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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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Be my Valentine 2

 午後3時過ぎ、最愛の奥方とのティータイムのため、いそいそと温室にやって来た、ウィルフレッド・テレンス・ヘア伯爵。


 誰もいない四阿ガゼボを見て、

「あれっ? シャーロットが遅れるなんて、めずらしいな」

「先ほど、『少しだけお待ちください』と、ご伝言が」

「何だろう――来客かな?」

 従者のミックの言葉に、不思議そうに答えたとき


「遅れて、申し訳ございませんっ……!」

 銀のお盆を、大切そうに捧げ持った奥方が、侍女を従えて、急ぎ足でやって来た。



 黒のシンプルなドレスに重ねた、フリルやレースで飾られた、真っ白なエプロン。

 編み込んでまとめた、銀の髪には、レースやリボンの付いた楕円形の、白いヘッドドレスが、ピンで止められている。


「ろっ、ロッティ! その姿は……⁉」

 あわあわと、声を裏返す領主に

「お待たせしました……ご主人様?」

 ちょこんと、首をかしげて、メイド姿の領主夫人は、恥ずかしそうに微笑んだ。



「うっわ……目開けたまま、気絶してるよ、あの人!」

「よっぽど、嬉しかったんだろーね。わかる、分かるよ……! 

『メイドコス』は、異世界をも救う‼」

「あー……確かに。以前も、エプロン姿の奥方様に、異常に『萌え』てたっけ」

「ご自分も、『アラバスター卿』のコスプレ、めっちゃ楽しそうにしてたもんね!」

 こそこそと話す、従者と侍女の横で、


「ロッティ! 今の『ご主人様』……もう一回!」

「もう、イヤですわ! 恥ずかしい……」

 領主にねだられた奥方が、ぷいっと赤い顔をそむけて、銀盆に乗った皿の、ドーム型のおおいを取った。



「チョコレートケーキ?」

「えぇ……どうぞ」

 テーブルの前に座った領主に、香り高い紅茶と一緒に、差し出された、ココア色のカップケーキ。

 上にハート型が抜かれた、白い粉砂糖が、ふんわりかけてある。

 銀のフォークを取ったウィルフレッドは、ハートを崩さないように、そっと切り分けたケーキを、口に入れた。


「……いかがですか?」

「うん、美味しいよ。甘さが丁度いい」

 もぐもぐと咀嚼そしゃくして、飲み込んでから答えると

「良かった……」

 胸の前で両手を合わせた奥方の、ほっとしたような声が。

 その嬉しそうな声と顔に、恋する領主は、はたりと気が付く。


「ロッティ? このケーキ――まさか、きみが⁉」

「あっ、はい……でも、上手に出来なくて。わたくしは、上に粉砂糖を、振っただけ――きゃっ!」

 もじもじと弁明していると、ぐいっと手を引かれ、あっという間に、ウィルフレッドの膝の上に。


「ありがとう――世界で一番、美味しいケーキだ」

 温かな腕に囲まれて、ちゅっと、こみかめに、甘いキスを落とされる。

「……『世界で一番』は、言い過ぎですわ」

 そっと、黒い上着に手を添わせ、はにかんだ声で、領主夫人がささやいた。



『こほん! ごほんっ‼(訳:それ以上は、二人きりの時に、お願いします!)』と、徐々に大きくなる、ミックの咳払いを合図に、甘々タイムが終了。


 お茶とケーキを、夫婦で楽しんだ後、

「じゃあ、わたしからも……『Happy Valentine's!』」

 ウィルフレッドから、真っ赤なバラの花束と、綺麗にラッピングされた箱が、手渡された。


「まぁっ……ありがとうございます!」

「ロッティのお手製ケーキには、敵わないけど?」

 楽しそうな声で、ぱちんと、片目をつぶる領主。


 ほんわり頬を染めたシャーロットが、ラッピングを取り、箱を開けてみると、中から現れたのは、

「かわいい……」

 両手に乗るサイズの、ドーム型のガラスに入った、愛らしい2匹の、子ウサギの置物だった。


「ハルとナツに、そっくりだわ!」

「うん。ヘア村の工房に注文して、作ってもらったんだ」



 目の高さまで持ち上げて、よくよく見ると、陶器で出来た白い子ウサギに、黒い子ウサギが、薄紫色のリボンの付いた、小さな帽子を、差し出している。


「これって……」

 ぱっと見上げた、紫の瞳が、嬉しそうにうなずく、灰青色の瞳と出会う。

「あの時、の?」

「うん」

 幼い頃、初めて二人が、出会ったシーン。



『あの日の野原』を再現したオブジェを、大切そうに持つ、ほっそりとした手に、大きな筋張った手が、重ねられて、

「もしまた、風に帽子が飛ばされても、何度でも、取りに行ってあげるから」

 優しく、耳元でささやかれる、誓いの言葉。



 懐かしくて、嬉しくて――ふっと、涙ぐみそうになるのを我慢して、シャーロットは答えた。

「ではもし……ウィルが、帽子を飛ばされたら。次はわたくしが、取りに行って差し上げますわ」


「えっ、ロッティが――⁉」

 目を丸くした領主に

「木登りはあれから、ジェル兄様に、特訓してもらいましたの……わたくしでは、ご不満?」

 奥方がわざと、口をとがらせる。

「とんでもない……光栄です、レディ・ヘア」


 ふふっと、小さく笑い合って。

 こつんと優しく、おでことおでこを、くっつけたら

『健やかなるときも、病めるときも』

 幸せな二人の耳に、結婚式の時の、牧師様の声が、聞こえた気がした。




「はわわ~……見た? 見た、ミック⁉ 『思い出のシーンから、誓いの言葉。あーんど、いちゃいちゃリターンズ』……神様! 最っ高のバレンタインプレゼントを、ありがとうございますっ‼」

 胸の前で両手を組み、早口で祈りを捧げる侍女に


「ウン。ヨカッタデスネ……」

 従者は、上着の内ポケットにしまってある、ユナ宛のバレンタインプレゼント――透かし彫りの指輪に、重ね付け出来る様オーダーした、アメジストの『正式な婚約指輪』――を、渡すタイミングを、すっかり見失っていた。



『Be my Valentine』の意味、それは……

『わたしのバレンタイン(特別な人)に、なってください。』





『Be my Valentine』完結しました。

拙いお話ですが、甘々な雰囲気を楽しんで頂けたら、嬉しいです。


ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。

(よろしかったら感想も、お聞かせください)


次回は来月、短めの番外編を予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ロッティの料理下手はヒロインとして最高のシチュエーションと言えますよね。むしろ可愛い(*≧∀≦*) メイドコスも最高です( ง ᵒ̌∀ᵒ̌)ง⁼³₌₃ ミックもやっぱり用意してたのね(-…
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