清らかさ尊さに、全て浄化されました……(合掌)
そして初々しく頬を染めて、ウィルフレッド様にエスコートされるお姿に……疲れも吹っ飛びましたわ!
これ、スチルで見た!
VR(違う)、すごい……!!
でも『千バラ』のメインストーリーに、あんな白ヒゲモブおじさんは、出張ってこなかったはず。
スチルも確か、『二人だけのロマンティック晩餐会』イベクリアで、開放だったし?
う~むと首をひねりながら、社食――じゃなかった、使用人食堂に向かうと
「ユナ――こっち!」
席に付いていたエマが、手を振ってくれた。
トレイに乗った夕食を受け取り、隣に座る。
「お疲れ様、エマ! そっち大変だったでしょ?」
「うんまぁ……でもほら結婚式用に、来客お迎えリハ、何度もしてたから――楽勝?」
いたずらっぽく、瞳をくるりと回して、笑うエマ。
こーゆーときに、グチ言わないで、笑い飛ばせるって……いい子だなぁ(しみじみ)
「そっちこそ、シャーロット様のおしたく、大丈夫だった? 手伝えなくてごめんね?」
「え、全然。楽勝楽勝!」
ぐっと、親指を突き出して
「あーでも、お嬢様のドレス姿――見せたかったなぁ!」
また脳内再生して、スプーン片手に、うっとりしてると
「あっ、わたし見た! めちゃめちゃキレイだったー!! まるで、『妖精のお姫様』みたいで……こう、ふんわりと、背中に透き通った羽根が、付いてる感じ?」
ななめ前の席から、栗色の髪の子が、弾んだ声を上げた。
ほぅ……。
「えーと、ジェインだっけ?」
「うん! よろしく、ユナ」
「よろしく! 『妖精のお姫様』って、ステキな表現――ジェインて、詩とかお話とか、書く人?」
「えーっ! そんなの、書いたことないよ!」
「そーなの? もったいない……」
いかんいかん!
すきあらば『沼』に、仲間を引き込みたがるのは、オタクの悪いクセ。
それにしても女子同士で、わちゃわちゃ話す楽しさって、前世も今世も一緒だね!
「そーいえばあの『テリー伯父様』って、ウィルフレッド様と仲がいいの?」
メインを完食して、お茶とデサートを堪能ながら、エマに尋ねると
「うん。お子様がいないから、小さい頃からすごく、可愛がってたみたい」
「なるほど……」
それであんなに、『いたずらっ子武勇伝』に、くわしかった訳だ。
「今はポートリアに住んでて、兎穴に来たのは久しぶり……」
エマの話が途中で、ぱたりと止まった。
「どしたの?」
びっくり目で固まったエマの、視線をたどった先にいたのは
「ジェラルド様……!?」
従僕たちに囲まれて、慣れた様子で『使用人食堂』に座る、お嬢様の従兄弟が――大きな3枚のバンズにはさまれた、レタスとチーズとピクルス、ソースたっぷりのパテ――どう見ても『ビッグメック』にしか見えない物体に、かぶりつく姿。
「ジェ、ジェラルド様! どうしてここに――晩餐会に、出られてたんじゃ?」
あわててかけ寄り、尋ねれば
「よぉユナ……(もぐもぐ)。あいにく、大事な用事が出来ちまって」
「大事な用事?」
「そぉなんです! ジェルさんがいなかったら、どーなっていた事か‼」
厨房担当のメイドが、山盛りポテトフライの皿と大きなレモネードのグラスを、ビックメックの隣に、うやうやしく置いた。
なんでも急な晩餐の準備で、オーブン用の薪が足らなくなり、困っていたところ、海軍大尉殿が『まかせろ』と、がんがん薪割りをしてくれたと。
「調理がひと段落した後に、『お礼に何でも、食べたい物を作らせてくれ』って、料理長が言うから、おまえが作った、こいつのレシピを渡したんだ」
数年前、『ジャンクフードが食べたーい‼』って、ガマンの限界が来た時に、狼城のコックさん(おばあちゃんの友達)とあれこれ試して、ついに完成させた……幻のレシピを⁉(大げさ)
「あのレシピ、持って来てたんですか?」
「おう!」
得意気に笑った顔が、ふと斜め後ろにそれて
「よぉミック……! おまえも食べるか?」
気さくにかけた声の相手は、ウィルフレッド様の従者。
ミカエル・ドッゴが、信じられないものを見るまなざしで、『お値打ちセット』を、見つめていました。
(ユナの日記より)




