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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編5】Be my Valentine 1

今回も短めの、全2話。

タイトル通り、バレンタインデーのお話です。

よろしかったら、お立ち寄りください。


後編は明日、更新します。


 2月14日は、『バレンタインデー』。

 世界中の恋人たちが、愛を伝え合う日。

 サウザンド王国でも、それは例外でなく……



 兎穴(ヘア伯爵邸)で、新婚の領主夫妻から全使用人まで、その胃袋をがっちり掴んでいる、料理長が仕切る厨房ちゅうぼう

 奥手にある、小さめのサブ厨房は、晩餐用のデザートや、ティータイム用の茶菓が作られる場所。

 ほんわり温かみのある、ベージュ系でまとめられた、その部屋に、今日は若い女子たちの、楽しそうな声が響いていた。


「皆さん、準備はよろしいですかー⁉」

 デザート担当のキッチンメイド、マイラの問いかけに

「はーい!」

「OKでーす!」

 口々に答える数人の、ハウスメイドの横で

「よろしくてよ……!」

 エプロン姿の領主夫人、シャーロット・ヘア(旧姓 ウルフ)が、胸の前で両手を、ぐーに握りしめた。



 ヘア伯爵ウィルフレッドと結婚して、初めてのバレンタイン。

「何をプレゼントしたら、喜んで頂けるかしら?」

 いつになく、真剣に悩むあるじ

「お嬢――いえ、奥様! 実は明後日、バレンタイン当日のお昼過ぎに、メイド向けの『ケーキ教室』が、ありまして」

 侍女のユナが、こっそりと伝えた。


「ケーキ教室?」

「はい! デザート作りが得意な、マイラが先生になって、希望者に『チョコレートケーキの作り方』を、教えてくれるんです」

「あら、ステキね!」

「よろしかったら、シャーロット様も、ご一緒にいかがですか? 『手作りケーキ』をプレゼントされたら、ウィルフレッド様も、絶対喜ばれるかと」

「それだわ……!」



 という訳で、銀の髪を、きりりとまとめて、家政婦のミセス・ジョーンズが、急いで用意してくれたエプロンを付け、張り切ってのぞんだ『ケーキ教室』だったのだが。


「あらっ、ユナ! どうして、チョコから油が?」

「お嬢、いえ奥様の愛らしさに、チョコも照れて、汗をかいてるのでは?」

「シャーロット様、チョコを溶かす時は『湯せん』で! 直接火に掛けたら、分離してしまいます‼」


「はいっ――生クリーム、泡立てたわ!」

「お見事です! こんな立派な、かたまりが!」

「あーっ……これは、泡立て過ぎですね」


「ユナ、生地にお砂糖を入れたら、よく混ざらないの」

「大丈夫です、無理くりかき回せば!」

「数回に分けて入れると、『だま』にならずに、滑らかな生地が出来ますよ~」


 ケーキ作りの過程が進むにつれ、マイラ先生の顔が、何かを達観した、笑みで固まり。

 それに比例して、領主夫人の顔は、油が切れたランプのように、どんどん暗くなっていく。



「ユナ……わたくし、『お菓子作り』の才能が、全くないのかしら?」

 どんよりと、うな垂れるシャーロットに

「そんなこと事ありません! お嬢、いえ奥様は、才能のかたまりです!」

『推しは正義!』がモットーのユナが、高らかに宣言し、


「そっ、そうですよ! さっきの生クリームみたいに――あわわっ!」

『フォローせねば!』と、あわてたマイラが、思い切り失言して、


「仕方ありませんわ! 初めから上手に出来る方は、いらっしゃいませんから!」

「そうそう! わたしも最初は、失敗の連続でした!」

 メイド仲間の、エマとジェインが、全力で励ます。



 うつむいていた、銀の前髪の間から、くすりと、笑い声がもれた。

「うふっ……わたくしったら、『泡立て過ぎた生クリームみたい』に、才能のかたまりなのね?」



 顔を上げて、紫色に輝く瞳を、楽しそうに細めて、にっこり。

「みんな、ありがとう」

 ほんわりと頬を染めて、お礼を言う領主夫人に


『尊い!』

『可愛い!』

『はわわ~!』

『一生付いていきます……!』


 侍女とメイド達は、それぞれ思い切り、心の中でウチワを振った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 才能がないのではありません。 伸び代しかないのです! バレンタインネタは良いですねー!楽しいですねー!王道だからこそ、壱邑さんがどんなバレンタインを描かれるかドキワクです♪ ひとつ前の小さ…
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