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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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小さな騎士2(イラスト付)

 その時


「こほんっ……失礼いたします、シャーロット様」

 軽い咳払いの後、木陰から、ウィルフレッドの従者、ミカエルこと、ミックが現れた。


「どうしました、ミック?」

 首を傾げた、シャーロットに

「実は、本日のお茶会に、『ぜひ、参加したい』と仰っている方が、おりまして」

 声をひそめて、告げられた言葉。


「まぁっ――ウィルフレッド様でしたら、お断りします!」

 即座にぷいっと、顔をそむけた、あるじの婚約者に

「いえ、違います! そのっ、『ストランドからの客人』、でして……」

 どこか、言いづらそうに、従者は答えた。



「あらっ! お客様でしたら、すぐ客間に」

「いえ! 実はもう、すぐそこまで、いらしてますので! お呼びしても?」

 早口で、畳みかけられ

「えっ、ええ」

 思わず、こくりとうなずく、公爵令嬢。


「では……ご紹介します。首都からいらした、名探偵。

 かの――『アラバスター卿』です!」



 やけくそ気味に叫んだ、ミックの紹介。

 それを受けて、現れたのは――前髪を上げて、金髪を撫でつけ、右目に片眼鏡モノクル、左手にパイプ、黒いマントを羽織った――ヘア伯爵家当主、ウイルフレッドだった。


 唖然としている、公爵令嬢と侍女の前で。

 右手の人差し指を、ぴんっと立てて、自信たっぷりに。

「枝葉を取り去って、後に残った『知恵の実』。それこそが、真実です!」



「うわぁ……『アラバスター卿』の、決め台詞ぜりふ。まさかここで、コスプレですか……?」

「いや、俺は止めたんだ! なのに、『シャーロットに許してもらうには、これしかない!』って、聞かなくて」

 ため息まじりに話す、侍女と従者。

 二人のかたわらには、目をまん丸く見開いたまま、固まっている公爵令嬢。

 その膝から、ぴょんっと、真っ黒な子ウサギが、飛び降りた。



 シャーロットの前で、後ろ脚で立ち上がり、耳としっぽを、ぴんっと立てて

「きゅーっ……!」

 思い切り、警戒した声を出しながら、後ろ足をダンッ! 

 強く踏み鳴らす。


「これが、ウワサの『足ダン』⁉ ウサギが怒った時に、するっていう……」

「そう! 久々に見た――やばっ、めっちゃ怒ってるぞ、ナツ!」

 こそこそと話す、ユナとミックの横で


「ナツ……? いきなり、どうしたの⁉」

「こんな事、するなんて……お兄様だよ、ナツ⁉」

 驚く令嬢と、深く静かに、ダメージを受ける領主。



「お嬢様、ひょっとして……ナツは、お嬢様を、守ろうとしてるのでは? その――『不信人物』から」

 腕の中で、同じように、ぴんっと耳を立てたハルを、なだめるように撫でながら、ユナが声を上げた。


「ふしんじんぶつ……」

 遠い目で呟く、ウイルフレッドの前で

「まぁ……そうだったの、ナツ?」

 はっと問いかける、シャーロット。

「きゅっ!」

 どこか得意気に、黒い子ウサギは答えた。



「ありがとう――ナツ」

 そっと抱き上げた、小さな騎士ナイトのおでこに、優しくキスを落とす、公爵令嬢。

 それから、顔を上げて、

「ウィルも……その仮装、お似合いですわ。それに『アラバスター卿の事件簿』、読んでくださったんですね?」

 にっこり、仲直りの笑顔を見せた。


「うっ、うん! ロッティが好きな本の話を、一緒にしたくて……すごく面白かったよ!

 この前は、その――勝手に誤解して、傷つけるような事を言って――ホントにごめん!」

『不信人物』ショックから、すばやく立ち直り、心底反省した顔で、頭を下げた領主に、

「わたくしも、意固地になってしまって……ごめんなさい」

 公爵令嬢が、ほんわりと頬を染めて、優しく答えた。



「一件落着……かな?」

「だな? やれやれ」

 ユナとミックの視線の先には、

 仮装を取って、隣に座ったウイルフレッドと、小さな騎士を抱っこしたシャーロットが、楽しそうに話す姿。


 二人と一匹を、穏やかな秋の木漏れ日が、優しく照らしていた。



  挿絵(By みてみん)


(イラスト*ろじこ様)




『小さな騎士』完結しました。

↑こちらのステキなイラストを元に、作ったお話です。


拙いお話ですが、子ウサギ達にほっこりして頂けたら、嬉しいです。


ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。


次回はバレンタイン頃、短めの番外編を予定しています。

また読んで頂けるように、頑張ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんて可愛らしい嫉妬エピソード!! ウィル様、仲直りのために大胆なことをしてくれて、ほんと良い旦那さんって感じですね!
[良い点] 物語でも、嫉妬する人っていますよね(* ´ ▽ ` *) それに扮してでも許してもらいたいウィルフレッドが可愛いかったです。 しかもナツに威嚇されるとか(*´艸`) [一言] まだまだ番外…
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