小さな騎士2(イラスト付)
その時
「こほんっ……失礼いたします、シャーロット様」
軽い咳払いの後、木陰から、ウィルフレッドの従者、ミカエルこと、ミックが現れた。
「どうしました、ミック?」
首を傾げた、シャーロットに
「実は、本日のお茶会に、『ぜひ、参加したい』と仰っている方が、おりまして」
声をひそめて、告げられた言葉。
「まぁっ――ウィルフレッド様でしたら、お断りします!」
即座にぷいっと、顔をそむけた、主の婚約者に
「いえ、違います! そのっ、『ストランドからの客人』、でして……」
どこか、言いづらそうに、従者は答えた。
「あらっ! お客様でしたら、すぐ客間に」
「いえ! 実はもう、すぐそこまで、いらしてますので! お呼びしても?」
早口で、畳みかけられ
「えっ、ええ」
思わず、こくりと頷く、公爵令嬢。
「では……ご紹介します。首都からいらした、名探偵。
かの――『アラバスター卿』です!」
やけくそ気味に叫んだ、ミックの紹介。
それを受けて、現れたのは――前髪を上げて、金髪を撫でつけ、右目に片眼鏡、左手にパイプ、黒いマントを羽織った――ヘア伯爵家当主、ウイルフレッドだった。
唖然としている、公爵令嬢と侍女の前で。
右手の人差し指を、ぴんっと立てて、自信たっぷりに。
「枝葉を取り去って、後に残った『知恵の実』。それこそが、真実です!」
「うわぁ……『アラバスター卿』の、決め台詞。まさかここで、コスプレですか……?」
「いや、俺は止めたんだ! なのに、『シャーロットに許してもらうには、これしかない!』って、聞かなくて」
ため息まじりに話す、侍女と従者。
二人の傍らには、目をまん丸く見開いたまま、固まっている公爵令嬢。
その膝から、ぴょんっと、真っ黒な子ウサギが、飛び降りた。
シャーロットの前で、後ろ脚で立ち上がり、耳としっぽを、ぴんっと立てて
「きゅーっ……!」
思い切り、警戒した声を出しながら、後ろ足をダンッ!
強く踏み鳴らす。
「これが、ウワサの『足ダン』⁉ ウサギが怒った時に、するっていう……」
「そう! 久々に見た――やばっ、めっちゃ怒ってるぞ、ナツ!」
こそこそと話す、ユナとミックの横で
「ナツ……? いきなり、どうしたの⁉」
「こんな事、するなんて……お兄様だよ、ナツ⁉」
驚く令嬢と、深く静かに、ダメージを受ける領主。
「お嬢様、ひょっとして……ナツは、お嬢様を、守ろうとしてるのでは? その――『不信人物』から」
腕の中で、同じように、ぴんっと耳を立てたハルを、なだめるように撫でながら、ユナが声を上げた。
「ふしんじんぶつ……」
遠い目で呟く、ウイルフレッドの前で
「まぁ……そうだったの、ナツ?」
はっと問いかける、シャーロット。
「きゅっ!」
どこか得意気に、黒い子ウサギは答えた。
「ありがとう――ナツ」
そっと抱き上げた、小さな騎士のおでこに、優しくキスを落とす、公爵令嬢。
それから、顔を上げて、
「ウィルも……その仮装、お似合いですわ。それに『アラバスター卿の事件簿』、読んでくださったんですね?」
にっこり、仲直りの笑顔を見せた。
「うっ、うん! ロッティが好きな本の話を、一緒にしたくて……すごく面白かったよ!
この前は、その――勝手に誤解して、傷つけるような事を言って――ホントにごめん!」
『不信人物』ショックから、すばやく立ち直り、心底反省した顔で、頭を下げた領主に、
「わたくしも、意固地になってしまって……ごめんなさい」
公爵令嬢が、ほんわりと頬を染めて、優しく答えた。
「一件落着……かな?」
「だな? やれやれ」
ユナとミックの視線の先には、
仮装を取って、隣に座ったウイルフレッドと、小さな騎士を抱っこしたシャーロットが、楽しそうに話す姿。
二人と一匹を、穏やかな秋の木漏れ日が、優しく照らしていた。
(イラスト*ろじこ様)
『小さな騎士』完結しました。
↑こちらのステキなイラストを元に、作ったお話です。
拙いお話ですが、子ウサギ達にほっこりして頂けたら、嬉しいです。
ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。
次回はバレンタイン頃、短めの番外編を予定しています。
また読んで頂けるように、頑張ります。




