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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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懐中時計の妖精たち3

 兎穴で懐中時計を預かってから、きっかり2週間後。

 イーサン・ウルフ次代公爵は、母校のウィストン上流寄宿学校パブリックスクールを訪問していた。



「イーサン先輩、いえ兄上! お待たせしてすみませんっ!」

 クラブ活動中に連絡を受けた、バニーことバーナビー・セロウが、クリケット用の白い運動着のまま面会室まで走って来た。


「いや、急に来たのはこっちだから」

 真っ白なハンカチに包んだ、借りていた懐中時計を差し出して

「大切な時計を、ありがとう」

 心から、お礼の言葉を告げるイーサン。


「いえっ――あの、本当にいいんですか?」

 ためらいながら受け取る、未来の義弟に。

「うん。これを見てごらん」

 上着の内ポケットから、イーサンが取り出したのは、新品のシガレットケース。

 蓋の留め金をパチリと開けると、薄紙に包まれた『妖精の羽根を付けた少女の細密画』を取り出した。


「えっ、すごい! こっちのソフィー姉様とそっくりですね!」

 目を丸くして、返して貰ったばかりの懐中時計の絵と見比べるバニー。

「だろ? 当代随一の腕を持つ細密画家に、複写して貰ったんだ。

 これを後で、わたしの時計にはめ込めば完成だ」

 得意そうに、次代公爵が答えた。



「さすが兄上……あっ、お借りしていた時計、今持って来ますね!」

 慌てて寮の部屋に、取りに戻ろうとする未来の義弟を

「ちょっと待て、バニー!」

 未来の義兄が引き止める。


「何ですか?」

「今返したその時計、『裏蓋うらぶた』を開けてごらん?」

「裏蓋――ですか?」


 首を傾げながら時計をくるりとひっくり返して、今までほとんど開けた事の無かった裏側の蓋を、ぱかんと開けてみる。

 前と同じく、ムーブメント(機械)を覆い隠す――亡き父の名前が刻まれた――銀色のダストカバーが見えるだけ。


「こんな所に何が……あっ!」

 たった今開けた、裏蓋の内側。

 そこにひっそりと、細密画がもうひとつ、はめ込まれていた。



 まるで姉の絵とお揃いのような、花冠と白いドレス姿。

 背中には透き通る、妖精の羽根を付けて。

 サンザシにクラブアップル――真っ赤な実が実る、秋の庭を背景に微笑むのは、愛らしい黒髪の少女。

「アナベラ……!?」


 じわりと熱を帯びる――頬と耳。

 まだ数えるくらいしか、会っていないのに。

 いつの間にかその姿を、目で追っている自分に気が付いたのは、この前のヘア伯爵邸。



 家庭教師をしているソフィー姉様から、アナベラが以前は家族と上手くいってなかった事を聞いて、びっくりした。

 でも、そんな素振りを全く感じない、明るさや強さがカッコ良く思えて……女の子に『カッコイイ』って変かな?


『ほらっ、この子がナツ! 可愛いでしょ?』

 黒い子ウサギを抱き上げて、くしゃりと笑う笑顔。

 ウサギの100倍、可愛いと思った。



 自分でも知らない間に好きになっていた、2つ年下の女の子。

 その姿を、そっくりそのまま写し取った絵を、じっと見つめるバニーに、イーサンが口を開いた。


「さっき話した細密画家、実は兎穴に招待してたんだ。

 ほら、外出出来ないシャーロットの、気晴らしになればと思って。

 その時みんなをスケッチして、後でこれを仕上げてくれた。

 もちろんこの事は、アナベラ本人も知らない。二人だけの秘密だよ?」


 にやりと笑って、

「どうだい、バニー? 大切な時計を貸してくれたお礼――気に入ってくれたかな?」

 尋ねてくる未来の義兄に、

「最高ですっ……! ありがとう、イーサン兄上!」

 未来の義弟は、キラキラと輝く黒い瞳を上げて、嬉しそうに答えた。



 懐中時計にむ、妖精たち。

 蓋を開ければ、いつでも会える。


「おーい、バニー! 先に食堂行ってるぞ!」

「うんっ、すぐ行くから――!」

 寮で同室の友人に返事をしてから、こっそりと時計の裏蓋を開く。


「おはよう、アナベラ……」

 口の中だけでつぶやいて、くすぐったそうに幸せそうに、バーナビー・セロウは笑った。


『懐中時計の妖精たち』完結しました。

こちらはX(Twitter)のフォロワーさんからリクエストを頂き、作ったお話です。

せっかくなので、兎穴のメインキャラ総出演、わちゃわちゃ賑やかにしてみました。

拙いお話ですが『小さな恋の始まり』を、楽しんで頂けたら嬉しいです。


ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。

感想もお待ちしています。


次回は久々に、シャーロットが中心のお話を予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 尊い……! あ、一言目が変態ですみません! リクエストにお応えいただき、またこのような可愛くて素敵なお話を、ありがとうございますm(_ _)m 堪能させていただきました! 初恋はもちろん…
[良い点] 番外編のタイトル。そして『小さな恋の始まり』だからこその演出が、とても良かったです。 小さいからこそ、大きな恋(イーサン&ソフィー)の力を借りて成就してほしいと思いました。 イーサンはやっ…
[良い点] 可愛らしい初恋のお話に頬が緩みました! シャーロット&ウィルフレッド、ユナ&ミカエル、イーサン&ソフィーのカップルも見ることが出来て最高です!! 今回も楽しませていただきました! 可愛らし…
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