【番外編11.5】天使がやって来た面会日1
今回は短めの全2話。
前回の『月夜のトラベリング・カーニバル』のおまけのお話。
(ですので、『11.5』としました)
寄宿学校の面会日に、シャーロットがやって来るお話です。
こちらの学校は『男子校』ですので、これから巻き起こる騒ぎをお楽しみください。
後編は明日更新します。
夏休みが終わって、イーサンとジェラルドが、学校に戻ったあの夜。
空腹に耐えかねて、こっそり寮を抜け出したら、おかしな移動式遊園地に出くわして。
そこで貰った薬のおかげで、シャーロットの病気が治った――摩訶不思議な冒険から、3週間が過ぎた。
「やっぱ、夢だったんだよな?」
寮の自室に、備え付けの洗面台。
その小さな鏡をのぞき込み、ネクタイを結びながら、イーサンがぽつんと問いかける。
「『夢』に決まってるだろ!」
制服の黒いジャケットを羽織りながら、きっぱりとジェラルドが答えた。
「だよな……何かもやもやするけど、まぁいっか。
今日は久々の外出日! ジェル、街で何食べたい?」
イーサンが顔を上げ、弾んだ声で尋ねた。
毎月第3土曜日は、家族との面会日。
面会の予定の無い生徒達には、午後から半日の外出が認められている。
「う~ん、角のパン屋のソーセージロールか、トマスの店の焼き立てポークパイ。どっちも捨て難い……」
眉間にシワを寄せて、真剣に悩みだしたジェラルドの声を、
「残念――どっちも無理だな!」
バターン!といきなりドアを開けた、上級生が遮った。
「「キャンベル先輩……!?」」
二人そっくりな驚き顔に、くすりと緑の目を細めて。
「ウルフ兄弟、いや従兄弟だったな? 外出届は却下。
おまえら二人共、学長がお呼びだ。今すぐ『学長室』に行くように!」
輝く金髪に、整った顔。
『プリンス』とあだ名される、いつもは気さくな4学年上の監督生。
アーサー・キャンベルが、重々しく告げた。
「よぉ、ウルフ兄弟! 呼び出しだって!?」
「何しでかしたんだ? ウルフ兄弟!」
急いで身なりを整え足早に、学長室へと向かう途中。
ウワサを聞きつけた上級生や同級生が、楽しそうにはやし立てる。
「何もしてませんって!」
「だから、兄弟じゃないって!」
適当に返事を投げ返しながら、
「なぁ――やっぱ抜け出したのが、ばれたのかな?」
「かもな……?」
頭を抱えるイーサンと、覚悟を決めた顔のジェラルド。
「とにかく、先生方の信頼厚いこの俺が、上手くごまかすから。お前は黙ってうなずいてろ!」
「それは、こっちのセリフだ……!」
学長室の前で一触即発。
にらみ合ってから、ふうっと深呼吸。
『もしもケンカになりそうになったら、3回深呼吸をするんですよ?』
狼城の生き字引で知恵袋、ばあやの教えだ。
「「ま、何とかなるだろ、俺らなら!!」」
にやりと笑い合った従兄弟二人は、学長室の扉をノックした。
「お入り」
という低い声に重厚な扉を開き、
「「失礼します……」」
目を伏せて恐る恐る、分厚い絨毯に覆われた部屋の中に、足を踏み入れた二人。
執務机の脇に置かれた、深い緑色のソファーセットに、学長と男女の来客らしい足元が見える。
『来客?』
首を傾げた、イーサンとジェラルドの耳に
「兄様っ……!」
ぽんぽんと弾むような、明るい声が届いた。
ぱっと顔を上げた二人の目に、飛び込んで来たのは、
窓から差す明るい日の光に、バラ色の頬と紫の瞳を輝かせた、銀髪の愛らしい少女。
「「ロッティ……!?」」
ウルフ公爵夫妻――両親の横に、ちょこんと座ったソファから、嬉しそうに手を振る、9歳のレディ。
イーサンの妹で、ジェラルドにも妹同然の従姉妹、ロッティことシャーロットだった。




