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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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わたしの太陽3

「『悪戯っ子』!?」

「えぇ。弟が小さい頃、悪戯を思いついた時の顔にそっくり!」

 笑顔で盛り上がる二人の横で、アナベラとベティがこっそり目で合図。


「大変よ、ベティ! さっきハンカチを忘れて来ちゃったみたい!」

「それは大変です、アナベラ様! 私が一緒に戻りますので、お二人はこちらでお待ちください!」

 がたんと勢いよく席を立つ、元悪役令嬢とメイド。



 足早に遠ざかる、二つの背中を見送りながら。

「アナベラはよく――ハンカチを忘れる子だね?」

 にやりとイーサンが尋ねて、

「ええ。イーサン様が、いらした時だけ」

 すました顔で、ソフィー先生が答える。


 次代公爵と家庭教師。

 二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。



 カフェを出たアナベラとベティは、ぐるりとバラの生垣いけがきに沿って店の裏手に戻り、テラス席の斜め下にしゃがみ込んだ。

 生垣の間からこっそりのぞけば、イーサンの後ろ姿と、笑顔のソフィー先生が見える。


「ふふっ、私たちも手馴れて来たわね、ベティ?」

「子爵令嬢の趣味が『のぞき見』なんて、あまり人には言えませんけど?」

 やれやれと呟くメイドに、

「趣味じゃないし、覗き見でもないわよ! これは、『見守り』!

 ソフィー先生とイーサンお兄様が、もっと仲良くなって――早く、婚約出来るように!!」

 ふふんっと、胸を張る元悪役令嬢。

 今日は白いレースとフリルをあしらった、ベージュのドレスの愛らしい姿。


『先生が婚約をためらっている、1番の理由……アナベラ様には、絶対に言えないわね』

 なんだかんだ言っても、『アナベラお嬢様』が可愛くて仕方のないベティは、そっとため息を隠した。



 その時

「あの銀髪が、姉様に言い寄ってる『詐欺師』か!? ここからだと、顔が良く見えないな……」

 隣の生垣から、苛立いらだった声が聴こえて来た。


 そっとアナベラ達が顔を向けると、同じように生垣の影にしゃがんで、じっとテラス席を見上げる少年がひとり。

 上流寄宿学校パブリックスクールの制服らしい黒の上下に、校章の入った黒いネクタイ姿。

 その真剣な横顔に、どこか見覚えが……あっ!

「ナツ……! どうしてここに!?」

 アナベラは思わず手を伸ばし、少年の左腕を掴んでいた。



「えっ! 誰っ……!?」

 驚いた顔で手を振り払う、黒髪に黒い瞳の『ナツ』。

「わたしよ、アナベラ! すごいわ、また人間の姿になれたのね!? 

 トムおじいさんは? 一緒なの!?」

『ナツ』に詰め寄ったアナベラが、矢継ぎ早に質問を投げかける。

「アナベラ……って、ギボン子爵家の?」

「何よ今更! いっつも兎穴で、一緒に遊んでるじゃない――子ウサギのナツちゃん?」


 その言葉に

「はぁっ!? いくら姉様が『バニー』って呼ぶからって、初対面の君が『子ウサギ』なんて――失礼だぞっ!」

 顔を真っ赤にして、怒る少年。


「えっ……ナツじゃないの? じゃあ、あなた誰?」

「僕はバーナビー・セロウ! ソフィー・セロウの弟だ!」

 きょとんとしたアナベラの問いかけに、ナツそっくりの少年は胸を張って答える。


「「ソフィー先生の弟さんっ……!?」」

 元悪役令嬢とメイドは、揃って口をあんぐり開けた。



「先生の弟さんに、失礼な事を言って――本当にごめんなさい。

 改めまして、アナベラ・ギボンです」

 ちょこんとスカートを摘まんで、しょんぼりと、謝罪と挨拶をする元悪役令嬢。

「アナベラ様付のメイド、ベティと申します。失礼の数々、お許しください」

 その後ろで深々と、頭を下げるメイド。

「いや、僕の方こそ。いつも姉が、お世話になっている方たちに――言い過ぎました。ごめんなさい」

『反省してます』の顔で、バーナビーも二人に謝罪をした。


 ほっとしたように顔を上げたアナベラが、

「そういえば先生から、お写真を見せて頂いた事があるわ。

『バニー』って呼び名の事も」

 にっこりと笑いかける。


「うっうん! 姉様と母様にだけ、小さい頃からそう呼ばれてて」

「そうなの――もし良かったら私も、『バニー』って呼んでもいいかしら?」

 ちょこんと首を傾げながらの、アナベラの問いかけに

「もっ、もちろん!」

 頬を染めたバニーが、大きく頷いた。



 さてその頃、テラス席では

「先日、先生の母上に『お嬢さんの求婚者からご挨拶』の手紙を差し上げたけど――失礼じゃなかったかな?」

 心配そうに話すイーサンに、

「母から連絡を貰って、びっくりしました! わたしには先に、話して欲しかったですわ」

 眉を寄せて珍しく、拗ねた顔を見せる先生。

「ごめん! 急に思い付いたから……」

 しょんぼりと謝る次代公爵に、思わずソフィー先生がクスリと笑った。


「『いきなりで驚いたけど、きちんとした良い方ね』って言ってくれました。

 でも母から話を聞いた弟が……」

「弟さんが?」

「前にもお話しましたけど、私の事を『世間知らずだから』って、とても心配していて」


『「次代公爵」なんて、詐欺師に決まってる! 絶対に気を許しちゃダメだよ、姉様!』と、わざわざ寄越した電報を思い出して、へにゃりと困り眉になった先生。


「確か、13歳だっけ?」

「えぇ、今年から寄宿学校に入学して。

 あら、やっと戻って来た……まぁっ、バニー!?」

 帰って来たアナベラ達に目を向けて、がたんっと思わず立ち上がった、ソフィー・セロウに

「久しぶり――姉様」

 アナベラの後ろから、バーナビー・セロウが、気まずそうに手を振った。



「どうしてここに? 学校は……!?」

 驚いた顔の姉に、

「週末に、外泊許可を貰ったんだ。この後、母様に会いに帰るよ。

 姉様が今日ここに来るって、手紙に書いてあったから」

 じっと、銀髪の後ろ姿を睨みながら、弟が答える。


「ソフィー姉様……その人が?」

「あっ、紹介するわね! こちらはイーサン・ウルフ様。私の、そのっ……」

「『求婚者』だ。やあ、バーナビー!」

 くるりと振り返った次代公爵を見て

「えっ――イーサン先輩!?」

 バニーことバーナビー・セロウが、目を丸くして声を上げた。


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