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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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懐中時計の妖精たち2

「あれっ、まだお見せしてなかったですか? 子供の頃のソフィー姉様ですよ」

 首を傾げながら、懐中時計をイーサンに手渡すバニー。


「うん。初めて見た……」

 直径2インチ(約5㎝)程の、蓋の裏側にはめ込まれた、小さな肖像画。

 頭に花冠、背中には妖精の羽根。

 白いドレス姿の金髪の少女が、少し恥ずかしそうに微笑んでいた。



「この時計、父の形見なんです。この絵は姉が10歳位の時、父の知り合いの画家に描いて貰ったらしいですよ」

「10歳のソフィー……何て愛らしいんだ。しかも、背中に羽が――!」

 感動に耐えるように、右手で口元を押さえたイーサンの後ろから、そっとシャーロットとユナがのぞき込む。


「まぁっ、なんて可愛い――!」

「おばあちゃんから聞いた事あります! 10年くらい前に妖精に見立てた、子供の肖像画が流行ったって」

「そういえば、わたくしも描いて頂いた事が……あの細密画、どうしたかしら?」

 過去の記憶をたどって、ふと首を傾げた領主夫人に

「お嬢、いえ奥様――今度ウィルフレッド様に懐中時計を、見せて頂いたらいかがですか?」

 ミックから聞いた情報を思い出した侍女のユナが、悪戯っぽくささやいた。



「ソフィー――きみはこの頃から、妖精の姫君だったのか――よしっ、網膜に焼き付けたぞ!」

 しみじみとつぶやいてから、一瞬強く、両目を閉じて。

「ありがとう、バニー」

 笑顔で懐中時計を、未来の義弟に差し出すイーサン。

 一瞬、躊躇ちゅうちょしてから、ぐっと未来の義兄の手を押し戻す、バニー。

「これは、イーサン兄上にプレゼントします。そのっ――婚約のお祝いとして」


「えっ、だってこれは、父上の形見だろ!? 受け取れないよ!」

「いえっ、いいんです!」

 しばらく押し問答をしてから、

「じゃあ、少しの間……そうだな2週間くらい、預からせて貰っていいかな?」

 イーサンが何事かを考えながら、ゆっくりと尋ねる。


「あ、はいっ――大丈夫です!」

 勢いよくうなずいたバニーに、

「ありがとう、必ず大切に扱うから! そうだ、時計が無いと不便だろ? 代わりにこれを」

 内ポケットから取り出した、ウルフ公爵家の紋章入りの懐中時計が手渡された。


「ひぇっ! こんな見るからに高級そうな時計――もし落としたりキズを付けたら!?」

「そんな、びくびくするなよ! たかが時計だ」

 恐れおののくバニーに、イーサンが笑顔で背中を叩いていると、

「ただいまーっ! ジェル兄様が『後で寄るから、スコーンとタルト取っておいてくれ』ですって! あっ、イーサンお兄様とバニーッ!」

 たった今、村から戻ったアナベラが、嬉しそうな声を上げて走って来た。



「イーサン……!」

 今日はシンプルなネイビーのドレス姿。

 結い上げた金髪に、小さな帽子を留めたソフィー先生が、ぱあっと顔を輝かせて歩み寄る。

「おかえり――今日も妖精みたいに綺麗だね、わたしの先生?」

 ほっそりとした両手を取って、白い頬に軽くキスをしながら、次代公爵がうっとり呟くと

「ただいま……」

 未来の公爵夫人が、ほんわりと頬を染めた。



 そんなラブラブな二人の横で

「えっと――元気だった、アナベラ?」

「もちろん! えっと、バニーは――?」

「うっうんっ、元気だよ」

 つられて何となく、もじもじと会話をする、揃って黒髪の、13歳の少年と11歳の少女。


「そうだ! 前に話した、子ウサギのナツに会わせてあげる――こっちよ!」

 ひらめいたアナベラに、両手で右腕を引かれて、

「ふわっ――!」

 思わずおかしな声を、出してしまったバニー。


「どしたの? あっ、ごめん――いやだった?」

 慌ててぱっと、手を離した元悪役令嬢に

「ううんっ――全然イヤじゃないっ! 案内して、アナベラ?」

 バーナビ・セロウはこちらから右手を伸ばして、小さな左手を包み込むように、きゅっと握った。


「あっ、うんっ……!」

 ぱっと顔を上げて、嬉しそうに頷いてから、

「ちょっと、びっくりしちゃった。バニーの手って――思ってたより大きいのね?」

 そっとつぶやく、アナベラ・ギボン。



 ぽわわんと揃って頬を染めながら、手を繋いで少しぎくしゃくと。

 裏庭の兎小屋に向かう、黒い制服姿のバニーと、頭と胸に黒いリボンを付けた、淡いグレーのドレス姿のアナベラ。

 木立の赤い木の実が映える、小さな二人を、


「可愛いわ……」

「うん」

「本当に」

「初恋……いいですね!」

「あのアナベラお嬢様が、初恋!?(涙)」


 シャーロットとイーサン、ソフィーとユナ、そしてアナベラ付きのメイドのベティ。

 大人たちが揃って、微笑ましく見守っていた。


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