表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/155

【番外編15】静かで輝く夜明けに1

今回は短めの、全2話。

タイトルは『Silent Night(きよしこの夜)』の歌詞『all is calm, All is bright』から。


明日、後編を更新します。


 12月のある寒い夜。

 夜明けにはまだ、ほど遠く。

 ヘア村の村人たちは皆、温かな毛布にくるまり、夢の中にいる頃。

 ヘア伯爵邸(兎穴)の窓には、煌々(こうこう)と灯りが輝いていた。


 時折ばたばたと、上り下りする足音が響く階段。

 家政婦やメイド達の声が、かすかに漏れ聞こえる、2階の『奥方の間』。

 そこから離れた1階の、しんと静かな一画にある領主の書斎。

 そこでは4人の男性が、神妙な面持ちでテーブルを囲んでいた。



 それぞれ手にしているのは、数枚のトランプのカード。

「ほら、ウィル――お前の番だぞ!」

 義理の兄イーサンに促され、ドアの外を気にしていたこの部屋のあるじ、ウィルフレッドが、不安そうに尋ねる。

「今、声がしなかったか? ロッティの……」

「あれは、風の音だ」

 そわそわと立ち上がりかけた領主の腕を、反対側に座る義理の従兄弟ジェラルドが、ぐいっと引き戻した。


 ついでにテーブルから、夜食のローストビーフサンドを取り、大きな一口でぱくり。

「美味いっ――胡椒の効いた肉とルッコラが合うな!」

「ジェルお前、この状況でこの時間に……良く腹が減るな?」

 あきれ顔のイーサンがちらりと見た、赤々と燃える暖炉の上の置き時計は、午前3時半を指していた。



「食べられる時には食べる――それが海軍の教えだ」

 にやりと、年明けから『海軍士官学校』の教官になる、ジェラルド・ウルフ大尉改め、少佐が答える。

「正論だな。どれどれ……うん、いける! ウィル、このソースはホースラディッシュか?」

 つられて味見をしたイーサンが、義弟に尋ねると、


「二人共……サンドイッチの味なんて、どうでもいいでしょう! ロッティが――あなた達の大事な妹が、わたしの愛しい妻が――たった今、闘ってる最中だと言うのに!」

 我慢のリミッターが外れたウィルフレッドが、手にした数枚のカードをテーブルに叩きつけ。

 空いた両手で、悲愴感に満ちた顔をおおった。


 彼の最愛の妻シャーロットは、2階の『奥方の間』でたった今、初めての出産に挑んでいる最中だった。



 夜遅くに産気付いたシャーロットが心配で、最初は『奥方の間』のすぐ傍に用意した椅子に、陣取ったウィルフレッド。

 そこに数日前から泊まり込んでいた、イーサンとジェラルドも加わったのだが、

「まだ、何時間もかかりますよ!」

「お嬢様の気が散るから、どっかよそで待っててください!」

 家政婦とばあやに追い払われ、すごすごと書斎で待機している……という状況。


「ウィルフレッド様、落ち着いてください」

 床にも落ちた数枚のカードを拾い、綺麗に揃えて領主の前に置いてから、正面に座った従者のミックが静かに口を開いた。


「お分かりですよね? 例え今ここで、あなたが取り乱しても騒いでも――何一つ、奥方様の助けにも励ましにもなりませんから!」

「うっ……!」

 グサグサと傷心の胸に突き刺さる『正論』を受けて、無言でうなだれる領主。


「うわっ――きっつ!」

「うん、的確な状況判断だな」

 こそこそと話すイーサンとジェラルドに、にこりと口角を上げて、

「失礼しました。さぁ続けましょう『ババ抜き』――いえ、『オールドメイド』を!」

 ミックは自分のカードを、パラリと広げてみせた。



『ババ抜き』と基本的なルールは同じ、『オールドメイド』。

 違うのはジョーカーを入れる代わりに、クイーンの札を一枚抜いておく事。

 最後にクイーン1枚が残る事から、『オールドメイド』(未婚の女性)と呼ばれている。


「微妙なネーミングだよな……」

「誰が付けたんだ?」

「女性の前では気軽に、口に出せませんよね――はい、ウィルフレッド様の番です」

「くそっ――全然揃わないぞ」


 ぼそぼそと、中身の無い会話をしながら、何ゲームかした後に、

「おっと、もうカラだ」

 ジェラルドが、ワインの瓶を振って見せた。

「そろそろ暖かいお茶が、飲みたくなったな?」

 イーサンの声に、皆がうなずいて。


「では厨房に、頼んで来ます」

 ミックが席を立った時、時計の針は、5時半を指していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ