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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編11.5】天使がやって来た面会日1

今回は短めの全2話。

前回の『月夜のトラベリング・カーニバル』のおまけのお話。

(ですので、『11.5』としました)


寄宿学校の面会日に、シャーロットがやって来るお話です。

こちらの学校は『男子校』ですので、これから巻き起こる騒ぎをお楽しみください。

後編は明日更新します。


 夏休みが終わって、イーサンとジェラルドが、学校に戻ったあの夜。

 空腹に耐えかねて、こっそり寮を抜け出したら、おかしな移動式遊園地トラベリング・カーニバルに出くわして。

 そこで貰った薬のおかげで、シャーロットの病気が治った――摩訶不思議な冒険から、3週間が過ぎた。


「やっぱ、夢だったんだよな?」

 寮の自室に、備え付けの洗面台。

 その小さな鏡をのぞき込み、ネクタイを結びながら、イーサンがぽつんと問いかける。

「『夢』に決まってるだろ!」

 制服の黒いジャケットを羽織りながら、きっぱりとジェラルドが答えた。


「だよな……何かもやもやするけど、まぁいっか。

 今日は久々の外出日! ジェル、街で何食べたい?」

 イーサンが顔を上げ、弾んだ声で尋ねた。

 毎月第3土曜日は、家族との面会日。

 面会の予定の無い生徒達には、午後から半日の外出が認められている。


「う~ん、角のパン屋のソーセージロールか、トマスの店の焼き立てポークパイ。どっちも捨て難い……」

 眉間にシワを寄せて、真剣に悩みだしたジェラルドの声を、

「残念――どっちも無理だな!」

 バターン!といきなりドアを開けた、上級生が遮った。


「「キャンベル先輩……!?」」

 二人そっくりな驚き顔に、くすりと緑の目を細めて。

「ウルフ兄弟、いや従兄弟だったな? 外出届は却下。

 おまえら二人共、学長がお呼びだ。今すぐ『学長室』に行くように!」


 輝く金髪に、整ったかんばせ

『プリンス』とあだ名される、いつもは気さくな4学年上の監督生。

 アーサー・キャンベルが、重々しく告げた。



「よぉ、ウルフ兄弟! 呼び出しだって!?」

「何しでかしたんだ? ウルフ兄弟!」

 急いで身なりを整え足早に、学長室へと向かう途中。

 ウワサを聞きつけた上級生や同級生が、楽しそうにはやし立てる。


「何もしてませんって!」

「だから、兄弟じゃないって!」

 適当に返事を投げ返しながら、

「なぁ――やっぱ抜け出したのが、ばれたのかな?」

「かもな……?」

 頭を抱えるイーサンと、覚悟を決めた顔のジェラルド。


「とにかく、先生方の信頼厚いこの俺が、上手くごまかすから。お前は黙ってうなずいてろ!」

「それは、こっちのセリフだ……!」

 学長室の前で一触即発。

 にらみ合ってから、ふうっと深呼吸。


『もしもケンカになりそうになったら、3回深呼吸をするんですよ?』

 狼城の生き字引で知恵袋、ばあやの教えだ。

「「ま、何とかなるだろ、俺らなら!!」」

 にやりと笑い合った従兄弟二人は、学長室の扉をノックした。



「お入り」

 という低い声に重厚な扉を開き、

「「失礼します……」」

目を伏せて恐る恐る、分厚い絨毯に覆われた部屋の中に、足を踏み入れた二人。

 執務机の脇に置かれた、深い緑色のソファーセットに、学長と男女の来客らしい足元が見える。


『来客?』

 首を傾げた、イーサンとジェラルドの耳に

「兄様っ……!」

 ぽんぽんと弾むような、明るい声が届いた。


 ぱっと顔を上げた二人の目に、飛び込んで来たのは、

 窓から差す明るい日の光に、バラ色の頬と紫の瞳を輝かせた、銀髪の愛らしい少女。


「「ロッティ……!?」」


 ウルフ公爵夫妻――両親の横に、ちょこんと座ったソファから、嬉しそうに手を振る、9歳のレディ。

 イーサンの妹で、ジェラルドにも妹同然の従姉妹、ロッティことシャーロットだった。


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