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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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最高で特別な一日に4

「ミック、お疲れ様!」

 侍女のユナが笑顔で、レモネードのグラスを、婚約者に手渡した。

「わぁっ、サンキュー! 実は喉が、からっからだったんだ」


 グラスの中身をごくごく飲んでから、ほっとした顔で

「『今日が誕生日』だって、ウィルフレッド様に気付かれないように、あちこち連れ回したかいがあったよ――そっちもお疲れ! シャーロット様のケーキ作り、毎日手伝ってたんだろ?」

 ねぎらいの言葉を、ミックが返すと、

「うん。それはもうね――『天国』だった!」

 うっとりと、ユナがリターンした。



「は? 『大変だった』じゃなくて?」

「だってだって、一生懸命ウィルフレッド様のため、だけに! 真剣な顔で材料を計って、バターと砂糖を泡立てて、手が痛くなるまで生地をふんわり混ぜて、オーブンに張り付いて焼き上がりを見守るシャーロット様――めちゃめちゃ健気で愛らしいと思わない!? 思うでしょ? わたしの推し、最高過ぎる……!」

「うん……ソウデスネ」

 早口でまくし立てる侍女の横で、従者は遠い目でグラスをあおった。



「あっ、忘れてた――これっ、『お疲れ様』のプレゼント!」

「えっ?」

 ユナから手渡された紙袋をのぞくと、中にはそれぞれ薄紙で包まれた、固めの長方形クッキーが。


 前世のお菓子売り場で見た事のある、

「えっと、これ……『ラスク』だっけ?」

「うん。ちょびっと生焼けだったキャロットケーキを、再利用して作ったの。ただ薄く切って、もう一度焼いただけなんだけど」


「ユナの手作り!? それは、家宝に――」

「しないで、ちゃんと食べてね?」

「わかった……すっごく嬉しい。ありがとな?」

「んっ……」

 ほんわり頬を染めて、にっこり見上げた侍女の手を。

 嬉しそうに目を細めて見下ろした従者が、後ろ手でこっそり握った。



「今日は今までの人生の中で、最高で特別な一日になったな」

 笑顔の友人たちでいっぱいの、温室の中をぐるりと見渡してから、今日の主役ウィルフレッドが、ふいに奥方の目をのぞき込む。


「という事で――ロッティ、そろそろ白状しない?」

「『白状』って、何の事――あっ!」

「この手袋の訳ですよ、奥様?」

 シャーロットがさり気なく後ろに隠そうとした、短い手袋をした右手首を、領主の左手が優しく掴んだ。


「そのステキな昼用ドレスに、この子羊キッドの手袋は合わない。いつもなら薄手のレース編みのを付けるはず、だろ? 今日のように、来客をもてなす日は特に」

 逃げ道を探すように、目を泳がせた奥方の耳元に、低い声でささやく。

「だったら、理由はひとつ――この手袋の下を、隠すため」


「ウィル……」

「何を隠しているの、ロッティ?」

「わかったわ――降参」

 軽くため息を吐いてシャーロットは、右手首のボタンに左手をかけた。



「ロッティ……やっぱり!」

 手袋の下から現れたのは、真っ白な包帯が甲に巻かれた、ほっそりとした右手。


「さっき、ケーキを食べさせてくれた時、少し薬草の香りがするなと思ったんだ……」

「まぁっ、あの時から気がついていたの?」

 目を丸くしながら、

「ちょっとだけ、本当にちょっとだけなのよ? 手の甲を熱いケーキ型に、当ててしまって――」

 慌てて説明する、シャーロット。


「何て事だ……さぞかし痛かっただろ? まだ痛むかい? 

 そんな怪我人にケーキを食べさせてもらって、喜んでたなんて……わたしは悪魔か!?」

 最愛の奥方のケガに気が動転して、青ざめた顔で自分を責め立てるウィルフレッド。


「ウィルったら――落ち着いて! 本当に、ごく軽い火傷なの!

 すぐにマイラが、氷水で冷やしてくれて。ばあや特製の薬をユナが塗ってくれたから、もう全然、痛くも何ともないのよ?」

 ウィルをなだめていると、

「お嬢様……?」

「大丈夫か、ロッティ?」

 心配顔で寄って来た、ユナや兄たち。


「大丈夫よ、何でもないわ」

 と向き直ったシャーロットが、皆に笑顔を見せていると。

「きゃっ――!」

 後ろに立つ領主がいきなり、奥方を背中から腕の中に抱き込んだ。



「確かに、大丈夫そうだ――はい皆、戻った戻った!」

 義理の兄イーサンの呆れた声を、頭の片隅で聞きながら、

「ロッティ――君に何かあったら、生きていけない」

 柔らかな身体に回した腕で、背後からぎゅっと、銀の髪ごと抱き締めれれば。


「心配かけて、ごめんなさい――ウィル」

 優しい声で謝罪してから、

「わたくしもよ」

 ぽつりと、シャーロットがささやいた。


「えっ……?」

「わたくしも、もしもあなたに何かあったら、生きていけないわ」


『だから二人で、ずっとずっと長生きしましょう?』

 腕の中から、悪戯っぽい声で告げられる。

「ロッティ……!」



 最高で特別な、春の日の午後。

 宝物のような言葉プレゼントを受け取ったウィルフレッドは、

「ありがとう」

 最愛のひとの髪を飾る白薔薇に、そっと感謝のキスを返した。


『最高で特別な一日に』完結しました。

こちらもX(旧Twitter)のフォロワーさんから、『美味しいものに絡んだお話』とリクエストを頂いて考えたお話です。

誕生日パーティーなので、後半からメインキャラ総出演でお送りしてみました。

拙いお話ですが、相変わらず『ロッティが好き過ぎてポンコツになるウィル』を、楽しんで頂けたら嬉しいです。


ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。

感想もお待ちしています。


次回はそろそろ、二人のベビー誕生を予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ウィルフレッドの誕生日パーティー。ちょっとしたトラブルもありましたが、終始幸せいっぱいの内容で楽しませてもらいました。 特に終始シャーロットを応援し続けるユナと、そのお零れをもらえなくても…
[良い点] 甘さたっぷりの可愛らしいお話で最高でした!! カップル勢揃いで終始ニヤケました! 料理の描写も非常に美味しそうで魅力的です! 今回も素敵なお話ありがとうございます!
[良い点] 幸せなウィルの誕生日パーティを、ありがとうございました! 美味しそうな料理の数々に、それぞれのカップルたち(推し含む)まで、とっても贅沢な番外編でした( ˶¯ ꒳¯˵) ロッティの可愛さも…
感想一覧
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