花を飾る
翌日の午後。
ガゼボでの昼食を済ませ、外出するウィルフレッドを見送った後、シャーロットは、花を活けていた。
ばあやとユナと一緒に、庭園で摘んだばかりの、淡いピンクの野薔薇に紫色のダリア、白いアネモネと黄色のヘリアンサス(小さなヒマワリ)。
水切りした色とりどりの花を、バランス良く、大ぶりの花瓶に活けていく。
「……これで、どうかしら?」
「素敵です!」
「いろどりも、よろしいですねぇ!」
侍女と、乳母の賛辞に加えて
「お見事ですわ……さすが奥さ――いえ、シャーロット様!」
花瓶を用意して来た家政婦も、称賛の声をあげた。
「どちらに飾りましょう? せっかくですから、玄関ホールに……」
「いいえ。飾るところは、決まっているの」
公爵令嬢は静かに、首を振った。
手ずから花瓶を抱えて、3人の召使いと一緒に、1階の広間に足を踏み入れる。
そこにいたのは
「あらっ――ジェル兄様!?」
まるで数日前の再現のように、肖像画を見上げている従兄弟の背中に、驚いた声をかけると
「ん……?」
振り向いた右手に、今日は、1/4にカットされたタルトが。
「よほどこちらで、おやつを頂くのが、気に入ったようね?」
くすくすと笑い声を上げる、従姉妹に向かって、得意げに
「ラズベリータルトだ。うまいぞ? 少し食べるか?」
「結構です! お茶の時間に、頂きますから」
すまして返す、シャーロット。
『そんなお行儀の悪い事、したことございません』という顔で。
白くほっそりとした両手が、暖炉の上にそっと花瓶を置き、肖像画を見上げる。
「お庭は今、秋の花が次々と咲いて、とってもキレイです。お二人にもぜひ、ご覧になって頂きたくて……」
はっと後方から、ミセス・ジョーンズが、息を呑む気配がした。
『亡くなった訳でもないのに、お花を供えるなんて……おかしかったかしら?』
急に恥ずかしくなり、あわててジェラルドを振り返る。
「ジェル兄様も、こちらの肖像画が、お気に入りのようね?」
「あぁ――この前から、引っかかってるんだ。先代の伯爵の顔、どこかで見た気がして……」
眉根を寄せて、考え込む海軍大尉に
「ジェラルド様、ほら――11年前の狩りの時に、お会いしてるはずですよ!」
すかさず、『狼城の生き字引』が、口をはさむ。
「うん。でも――そんな前じゃなくて」
う~んと、首を捻る従兄弟につられて、シャーロットも首を傾げたとき
「失礼いたします、シャーロット様!」
いつも落ち着いた物腰の、執事のアンダーソンが珍しく、あわてた様子で入って来た。
「何事ですか?」
「ただ今、テレンス・ゴート卿が、お見えになりました!」
「『ゴート卿』……?」
どこかで聞いた事のある名前に、また小首を傾げたシャーロットに
「ウィルフレッド様の伯父上様でございます! 先日ギャラリーで、肖像画をご覧になられた」
ミセス・ジョーンズが、助け船を出す。
「あぁ……あの方!」
白いおヒゲの肖像画を、ぼんやりと思い出しながら、公爵令嬢は、ぽんと手を合わせた。




