【番外編4】小さな騎士1
今回も短めの、全2話。
時期的には、2章と3章の間の、『子ウサギ大活躍』なお話です。
よろしかったら、お立ち寄りください。
後編は明日、更新します
「お嬢様、こちらが今日の『お茶会会場』です!」
右手にピクニックバスケット、左手に小さなフタ付きのカゴを抱えた、侍女のユナが、笑顔で振り返った。
そこは、兎穴(ヘア伯爵邸)の裏庭の最奥。
周りを樫の木に囲まれた、まるで森の中にいるような、小さな芝生の広場。
既に真っ白のラグが敷かれ、可愛いクッションが置かれている。
「こんな場所があったなんて……知らなかったわ」
木漏れ日に、目を細めるシャーロットに
「庭師のミスター・エバンズに、教えてもらったんです!」
ラグの上で、バスケットを広げながら、ユナは、得意気に答えた。
ちちちっ……小鳥の鳴く声や、木の葉のざわめきを聞きながら、クッションに座り、お茶と小さなジャムタルトを楽しむ。
「外で頂くと……何だか、とっても美味しいわ!」
ほっとしたように微笑む、公爵令嬢の膝には、カゴから出した、真っ黒な子ウサギ。
白い指先が、そっとカップを置き、長い耳の間を、優しく撫でる。
気持ち良さそうに、「ぷぅっ……」と鳴きながら、きゅっと目を閉じる、子ウサギのナツ。
思わず、にっこり――侍女と、微笑み合った。
「何て可愛い……癒されるわ」
「ホントですよねー!」
頷くユナの腕には、真っ白な子ウサギ、ハルが、抱っこされている。
「ありがとうユナ。色々、気を使ってくれて」
「そんなこと! あのっ、お嬢様。差し出がましい、とは思いますが……ウィルフレッド様の事、そろそろ、許してさしあげては?」
やんわり告げた、侍女の助言は
「それは、無理だわっ!」
きっぱりと、退けられた。
事の起こりは、一冊の本。
警察も手を焼く、不可思議な難事件を、明晰な頭脳と鋭い観察眼で、次々と解決する――いわゆる名探偵物の小説、『アラバスター卿の事件簿』。
ミックから貸りて、ユナがハマり。
熱いレビューを聞いたシャーロットが、シリーズで取り寄せて。
「アラバスター卿、なんてステキ……頭が良くて紳士で、女性に優しくて!」
「わかりますー!」
と、盛り上がっていた所に
「ロッティ……! わたしと言う婚約者が、ありながら……誰なんだ、その『なんとか卿』というヤツはっ⁉ そんな名前の貴族、聞いた事ないぞ!」
嫉妬に狂ったウィルフレッドが、乱入して来た。
あわててユナが説明して、誤解が解けた後。
「なーんだ、本の主人公か……!」
ほっとした声を上げる領主に、静かな声で
「ウィル、フレッド様……わたくしが本当に、『なんとか卿』に心を奪われて、禁断の恋に走ったと、思われたのですか? そんな、不実な人間だと?」
まるで雪の結晶が宿ったような、冷たい言葉と視線を突き刺した、公爵令嬢。
「違うっ! 違うよ、聞いてくれ――ロッティ‼」
「存じませんっ……!」
「あの時のウィルフレッド様、まるで雷に打たれた後みたいに、ボロボロのしおしおでしたね?」
「だって、ただ本の話を、していただけなのに。わたくしの事をまるで、浮気でもしたみたいに、仰るから!」
「本の話くらいで、動揺して、あんなに取り乱しちゃうくらい――お嬢様のことが、『大好き』なんですよ?」
にっこり、宥めるように、ユナに言われて。
「そう……なの? 本当に?」
抱き上げたナツに、シャーロットが、小さな声で、問いかけると、
黒い子ウサギは、くりっとした瞳で。
「ぷうっ!」
『ホントだよ』と言うように、可愛い声で、返事をしてくれた。




