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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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果てしなく遠回りな?プロポーズ5

 ストランドの寄宿学校で、最初に担当した、13歳の少女『ルビー』。


 裕福な地主階級ジェントリの令嬢なのに、母親を亡くした幼い頃から、父親の虐待を受けていた。

 それは、暴力的な物では無く。



「えっ? 字が読めないし、書けない? 自分の名前も……⁉」

「はい。父から、『女に読み書きは、必要ない』と、言われて来ましたので」

 淡々と話す少女は、『学校では、社交界で必要な、礼儀作法とダンスだけ、習えばいい!』という、父親の指示に従うだけの、あやつり人形のようだった。


 ベテランの先生方や、成績優秀な上級生が、いくら手を尽くしても、勉強にも学友にも、全く興味を示さない。

 授業中も自由時間も、ただうつろな目で、座っているだけのルビー。

 いつの間にか、からかい交じりに、『いらない子』と、呼ばれていた。



 そんなある日、ヴァイオレットは、彼女を中庭に、連れ出した。

 枯れ葉を積んだ、小さな山の前で

「さぁ、ルビー! ここに火を、付けてごらんなさい!」

 おかしな事を、言い放つ教師に

「そんなの――メイドにやらせれば?」

 無表情のまま、少女は、ぽつりと返した。


「ノーグッド!――ここは『無人島』。メイドはいないわ!」

「は……?」

 初めて、きょとんと、目を見開いたルビーに、

「そういう『つもり』で、考えるゲームよ?」

 にっこりと、ヴァイオレットは告げた。


「じゃあ……マッチ?」

「あーっ、残念! 海水で濡れて、使えません!」

 やっと考えた答えを、即座に否定されて、むっとした顔の少女に

「もう、降参?」

 からかう様に、先生がたずねると


「……まだよ!」

 きっ!と、

 悔しそうに、顔を上げた。


 

「覚えてますよ……?」

 にっこり、ジェラルドがうなずく。


「木をこすったり、石を打ちつけたり――先生のヒントに、助けられながら――最後はメガネのレンズで、日光を集めて、ついに火を、付けたんですよね⁉」

「そう! 成功した時の、あの子の顔……忘れられないわ!」


『先生! 世界には……わたしの知らない事が、たくさんある!!』

 初めて、目が開いた赤ん坊のような、驚きと、かすかな不安。

 そして、喜びに満ちた――ルビーという名前通りに、美しく紅潮した笑顔。


「きっと二度と、忘れない」

 教師になって、良かったと。

 これからも、たくさんの『ルビー』を育てたいと、心から思った。

 だから。



「ジェラルド――あなたの無事を、心配しながら、屋敷を切り盛りして。傷病兵の支援や、慈善活動に当たったり。

 赴任先に同行して、そちらの社交界で、あなたをサポートする事は――教師の片手間に、出来る事では、ありません」


 何度も、幾夜も考えて、出した結論を、淡々と伝える。

 少しだけ、語尾が震えたのには、気付かれていないはず。

『あなたにはきっと、わたしよりずっと、相応しい方がいる』


「そうか……分かった」

 ぽつりと答えて、ゆっくりと立ち去る、大好きなネイビーブルーの、大きな背中。

 追いかけたい自分を、引き止めるのに、必死だった。



 それが、1月の初め。

 もう二人きりで、会う事もない。

 今年から、バレンタインカードも、来るはずない。

 そう思っていたのに。


 バレンタイン当日に届いたのは、

 いつもの木彫りの……ジェラルドに似たクマの人形と、小さな長方形の『ジュエリーボックス』。


 中に入っていたのは、ダイヤがはめ込まれた、菫の花をかたどったブローチ。

 中央から、小さなエナメルの時計が、下がっている。


 同封された手紙には

『たとえ、どんな困難があっても、俺が倒して、乗り越えます。

 ヴァイオレット……これからの人生、一緒に時を、刻んでください』



 春になったら船を降りて――以前からの希望だった、後輩の育成にあたる、指導教官になる――とも書いてあった。


 海軍士官学校は、ヘア村から、そう遠くはない。

 首都は今、空前の『鉄道ブーム』。

 路線がここまで伸びたら、ほんの数時間の距離だとも。


『ヘア村近郊に、小さな屋敷を買って、コックとメイドを雇って。週末にはゆっくり、一緒に過ごそう。

 結婚の事、ウルフ公爵夫妻は、喜んでくれている。』


 色々な障害を、ひとつずつ乗り越えて。

 二人にとってベストな、今後の道筋を立ててから、再度伝えてくれたプロポーズ。



◇◆◇◆◇

『少しだけ、遠回りだったけど。そんなに、果てしなくでも、なかったのよ?』


 急いで用意して送った、お返しのプレゼントは、『懐中時計』。

 カードには

『わたしも、同じ気持ちです。グッドよ……!』

 そろそろ、港に戻った、ジェラルドの手元に、届いた頃かしら?


 カードを見た時の、笑顔を思い浮かべながら


「その質問は、ノーグッド! いくらあなた達にでも、秘密です」

 ジェラルド本人より先に、答えを教えるなんて……!



 ヴァイオレット先生は、胸に飾ったブローチを撫でながら。

 元教え子と侍女に向かって、それは綺麗に、笑ってみせた。



『果てしなく遠回りな?プロポーズ』完結しました。

拙いお話ですが、先生とジェラルドの、遠回りなゴールインを、楽しんで頂けたら嬉しいです。

ブックマークや評価(ページ下の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。


『いらない子』ルビーのその後は……母方の祖父母に、『手紙』で現状を訴え、驚いたおじい様がすぐに、孫娘を引き取る事に。

大学進学を目指しながら、幸せな日々を送っています。


次回はGW頃、シャーロット目線のお話を、予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵なプロポーズでした( 〃▽〃) 特に木彫りの人形の演出が、とても良かったです! バレンタイン当日に届いたのは、どんな人形だったのか。想像するのも楽しいです。 それから、ジェラルドがヴ…
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