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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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月夜のトラベリング・カーニバル3

 屋台に並ぶ、『フィッシュアンドチップス』と『フィッシュパイ』。

 その隣には『フィッシュケーキ』。


「魚料理ばっかじゃん! おまけに『ジャケットポテト』までツナ味かよ――まぁ,美味いからいいけど?」

『ジャケットポテト』は、皮ごと焼いたジャガイモに十字の切れ目を入れ、上からトッピング(今回はマヨネーズをまぶしたツナ)を、これでもかとかけた料理。

 口では文句を言いながら嬉しそうに、ホクホクポテトをフォークで口に運ぶイーサン。


「ストランドの屋台だと、トッピングはベイクド・ビーンズだったけど。こっちの方が、断然美味いな!」

 頬っぺたをふくらませたジェラルドが、幸せそうに答えた。



 空腹が満たされた二人は、レモネードを飲みながら、お菓子やコットンキャンディ、女子が好きそうな小物や玩具の屋台を見て回る。


「こーゆうの――ロッティが見たら、絶対喜ぶよな?」

「うん……連れて来られたら、いいのにな?」

 しょんぼり話していると、黒とグレーのシックな色合いの布地に、銀色の星が散りばめられた、テントの前で呼び止められる。


「お二人さんっ! 『マダム・ミャウの占いの館』にようこそ! なんと不思議な水晶で、『未来の花嫁』に会えちゃうよ~!」

「いや、俺らはそーゆーの興味ない――うわっ!」

「おい、押すなって!」

「いいからいいから……はいっ、二名様ご案内―っ!」



 客引きに強引に押し込まれた、薄暗いテントの中。

 大きな水晶玉が乗ったテーブルの前に、ベールを被った老夫人が座っている。

「おや、いらっしゃい。さぁ、ひとりずつ前においで」

「――俺から行く」

 手招きされて、ジェラルドがゆっくり、足を踏みだした。


「この水晶玉をよーく見てごらん……中から、お前様の『未来の花嫁』の姿が、浮かび上がるから」

「わかった」

 半信半疑で、のぞいた水晶玉。


「ん……?」

 透き通った玉の奥から、もやもやと白い煙が沸いて来る。

 煙が集まって女性の顔になったと思ったら、そのブロンズ色の髪の『花嫁』が、伏せていた目を上げて、ジェラルドに向かってにっこり笑った。



 交代してイーサンも水晶玉を覗いてから、占いのテントを出て、しばらく無言で歩く二人。

「ジェルお前、誰か見えたか?」

 イーサンが、重い口を開く。

「うん……まぁ」

 照れたようにジェラルドが、軽くうなずいた。


「誰だった? 知ってる人か!?」

「いや、初めて見た――なんか、真面目そうな人だった。眼鏡かけてて」

「眼鏡!? そうか……まぁ、たかが占いだ。あんま、がっかりするなよ?」

 従兄弟の肩を元気付けるように、ぽんと叩いたイーサンが

「ちなみに俺の相手は――金髪で、ちょっと困り眉で、くりんとした大きな茶色の目の――めちゃめちゃ可愛い子だったぞ!」

 得意げに言い切った。


「ライラック持って笑ってたから、花の好きな優しい子なんだな、きっと……!

 あっ、向こうに射的がある! やろーぜ、ジェル」

「うん」

 ご機嫌で走って行く、イーサンの後ろ姿に

「でも、眼鏡の奥の瞳は――すっごくキレイな、菫色だったんだぞ」

 ぽつりと、ジェラルドは呟いた。



「はいっ、大当たりー!」

「「やった!」」

 二人で一つずつ当てた、射的の景品。

「はい、坊ちゃんが『次回カーニバルの招待券』で、こちらの坊ちゃんが『特製コンフェイト』になりまーす!」

 細いつり目の係員が手渡したのは、厚紙に刷られた招待券と、小箱に入った星型のお菓子。


「この招待券、日付けが入ってないぞ?」

 銀色の文字で『ご招待券』と書かれた、夜空色の厚紙を手に、ジェラルドが首を傾げると

「坊ちゃんが『また行きたい』と思った時に、日付けが浮かび上がって来ますんで!」

 係員が、にこりと答える。


「なんだかこの菓子、キラキラ光ってないか?」

 小箱の中を覗き込んだイーサンの、不思議そうな声には、

「当然です! なんたって今夜の空から、摘み取って来たばかりの『お星様』ですから!」

 得意げに答えた。



「星……?」

 箱に指を入れたジェラルドが、一つ摘まんだ菓子を、ぽいっと口に放り込む。

「おいっ、そんなの食べて大丈夫か!?」

 慌てて尋ねるイーサンに

「――美味いっ! 何だか胸がすっとして、元気が出た気がする」

 笑顔でぐっと右手の親指を、立てて見せるジェラルド。


「おっ、さすがお客さん! これを食べれば、どんな病気もたちどころに治る――『魔法のコンフェイト』なんですよ!」

「どんな病気も?」

「たちどころに治る?」

 それって……



「「ロッティだ……!!」」

 顔を見合わせ声を揃えて、ジェラルドとイーサンが叫んだ。


『フィッシュケーキ』は甘いケーキではなく、魚のすり身のコロッケ。

タルタルソースとレモンをかけて頂きます。


『コンフェイト』はポルトガル語で、『金平糖』の名の由来です。


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