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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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果てしなく遠回りな?プロポーズ4

 半年ほど前、久しぶりに、ストランドで会って。

 シャーロット達への、お土産選びを手伝った後、ここ、兎穴で再会して。


 元教え子の結婚式が、終わってからも。

 休暇の度に、ヘア村の下宿先に、顔を見せてくれたのは、

 ずっと『弟みたい』と思っていた、優しいひと。


 家主で、ここでの後見人、ターナー先生の許可を貰って、釣りを教えてくれたり、ボートに乗ったり。

 池が凍ったら、スケートしたり。

 授業の準備等で、休日も部屋にこもりがちなわたしを、あちこち、連れ出してくれた。


 いつもは無口なジェラルドが、二人きりになると、思いの外よくしゃべって。

 明るい笑顔を、見せてくれる。



 船上であった、不思議な話――『その近海には、霧の夜に必ず現れる、幽霊船のウワサがあって。ある夜、1時を過ぎた頃。不思議と目が冴えて、甲板に出てみると……』


 立ち寄った港での、わくわくする話――『まるで迷路のような市場で、出口を見失った時、たまたま道案内してくれた男が、東洋に伝わる、武術の達人で……』



 よく通る低い声で、次々と披露してくれる『お話』。

 まるで、小さな子供の様に、「それで? それで?」と、続きをねだっていた。

 そんなわたしを見て、嬉しそうに目を細めて、くしゃりと笑う顔。



「立ったり、歩きながら食べるのは、船乗りのクセなんだ。

 ナイフとフォークを用意して、まずはスープから――なんて食事、船の上じゃ、奇跡に近いから」

 辛い体験ほど、おどけて語る。

 唇の端に少しだけ、苦い笑みを乗せて。

 短めの黒髪をかき上げる、がっしりと長い指。


 ボートから降りる時、揺れに足を取られて、ぐらりと、よろけたとき、

「大丈夫かっ……⁉」

 がっと、両腕を掴まれて。

 怖いくらい真剣な目で、たずねてくれた。



 家族を亡くしてから、初めて。

 こんな目で、わたしの事を、心配してくれる人がいる。

 そのことが、泣きたい位、嬉しくて。


 思わず潤んだ、わたしの目を見て

「あっ――失礼! 決して、怒ったわけでは……えっと、『大丈夫ですか? レディ・シープ』」

 あわてて言い直す、生真面目なその顔が、

 何よりも愛しいと、思った。


 でも



「結婚してください」

 二人だけの、下宿先の客間。

 片膝を付いて、見上げてくるジェラルドに、きっぱりと答えた。


「……無理です」

 答えは、一択。

 それ以外は、あり得なかった。



「無理って、何がです?」

 立ち上がって、静かに問いかける、ジェラルド。

「何もかも――まず、わたしはあなたより、三歳も年上です!」

 貴族社会で、女性が年上の夫婦は、ほとんど存在しない。

 暗黙のルールをやぶれば、たちまち、爪弾きされてしまう世界。


「わたしにはもう、関係ない世界ですけど。あなたは、ウルフ公爵家の一員でしょう? 

 いずれ社交界にも……」

「いえっ! 俺は生涯、軍人一筋と決めています。

 そんな面倒な世界に、関わるつもりは、一切ありません!」

 きっぱりと、言い切るジェラルド。



『……ほらね?』

 予想通りの答えに、すかさずヴァイオレットは、次の手を打つ。


「軍人一筋……?   

 実はわたしも、『教師』が、天職だと思っているの」



 まっすぐに、今は20㎝上にある、濃い茶色の瞳を見上げて、

「ジェラルド、あなたにも少し、話したでしょう? 

『いらない子』の事」


 3年前の出来事を、ヴァイオレットは、語り始めた。


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