【番外編11】月夜のトラベリング・カーニバル1
今回も全4話。
上流寄宿学校の学生だった、14歳のイーサンとジェラルド。
少年たちの一夜の冒険を、お楽しみください。
毎日更新します。
これはまだ、イーサンとジェラルドが、14歳の時のお話。
長い夏休みが終わり、9月の新学期が幕を開ける時。
寄宿学校に戻った2人は、2年生に進級した。
「やったー! 今年から2人部屋だ!」
寮の新しい部屋に荷物を運び入れながら、にんまり笑うイーサン。
「去年の6人部屋も、まぁ楽しかったけど。ジェルと二人の方が、やっぱ落ち着くな? 狼城にいるみたいで」
「そうだな……今にもそこの扉から、ロッティが顔を出しそうだ」
ジェラルドの沈んだ声に、思わずイーサンも、入口の扉に顔を向けた。
『イーサン兄様、ジェル兄様……!』
ちょこんと幼い笑顔をのぞかせる、長い銀髪の愛らしい姿を、それぞれ思い浮かべながら、
「ロッティ……少しは良くなったかな?」
「咳が辛そうで、見てられなかったな?」
二人そろって、ため息を吐いた。
夏休みが終わる少し前――イーサンの妹、ジェラルドにも妹同然の従姉妹――ロッティことシャーロットが、季節外れの風邪をひいた。
コンコンと、咳をしてるなと思っている内に、熱が出て。
酷く咳き込むようになり、食事も喉を通らなくなってしまった。
慌てて医者を呼び、診察を受け薬をもらっても、中々良くならない。
「きっとすぐに元気になるから。心配しないでお前たちは、学校に戻りなさい」
父親と叔父にあたるウルフ公爵に諭されて、心を半分シャーロットの傍に残しながら、学校に戻ったイーサンとジェラルドだった。
「屋敷を立つ前に会ったとき、可哀想で上手く話せなかったよ」
イーサンが悔しそうに、くしゃりと前髪を握る。
枕に乗った小さな顔に『長期休暇には、飛んで帰ってくるから!』と、励ますように声をかけたら、熱で潤んだ瞳を涙でいっぱいにして、こくんとうなずいた。
「俺もだ……」
どんっと、拳を壁に打ち付けて、言葉少なに呟くジェラルド。
こほこほと出る咳の合間に、『いってらっしゃい』とささやいた、心細そうな声を思い出すと、今すぐにでも飛んで帰ってあげたい。
でも
「今週末、『外出許可』は無理か?」
「ムリに決まってるだろ? 新学期、始まったばかりだぞ」
「そうか……」
イーサンの答えを聞いて、両開き窓をガタンと開いたジェラルドが、傍に枝を伸ばしている、樫の大木を見つめ
「よしっ!」
とうなずいて、窓枠に右膝を乗せる。
「待て待てっ! 『よし』じゃないだろ!?」
右手で枝を掴もうとした所で、慌てて羽交い絞めして来たイーサンに、引き戻された。
「ったく、無断で家に帰ったりしたら、そっこー『停学』だぞ!?」
「すまん……」
本気で叱る従兄弟に、しょんぼり頭を下げるジェラルド。
「まぁ、すぐに会いたい気持ちは、俺も一緒だけど」
でも、それは無理だから。
「だからせめて……手紙書こうぜ!」
イーサンがレターセットを手に、にやりと提案した。
「手紙……か」
「読んだロッティが元気になるような、とびきり面白いヤツ!」
「よしっ、書こう!」
という訳で自習室にこもり、頭を捻りながら、便箋にペンを走らせる二人だったが。
「……書けたか、イーサン?」
「『ロッティ、具合はどうだ?』まで……」
「たった一行か? 俺は、もう三行書いたぞ! 『元気になったら、何が食べたい? ソーセージロールか? フィッシュアンドチップスか?』って」
「それ、自分が食べたい物だろ!?」
わいわい突っ込んでいると、ペンの進みは、ますます遅くなり。
「やばっ――もう9時だぞ!」
「なんだと……! まさか夕飯、食べ損ねたのか!?」
「しかもあと一時間で、消灯だっての!」
二人の少年の顔はみるみる、青ざめて行った。




