月夜のトラベリング・カーニバル3
屋台に並ぶ、『フィッシュアンドチップス』と『フィッシュパイ』。
その隣には『フィッシュケーキ』。
「魚料理ばっかじゃん! おまけに『ジャケットポテト』までツナ味かよ――まぁ,美味いからいいけど?」
『ジャケットポテト』は、皮ごと焼いたジャガイモに十字の切れ目を入れ、上からトッピング(今回はマヨネーズをまぶしたツナ)を、これでもかとかけた料理。
口では文句を言いながら嬉しそうに、ホクホクポテトをフォークで口に運ぶイーサン。
「ストランドの屋台だと、トッピングはベイクド・ビーンズだったけど。こっちの方が、断然美味いな!」
頬っぺたをふくらませたジェラルドが、幸せそうに答えた。
空腹が満たされた二人は、レモネードを飲みながら、お菓子やコットンキャンディ、女子が好きそうな小物や玩具の屋台を見て回る。
「こーゆうの――ロッティが見たら、絶対喜ぶよな?」
「うん……連れて来られたら、いいのにな?」
しょんぼり話していると、黒とグレーのシックな色合いの布地に、銀色の星が散りばめられた、テントの前で呼び止められる。
「お二人さんっ! 『マダム・ミャウの占いの館』にようこそ! なんと不思議な水晶で、『未来の花嫁』に会えちゃうよ~!」
「いや、俺らはそーゆーの興味ない――うわっ!」
「おい、押すなって!」
「いいからいいから……はいっ、二名様ご案内―っ!」
客引きに強引に押し込まれた、薄暗いテントの中。
大きな水晶玉が乗ったテーブルの前に、ベールを被った老夫人が座っている。
「おや、いらっしゃい。さぁ、ひとりずつ前においで」
「――俺から行く」
手招きされて、ジェラルドがゆっくり、足を踏みだした。
「この水晶玉をよーく見てごらん……中から、お前様の『未来の花嫁』の姿が、浮かび上がるから」
「わかった」
半信半疑で、覗いた水晶玉。
「ん……?」
透き通った玉の奥から、もやもやと白い煙が沸いて来る。
煙が集まって女性の顔になったと思ったら、そのブロンズ色の髪の『花嫁』が、伏せていた目を上げて、ジェラルドに向かってにっこり笑った。
交代してイーサンも水晶玉を覗いてから、占いのテントを出て、しばらく無言で歩く二人。
「ジェルお前、誰か見えたか?」
イーサンが、重い口を開く。
「うん……まぁ」
照れたようにジェラルドが、軽く頷いた。
「誰だった? 知ってる人か!?」
「いや、初めて見た――なんか、真面目そうな人だった。眼鏡かけてて」
「眼鏡!? そうか……まぁ、たかが占いだ。あんま、がっかりするなよ?」
従兄弟の肩を元気付けるように、ぽんと叩いたイーサンが
「ちなみに俺の相手は――金髪で、ちょっと困り眉で、くりんとした大きな茶色の目の――めちゃめちゃ可愛い子だったぞ!」
得意げに言い切った。
「ライラック持って笑ってたから、花の好きな優しい子なんだな、きっと……!
あっ、向こうに射的がある! やろーぜ、ジェル」
「うん」
ご機嫌で走って行く、イーサンの後ろ姿に
「でも、眼鏡の奥の瞳は――すっごくキレイな、菫色だったんだぞ」
ぽつりと、ジェラルドは呟いた。
「はいっ、大当たりー!」
「「やった!」」
二人で一つずつ当てた、射的の景品。
「はい、坊ちゃんが『次回カーニバルの招待券』で、こちらの坊ちゃんが『特製コンフェイト』になりまーす!」
細いつり目の係員が手渡したのは、厚紙に刷られた招待券と、小箱に入った星型のお菓子。
「この招待券、日付けが入ってないぞ?」
銀色の文字で『ご招待券』と書かれた、夜空色の厚紙を手に、ジェラルドが首を傾げると
「坊ちゃんが『また行きたい』と思った時に、日付けが浮かび上がって来ますんで!」
係員が、にこりと答える。
「なんだかこの菓子、キラキラ光ってないか?」
小箱の中を覗き込んだイーサンの、不思議そうな声には、
「当然です! なんたって今夜の空から、摘み取って来たばかりの『お星様』ですから!」
得意げに答えた。
「星……?」
箱に指を入れたジェラルドが、一つ摘まんだ菓子を、ぽいっと口に放り込む。
「おいっ、そんなの食べて大丈夫か!?」
慌てて尋ねるイーサンに
「――美味いっ! 何だか胸がすっとして、元気が出た気がする」
笑顔でぐっと右手の親指を、立てて見せるジェラルド。
「おっ、さすがお客さん! これを食べれば、どんな病気もたちどころに治る――『魔法のコンフェイト』なんですよ!」
「どんな病気も?」
「たちどころに治る?」
それって……
「「ロッティだ……!!」」
顔を見合わせ声を揃えて、ジェラルドとイーサンが叫んだ。
『フィッシュケーキ』は甘いケーキではなく、魚のすり身のコロッケ。
タルタルソースとレモンをかけて頂きます。
『コンフェイト』はポルトガル語で、『金平糖』の名の由来です。




