わたしの太陽5
「イーサン様、あなたを見損ないましたっ……!」
最近は関係が良好に、なって来たとはいえ。
両親と姉から長年『蔑ろ』にされ、愛情に飢えている、アナベラの味方だと。
年の離れた本当の妹のように、可愛がっていると信じていたのに!
「先生、聞いてくださいっ!」
言い訳を振り払うように足を踏みだし、やみくもに10フィート(約3メートル)程進んだ街灯の下で、イーサンに追いつかれる。
「誓って、『結婚を早める為』に学院を、利用したりしていませんっ!」
両手で肩を掴まれて、真剣な眼差しで告げられた。
「『クイーンローズ女学院』は元々評判が良く、閉校になったのは経理担当者の使い込みが原因ですし。
保護者と元理事たちからも、『経営陣を一新して再開を』と、次々に声が上がっていて」
「本当、に……?」
「本当です! 神――いや、妖精の姫君に誓って!」
夕暮れ時、オレンジ色の火が灯された街灯の下。
真剣な顔で、右手を胸に当ててみせる、次代公爵。
『妖精の姫君』……?
少し首を傾げてから。
「そうですか……本当に、学院の再開を」
人差し指の関節を口元に当てて、しんっとした表情で考え込む、ソフィー先生。
そんな姿を見下ろして、イーサンが静かに口を開いた。
「あなたも――学院に戻りたいですか?」
「えっ……!?」
ぱっと顔をあげ、紅茶色の瞳を見開く先生に
「これを、見てください」
上着の内ポケットから取り出した、書類を広げる
「『再開後の教師リスト』? まぁっ……!」
イーサンが指さした箇所に『植物学担当 ソフィー・セロウ』の名が。
「以前、話してくれましたよね?
『経験不足で、思う様な授業をしてあげられなかった。出来るならもう一度、教壇に立ってみたい』って」
黒い瞳で優しく見下ろしながら、言葉を紡ぐイーサン。
「覚えてて、くださったんですか……?」
「もちろん! 初めて寮生活を始めるアナベラも、先生が一緒なら心強いでしょうし」
「確かに、仰る通りですわ。でもこれ以上、わたしの我儘でお待たせするなんて……」
それとももう、『プロポーズは白紙に』って事?
思いがけずズキリと、まるでバラの棘に刺された様に痛む心。
唇を噛み締め、迷い惑うソフィー先生に
「2年間、待ちましょう」
次代公爵から静かに、告げられた言葉。
「2年……?」
「1年後、来年の9月に学院が再開されます。
それまでにしっかり、アナベラを教えながら準備をして。そこから1年間、教壇に立ってください」
今度こそ、悔いのないように。
「そして、その後は……」
「その後は?」
パチン!
すっと右手を高く上げたイーサンが、音高く指を鳴らす。
合図を受けて、静かに後方から現れたウルフ家の従僕が、恭しく差し出した物。
それは、色鮮やかなピンクのバラが10本ほど束ねられた、可愛い花束。
それを見て、ベンチからハラハラ見守っていたアナベラ達3人が、「はっ!」と固唾を呑む。
花束を受け取った、濃いグレーのスーツ姿の次代公爵が、スポットライトの様に光る街灯の下。
白い上着とドレス姿の、妖精の姫君の前で、片膝を付いた。
花束を差し出して。
「『バラは、太陽なくしては咲けず。人は、愛なくしては生きられない』という言葉があります。
わたしの、わたしだけの太陽になってくれますか、ソフィー?」
震えそうになる両手を伸ばした先生が、花束を受け取る。
「わたしの太陽も、あなたですわ――イーサン」
初めて、『先生』と『様』抜きで、呼んだ名前。
自分と同じ名前の、バラを抱き締めながら。
ソフィー・セロウは輝くような笑顔で、プロポーズに答えた。
『わたしの太陽』完結しました。
拙いお話ですが、二人の恋の行方を、楽しんで頂けたら嬉しいです。
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今回こっそり始まった、小さな恋(バニー→アナベラ)の続きを予定しています。
また読んで頂けるように、頑張ります!




