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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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花を飾る

 翌日の午後。

 ガゼボでの昼食を済ませ、外出するウィルフレッドを見送った後、シャーロットは、花をけていた。


 ばあやとユナと一緒に、庭園でんだばかりの、淡いピンクの野薔薇に紫色のダリア、白いアネモネと黄色のヘリアンサス(小さなヒマワリ)。

 水切りした色とりどりの花を、バランス良く、大ぶりの花瓶に活けていく。


「……これで、どうかしら?」

「素敵です!」

「いろどりも、よろしいですねぇ!」

 侍女と、乳母の賛辞さんじに加えて

「お見事ですわ……さすが奥さ――いえ、シャーロット様!」

 花瓶を用意して来た家政婦も、称賛の声をあげた。


「どちらに飾りましょう? せっかくですから、玄関ホールに……」

「いいえ。飾るところは、決まっているの」

 公爵令嬢は静かに、首を振った。



 手ずから花瓶を抱えて、3人の召使いと一緒に、1階の広間に足を踏み入れる。

 そこにいたのは

「あらっ――ジェル兄様!?」

 まるで数日前の再現のように、肖像画を見上げている従兄弟の背中に、驚いた声をかけると

「ん……?」

 振り向いた右手に、今日は、1/4にカットされたタルトが。


「よほどこちらで、おやつを頂くのが、気に入ったようね?」

 くすくすと笑い声を上げる、従姉妹に向かって、得意げに

「ラズベリータルトだ。うまいぞ? 少し食べるか?」

「結構です! お茶の時間に、頂きますから」

 すまして返す、シャーロット。

『そんなお行儀ぎょうぎの悪い事、したことございません』という顔で。



 白くほっそりとした両手が、暖炉の上にそっと花瓶を置き、肖像画を見上げる。

「お庭は今、秋の花が次々と咲いて、とってもキレイです。お二人にもぜひ、ご覧になって頂きたくて……」

 はっと後方から、ミセス・ジョーンズが、息を呑む気配がした。


『亡くなった訳でもないのに、お花を供えるなんて……おかしかったかしら?』

 急に恥ずかしくなり、あわててジェラルドを振り返る。


「ジェル兄様も、こちらの肖像画が、お気に入りのようね?」

「あぁ――この前から、引っかかってるんだ。先代の伯爵の顔、どこかで見た気がして……」

 眉根まゆねを寄せて、考え込む海軍大尉に

「ジェラルド様、ほら――11年前の狩りの時に、お会いしてるはずですよ!」

 すかさず、『狼城の生き字引じびき』が、口をはさむ。


「うん。でも――そんな前じゃなくて」

 う~んと、首をひねる従兄弟につられて、シャーロットも首をかしげたとき



「失礼いたします、シャーロット様!」

 いつも落ち着いた物腰の、執事のアンダーソンが珍しく、あわてた様子で入って来た。

「何事ですか?」

「ただ今、テレンス・ゴート卿が、お見えになりました!」


「『ゴート卿』……?」

 どこかで聞いた事のある名前に、また小首をかしげたシャーロットに

「ウィルフレッド様の伯父上様でございます! 先日ギャラリーで、肖像画をご覧になられた」

 ミセス・ジョーンズが、助け船を出す。


「あぁ……あの方!」

 白いおヒゲの肖像画を、ぼんやりと思い出しながら、公爵令嬢は、ぽんと手を合わせた。


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