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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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くまのジェラルド2

「ぼっちゃま方、スポーツ用品の店までは、馬車で行かれますか?」

 付添の従僕に聞かれて、

「いや。他の店も見たいし、歩いていくよ」

 答えるイーサンの横でうなずきながら、ふと何気なく傍の店を眺める。

 ショーウィンドウに並ぶ、いかにも高価そうな人形が、ジェラルドの目に飛び込んで来た。


『ロッティに、似てるな……』

 長い睫毛を伏せた人形の、どこか寂しそうな表情が、見送りの時の、従姉妹の顔に重なった。


『行ってらっしゃいませ……イーサン兄様、ジェル兄様』

 しょんぼりと告げて来た、小さな妹。

 パブリックスクールの話が出る度に、悲しそうな目で、唇をきゅっと結ぶ事に、気が付いていた。

 今までずっと一緒だった俺たちに、置いて行かれるのが――寂しくてたまらないんだろう。


『二人が入学したらシャーロットにも、女性家庭教師ガヴァネスを付けましょう』

 と叔母上が言ってたな。

 良い人が来てくれるといいけど、離れ離れになるのは変わらない。

 それでも、『寂しい』とか『行かないで』とか、ひと言も言わずに我慢しているのが、いじらしくて可愛い。


『せめて、なにか土産を……』

 じっと、おもちゃ屋のウィンドウを見つめるジェラルドの横で、

「どした、ジェル? 何か欲しい物でも――ぷっ!」

 つられて目を向けた従兄弟が、急に吹き出した。


「何、笑ってんだ?」

「だって……」

 不思議そうな問いかけに、笑いの収まらないイーサンが、震える指で、ショーウィンドウを指す。


「あのクマ……お前そっくり!」


 指の先をたどれば、淡い茶色のテディベアが、どこかのんびりした表情で、こちらを見つめていた。



  ◇◆◇◆◇

「まぁ――それがこの、クマさんだったんですか?」

 ユナの問いかけに、

「そうなの、ストランドから帰ったジェル兄様が『お土産だ』って、渡してくださって。

『俺の代わりに、こいつがいつも、ロッティのそばにいるから』って」

 11年前と同じ表情で、幸せそうにきゅっと、テディベアを抱き締めるシャーロット。

「ヴァイオレット先生とアナベラさんにも見せたくて、連れて来たのよ」


「何てお優しい……!」

「ジェラルド様は昔っから、それはそれはお嬢様を、可愛がってらっしゃいますから!」

 目を潤ませた、侍女と乳母の賛辞に、

「いや、妹を可愛がるのは当然だろ? そうか――俺はクマに似てるのか」

 海軍大尉はつぶやきながら、照れたように前髪をかき上げた。




「……ミック、聞いたな?」

「はい。兄妹愛、素晴らしいですね!」

 温室の、少し開いた扉の陰で、こそこそと話す、領主と従者。


「そこじゃない……! いいか? すぐにヘア村と、近郊のおもちゃ屋を当たれ!」

「『おもちゃ屋』? 何でまた……」

「決まってるだろ――わたしの顔にそっくりの、『ウサギのぬいぐるみ』を探すんだ!」

 ぴしっと言い放った、ウィルフレッド。

 しばし呆然とした後、ふーっ……深いため息の後に、ミックは顔を上げる。


「ウィルフレッド様……東洋には『二番煎じ』と言う、言葉がございます」

「うん? どういう意味だ?」

「『一度煮出したお茶を、また煮出す事』で――要するに、『ただ真似するのは、芸がない。つまらない』事の例え」

 すっと細めた、ハシバミ色の目で、青灰色の瞳を見据えて。



「つまり、ユナ流に言うと……『たっとくない』という事です!」

 ぐっさり、ウィルフレッド・テレンス・ヘア伯爵に、とどめを刺した。


『くまのジェラルド』完結しました。

「俺はクマに似てるのか」というジェラルドのつぶやきは、番外編6のバレンタインプレゼントに繋がっています。

拙いお話ですが、ちびっこ達の可愛さを、楽しんで頂けたら嬉しいです。

ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。


次回はウィルとロッティ、甘々新婚さんのお話を予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります!


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― 新着の感想 ―
[一言] 学生時代のイーサンさんとジェル兄、ハリー・ポッター的な制服と校舎を想像しました。とても仲良しな従兄弟でほっこりします。 私の中でなんとなく、海外の方は従兄弟も兄弟のように仲良いとイメージあり…
[一言] 番外編拝読させて頂きました! 読み終えるのが勿体無くて、とっておきの癒しタイムにちょっとずつ読んでました! 壱邑さんのお話はやっぱり本当にどれも可愛くてとっても癒されます〜!( ´∀`) ど…
[良い点] ここまで読了しました(//´Д` //) 本編では語られなかったエピソードを番外編で語られる。 可愛さと胸きゅん要素が詰め込まれたエピソードの数々は、とても癒されました(っ ॑꒳ ॑c)…
感想一覧
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