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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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女神の前髪3

「せんせーっ……! お花の調査は終わった!?」

「えぇ、終わったわ! あなた方を放っておいて、ごめんなさいね」

 アナベラ達が西の森から戻って来た時、ソフィー先生もちょうど、最後の花房を数え終えた。


「全然へーき! あのね、大きな鹿がいたの! それにリスも――とっても可愛い目してたわ!」

「大丈夫です! 今日の目的は、先生の『ライラック調査』ですから」

 力強く(うなずいた、元悪役令嬢とメイド。


「あの――こちらを。本当にありがとうございました」

 腰から外した黒い上着を、小さな葉っぱを払ったりシワを伸ばしたり、出来るだけ綺麗にしてから、そっと先生が差し出す。

 上着の上には、庭師に切ってもらった、淡いピンク色の薔薇のつぼみが一輪。

「お役に立てて良かった……じゃあ、そろそろお茶にしましょうか?」

 返された上着をさっと羽織り、薔薇のつぼみを大切そうに、襟のフラワーホールに挿してから。

 次代ウルフ公爵が、にこやかに声をかけた。



 噴水の奥にある四阿ガゼボに用意された、スコーンにサンドイッチ、イチゴやベリーを使った数種類のケーキやタルト。

「わあっ……どれも美味しそう!」

「好きな物を、好きなだけ取っていいよ、アナベラ」

「飲み物も、ステキですね!」

「ほんとね、ベティ。見た目から涼しそうだわ」


 大きなガラスのピッチャーに用意された、薄切りのオレンジがたくさん入ったアイスティー。

 軽々と持ち上げたイーサンが、4個のフルートグラスに注ぐ。

「どうぞ、ソフィー先生」

 グラスを差し出され、

「ありがとうございます」

 こくりと一口飲めば、爽やかな味と香りが、口の中いっぱいに広がった。


「いかがですか?」

「とっても美味しいです! オレンジ入りなんて、初めて頂きました」

「これは、ウルフ家の特製ですから!」

 得意げなイーサンの声に

「た、ま、た、ま、レモンが無かった時、代わりに入れてみたら、大成功だったのよねー!?」

 楽しそうな、女性の声が重なる。

「えっ……?」


 一同が振り向いた先には――ゆるく一つにまとめた銀髪に、金糸の刺繍で縁取られたオーキッド(蘭の花)色のドレスをまとい。

 紫の瞳で、優雅に微笑む、妙齢の女性が立っていた。



『シャーロット様にそっくり……イーサン様のお姉様かしら!?』

 慌てて立ち上がったソフィー先生が、左足を斜め後ろに引き、右膝を軽く曲げ、ドレスを両手で押さえて、優雅に挨拶をする。

「はじめまして、ソフィー・セロウと申します。アナベラ・ギボン子爵令嬢の、付添で参りました。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」


「まぁっ――綺麗な発音とカーテシーですこと」

「恐れ入ります」

 褒められて、ほっとした所に

「『家庭教師』風情ふぜいが。一体どこの路地裏で、覚えたのかしら?」

 鋭い棘を隠した薔薇のように、辛辣しんらつな言葉が飛んで来た。



「なっ……! なんて失礼な事をっ!?」

 ガタンッと立ち上がったイーサンが、怒りに震えた声で、女性に詰め寄る。

「彼女に――ソフィー先生に謝ってください! 今すぐ!」

「……イーサン様、お待ちください」

 いきり立つ次代公爵を、落ち着いた声で止めた先生が、すっと前に出る。


 ウエストの前できゅっと両手を重ね、すうっと息を整えてから

「確かにわたくしは、家庭教師をしておりますが、亡き父はセロウ卿。礼儀作法は、幼い頃から身に付いたものです。

 決して、『付け焼き刃』ではございません!」

 きりりと言い放ち、紫の瞳をまっすぐに見つめる。


 しばし紅茶色の瞳と、見つめ合った後、

「ブラボーッ……!」

 にんまり、瞳を細めた女性が、満足気に両手を叩いた。



「見た目通りに砂糖細工みたいな、か弱いお嬢さんかと思ったら――中身はみっちり詰まった、スコーンみたいな方なのね! 気に入ったわ!」

「あの……?」

 戸惑う先生の手を、両手できゅっと握って

「あなたを試す様な、失礼な事を言って、本当にごめんなさいね。それで……結婚式は、いつ頃がいいかしら?」

 うきうきとたずねて来る、謎の女性。

「『結婚式』、ですか……?」

 一体誰の?と、ソフィー先生が首を傾げたとき


 はーっと、右手で額を押さえたイーサンが

「先走り過ぎですよ……母上」

 深いため息と共に、女性に告げた。



「母上……!?」

「えっ、イーサン様のお母様ですか!?」

「そんなに若くて、シャーロットお姉様そっくりなのに!?」

 驚く先生とメイド、そして、あんぐりと口を開けた元悪役令嬢。


「まぁっ――娘とそっくりなんて、最高の誉め言葉よ! 嬉しいわ、アナベラちゃん?」

 シャーロットと、まるで双子の様な美しい顔で、にっこり微笑み。

 ユージェニー・ウルフ現公爵夫人は、ばちーん!と、片目をつぶって見せた。


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