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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編12】わたしの太陽1

今回は、少し長めの全5話。

『外堀埋め士』イーサンとソフィー先生の、番外編10の続きのお話になります。

毎日更新します。


 ウルフ公爵邸のお茶会からしばらくが経ち、秋の風が吹き始めた9月の終わり。


 兎穴(ヘア伯爵邸)に滞在中のソフィー先生一行を、訪ねて来たイーサンが、

「再来週ストランドのバラ園で、『新種のバラの品評会』があるんですよ。

 ご都合が合えばアナベラ達と、ご一緒にいかがですか?」

 ピンクのバラのイラストが美しく印刷された、パンフレットを手渡しながら、さり気なくデートに誘った。


「まぁっ『新種のバラ』の……!? それはぜひ、拝見したいですわ!」

 紅茶色の瞳をキラキラ輝かせる、ソフィー・セロウ先生。

「わたしも行きたいっ! お父様にお願いしてみるわ!」

「この前の『トラベルガーデン』も夢のようでしたけど。首都のバラ園もステキでしょうね!」

 アナベラとメイドのベティも、声を弾ませる。


「みんなで行けたら楽しいわ、きっと。

 あらっ、『オールドローズにシュラブ系を掛け合わせた新種』ですって!

 どんな形かしら……早く確認したいわ!」

 パンフレットの解説を読んでうっとりと、『まだ見ぬバラ』に思いを馳せる先生。

「うん……二人きりなら、もっと嬉しいけど」

 そんな先生をうっとりと見つめながら、イーサン・ウルフ次代公爵は、小声でぽろりと本音をこぼした。



 例え婚約をしていても、結婚前の二人だけのデートには、眉をひそめる人も多いこの時代。

 しかもイーサンの立場は『婚約者』ではなく、まだ『求婚者』。


 お茶会の時、プロポーズはした。

「わたしは今、あなたを見ておりました」

 なんて愛らしく、頬を染めた笑顔で言われて……今だ! 今なら、『イエス』を貰える!と、100%確信して。

 なのに、

「ごめんなさい――すぐには、お返事出来ません。もう少し、待っていただけますか?」

 申し訳なさそうに、困り眉で告げて来たソフィー先生。

 ふらっと、ショックでよろめきそうになるのを、グッとこらえて。

「分かりました。ゆっくり考えてください」

 にっこり爽やかに、次代公爵は笑ってみせた。



 あーっ、何かっこつけてんだ俺!

『イヤです! 今すぐ返事をください! もちろん、「イエス」以外は受け付けませんよ!』って、泣き落としすれば――いやいや、そんなカッコ悪い姿、未来の奥方に見せられるか!


『ソフィー・ウルフ公爵夫人』。

 合うーっ……!!(握りこぶし)

 きっと産まれた時から、俺と結ばれる運命だったんだな、きっと!

 まぁ彼女が、『婚約をためらう理由』も、いくつか予想は付くけど。

 さぁて、どこから――外堀を埋めて行くかな?


 爽やかな笑顔のその裏で、『外堀埋め士』は脳内を、高速フル稼働させていた。



「先生! お父様から『皆でおいで』って、お返事が来たわ!」

 ストランドに滞在中のギボン子爵から、無事に許可が下りて。

「例の『ステキな紳士』とお姉様が婚約したから、お母様たち二人は、結婚式の準備に夢中なの!

『ストランド行き? ちょうど良かった! ゆっくり行ってらっしゃい』って、ご機嫌だったわ」

 子爵夫人からも、快くOKを貰い。


 次の問題は、

「何を着て行ったら、いいのかしら?」

 いつの時代も『デートコーデ』は、女性にとっては大問題!


 イーサンからプレゼントされた、白いドレスは半袖。

「出来ればこれを、着て行きたいけど――もう10月に入るし。さすがに季節外れよね?」

「うーん、ちょっと寒そうかも?」

「上からショールを、羽織るとか?」

 アナベラとベティも、レディの服飾事情には詳しくない。


 結局また、兎穴の領主夫人シャーロットと侍女のユナに、相談に乗ってもらうことに。

「でしたら……白いドレスに合わせて、上着をあつらえたらいかがかしら?」

「さすがです、お嬢――いえ奥様! ドレスより少し厚手の生地で仕立てたら、長く着回しが出来ますね!」



 あっという間に、ウルフ家御用達のドレスメーカーが呼ばれ、

「かしこまりました。生地はネルかポプリン。丈は短め。この秋流行のゆったりしたお袖を、肘と手首で引き締めて――お色は白がよろしいかと!」

 てきぱきとデザインを決めたベテラン店主マダムが、次々と取り出した白い布地。


「あのっ、白は汚れが目立つので……黒か濃い茶色で!」

 慌てて告げた、ソフィー先生の希望に、

「そうですね、黒も濃い茶色もステキですけど。白いドレスの上では、浮いて見えてしまいますわ……ほら、この様に」

 トルソーに着せた白いドレスの上から、マダムは暗い色の布地を当ててみせる。


「確かに、上着ばかり目立ってしまうわね?」

「白の方が、しっくり来そうです!」

 シャーロットとユナも、うんうんと賛同して。


「ではやはり、白で参りましょう! 何より、お嬢様に良くお似合いですし! 

 大丈夫です、もし汚れても――ネルもポプリンも、ざぶざぶ洗える素材ですから!」

『色は出来れば、彼女に一番似合う白で!』とあらかじめイーサンから、伝言を受けとっていたマダムはにっこり、白い布地を先生の肩に広げた。



「確かに素敵だわ! でも本当に、大丈夫かしら……?」

 わくわくしながらもまだ少し、心配顔のソフィー先生に

「大丈夫です、先生! おばあちゃん特製の『染み抜き石鹸』を、後でベティさんに渡しておきますから!」

 侍女のユナが両手をグーに握って、こっそりと伝えた。


※イーサンの一人称は『わたし』ですが、心の中では『俺』になります。

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