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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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ハッピー・ライラック4

「えっ、採用……本当ですか!?」

「もちろん。セロウという珍しい苗字……父上は、植物学博士でもいらした、セロウ卿ですね?」

 優しく尋ねたイーサンに、候補者は大きくうなずいた。


「はいっ! 父をご存じでしたの?」

「大学で、講義を拝聴した事があります。とてもユニークで楽しい授業でした。事故で亡くなられたのが、本当に残念です」

「おそれいります……」

 ふっと涙ぐむレディに、そっとハンカチを渡して

「確か伯父上のセロウ伯爵が、ご家族の後見人だと伺いました。なのに、なぜあなたが、家庭教師や学校教師に?」

 不思議そうに、イーサンは問いかけた。


「母や幼い弟への援助は、有難くお受けしています。

 でもわたしはもう18歳、独り立ち出来る年齢ですわ」

 18歳……普通なら社交界デビューをして、舞踏会やお茶会やピクニック、ふわふわと夢の様に、楽しい日々が待つ年頃なのに。


「それに、わたし――教える事が好きなんです」

 にっこりと誇らしげな、その笑顔に見惚れたとき、


「イーサン様、お探ししましたよ! こんな所に!」

 そこで、案内人に見つかって、

「それでは、これで……父上に負けない、良い先生になってください!」

 後ろ髪を引かれる思いで、面接会場を後にした。



「あの時は、きちんとお礼も言えなくて……本当にありがとうございました」

 頭を下げる先生に

「いや、こちらこそ申し訳ない――何ですぐに、思い出せなかったのか!」

 断腸の思いで謝罪する、次代公爵。


「あらっ、実は――わたしが思い出したのも、つい先ほどですわ」

「先ほど……?」

「エントランスで。わたしの品定めをしていた方を――またこれで、黙らせてくださったでしょう?」

 ソフィー先生はにっこり、手のひらを開いて、カチカチのエンドウ豆を差し出した。


「まさか……見えて、いた?」

「えぇ、わたし目がいいんです。植物の緑は、目に優しいんですよ」

 そこへ

「ソフィー先生! すごいわ……!」

「その『エンドウ豆』、一体どこから!?」

 アナベラとベティが、茂みから飛び出して来た。



「アナベラのポケットから、さっき落ちたのよ。ジェラルド様に『豆(はじ)き』教わってから、いつも数粒入れてるでしょ?」

 にっこり答える先生の横で、イーサンが目を丸くする。

「2人共――どこから現れたんだ!?」

「正面の茂みからよね? ちらちら、白とグリーンのドレスが、見えてたわ」


「先生すごーい!」

「ソフィー先生に分からないことって、あるんですか!?」

 真面目な顔で、ベティに問われて

「そうね、例えば――このライラックがイーサン様に、どんな幸運をもたらすのか――それはさすがに、分からないわ」

 すました顔で答えた。



「ライラックといえば……ウルフ家の庭に、ハッピーライラックが何十個も付いた房ばかり、る木があるんですよ」

 何気なくさり気なく、イーサンが口にした途端、

「なんですって……!」

 勢いよく、ソフィー先生が向き直る。


「シャーロットが小さい頃発見して、『不思議だなぁ』って、ジェルと三人でよく眺めてました」

「そのライラックの木、まだあるんですか!?」

 勢いよく尋ねる先生に

「はい。興味がおありでしたら、見に来られますか?」

 にっこりと、イーサンが答えた。


「アナベラとベティも一緒に、花が散る前に――ストランドから戻ったらなるべく早く、ご招待しましょう」

「ありがとうございます! 必ず伺いますわ!」

 まだ見ぬ『貴重なライラック』に思いを馳せ、瞳を輝かせるソフィー先生。



「ねぇベティ、これってもしや――ライラック目当てで伺ったら、ご両親に『未来の花嫁』として紹介されました――って事になったりして?」

「しっ、アナベラ様! その可能性は、大いにあると思います」

「『珍しい植物』で釣るなんて……イーサンお兄様、やるわね」

「そういえば、ユナさんが言ってました。

『ウルフ家の男性は、慎重に外堀から埋めるタイプ』ですって!」


 ベティとアナベラが、こっそり見つめる先には、

『ウルフ家のライラック』について、夢中で質問責めをするソフィー先生と、丁寧に答えながら、右手でこっそりガッツポーズを取る、イーサン・ウルフ次代公爵。



 『先生の金の髪に、ちらちら落ちる木漏れ日が、まるで花嫁のベールみたい……』

 アナベラ・ギボン子爵令嬢は、嬉しそうに、大好きなベティの手をぎゅっと握った。


『ハッピー・ライラック』完結しました。(3話の予定が4話に)

植物オタクの天然ソフィー先生と、惚れっぽいくせに、本命には外堀から埋めるタイプのイーサン。

拙いお話ですが、二人の恋と、元悪役令嬢を取り巻く変化を、楽しんで頂けたら嬉しいです。

ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。


次回はこのお話の続きを、予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります!


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― 新着の感想 ―
[一言] 後書きに書いてあったトラベルガーデンのモデル、少し調べたのですが、とっても素敵ですね! ソフィー先生達がこういう所を歩いていたのかな〜と想像するとニコニコしてしまいます( ´∀`人) ソフィ…
[良い点] 植物園がリゾートのようなイメージで素敵でした! はしゃぐアナベラちゃん、可愛いです!! 外堀を埋めにかかるイーサン、最高です!! こういうキャラ好きです!!
[良い点] 本命は、外堀から埋める家系! 虎視眈々と術中にはめていく腹黒さ(失敬!)はやはり血筋でしたか(*´ω`*) 思わず茂みから出てきちゃうアナベラが可愛すぎますね♡ 天然なソフィー先生と、策…
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