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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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人気者の従兄弟

 1階の玄関ホールに立つ、グランド・ファーザー・クロックが4回、時を告げた。

 待ちかねていたシャーロットと侍女は、ちょうど裏庭を見下ろせる、2階の図書室の窓をそっと開く。


 カーテンの影から見下ろした先には、開けた場所に立つジェラルド。

 軍服の上着を脱いだ白いシャツ姿で、何も持っていない両腕を、泰然たいぜんと組んでいる。

 周りを取り囲むのは、5人の若い従僕じゅうぼくたち。

 こちらはそれぞれが右手に、剣のように持った木の棒を、構えていた。


 腕を組んだままのジェラルドが、

「いつでもいいぞ?」

 にやりと、口角を上げた直後

「うぉーーーっ!」

 叫び声と一緒に、正面から勢いよく、棒が振り下ろされた。


 身軽によけながら、相手の手首を手刀しゅとうで打ち、ぽろりと落とした棒をキャッチ。

「「いっくぞーーっ‼」」

 今度は左右から、一度に襲って来た棒を、かんかんっと、はじき飛ばす。

「「うぉりゃーーっ‼」」

 間髪かんぱつ入れず、後方から二人が、襲いかかる。


 すばやく身を屈めてよければ、勢い余って、ふらつく襲撃者たち。

 地面に付いた両手をじくに、ダンスでも踊るかのように勢いよく蹴り回した、ジェラルドのかかとが、敵をまとめて蹴り飛ばした。


「いってーーっ!」

「降参!降参ですーっ‼」

 あっけなく陥落かんらくし、次々と白旗を上げる従僕たち。


 ぱんぱんと手のどろを払いながら、立ちあがった勝者に

「すっげーーっ!」

「さすが、ジェルさん!」

「海軍大尉、かっけー‼」

 次々と、称賛の声が上がる。

 後ろからのぞくメイド達の、黄色い声援も受けて、ジェラルドは照れたように、片手を上げた。



「はわ~……さすがジェラルド様! お強いですねー!!」

「当たり前でしょ、わたくしの『師匠』ですもの」

 得意げなシャーロットに、くすりとユナがうなずく。


「『人気者』って、こういう事だったんですね? 使用人の休憩時間を選んで、剣を教えてあげるなんて――本当に、お優しいです!」

 倒した従僕たちに今度は、身振りをまじえて、アドバイスをしている。

「結婚式が伸びて、ヒマを持て余してるんじゃ? と心配だったけど……安心したわ」

 ほっとしたように、シャーロットは微笑んだ。


「たまっていた休暇を、『妹の結婚式だから』と、まとめて取ってくださたのよ」

 本当なら明後日が、結婚式のはずだったのに。

 こちらに着いてから、もう5日。


「そういえば、泥だらけになった『婚礼衣装ウェディングドレス』の方は、どうなったんでしょう?」

「さぁ? ミセス・ジョーンズからは、まだ何も……」

「シャーロット様……」

 少し寂しそうに、うつむいたシャーロットは、窓の下でわいわいと、レモネードで乾杯し始めた男たちに、目を移した。



 レモネードの入ったピッチャーやグラスを、笑顔で、キッチンから運んで来るメイド達。

 その中の、すらりと背の高い、赤髪のメイドが、ふと図書室を見上げた。

「あっ――エマさん!」

 嬉しそうにユナが、カーテンの影から、小さく手を振る。


「エマ……あぁ! ばあやが言っていた、荷解にほどきを手伝ってくれた?」

「そうです! あの後お礼を言いに行って、それから食事の時や寝る前に、話す様になって……色々こちらの事を、教えてもらってます」

「そう……お友達が出来たの」

 シャーロットが中庭の少女に、にこりとうなずくと、エマはあわててお辞儀を返し、去り際にちらりと、ユナに笑顔を見せた。



「ユナが、うらやましい……」

「えっ――『わたし』が、ですか!?」

 驚いた侍女が、目を見張って、あるじを見上げる。


「おじい様は、私が産まれてすぐに、亡くなられたけど。『兎穴は、おじい様のかたき』って、小さい頃からばあや達に聞かされて、すっかりそれを信じていたの」

 なのに、ウィルフレッド様と、婚約が決まって


「『兎穴の領主たちは、深くて暗―い穴の中に、住んでいるんですよ』って聞いていたから、『そんな所にお嫁に行くなんて――穴の中で暮らすなんて、絶対イヤ!』……って、毎日こっそり、泣いていた」

「お嬢様……」

 いたまし気な顔の侍女に、にこりと笑顔を見せて


「だから、強くなろうと思ったの。自分自身と、大切な人たちを、守れるように」

「それで、ジェラルド様から稽古けいこを?」

「そう。初歩の護身術ごしんじゅつだけど。

『もしも誰かに攻撃されても、5分間、持ちこたえればいいから』って」

「5分だけ、ですか?」

「『5分以内に、必ず俺が助けに行く』……ですって」



「かっっこいぃぃーーっ!!」

 合わせた両手に鼻先をうずめ、身悶みもだえるユナに

「でしょ?」

 うふふと得意げに、シャーロットは答えた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これが噂に聞く、〝さすおに〟かっ…(´˙꒳˙ `)笑
[一言] ジェラルドお兄様かっこいいのですが……!!明るくて気さくで頼りがいがあって、完璧に私の好みですー!!今後の活躍に期待してしまいます! シャーロットと乳母の会話も微笑ましいですね!気の置けな…
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