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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編4】小さな騎士1

今回も短めの、全2話。

時期的には、2章と3章の間の、『子ウサギ大活躍』なお話です。

よろしかったら、お立ち寄りください。


後編は明日、更新します

「お嬢様、こちらが今日の『お茶会会場』です!」

 右手にピクニックバスケット、左手に小さなフタ付きのカゴを抱えた、侍女のユナが、笑顔で振り返った。


 そこは、兎穴(ヘア伯爵邸)の裏庭の最奥。

 周りを樫の木に囲まれた、まるで森の中にいるような、小さな芝生の広場。

 既に真っ白のラグが敷かれ、可愛いクッションが置かれている。


「こんな場所があったなんて……知らなかったわ」

 木漏れ日に、目を細めるシャーロットに

「庭師のミスター・エバンズに、教えてもらったんです!」

 ラグの上で、バスケットを広げながら、ユナは、得意気に答えた。



 ちちちっ……小鳥の鳴く声や、木の葉のざわめきを聞きながら、クッションに座り、お茶と小さなジャムタルトを楽しむ。

「外で頂くと……何だか、とっても美味しいわ!」

 ほっとしたように微笑む、公爵令嬢の膝には、カゴから出した、真っ黒な子ウサギ。


 白い指先が、そっとカップを置き、長い耳の間を、優しく撫でる。

 気持ち良さそうに、「ぷぅっ……」と鳴きながら、きゅっと目を閉じる、子ウサギのナツ。

 思わず、にっこり――侍女と、微笑み合った。


「何て可愛い……癒されるわ」

「ホントですよねー!」

 うなずくユナの腕には、真っ白な子ウサギ、ハルが、抱っこされている。


「ありがとうユナ。色々、気を使ってくれて」

「そんなこと! あのっ、お嬢様。差し出がましい、とは思いますが……ウィルフレッド様の事、そろそろ、許してさしあげては?」

 やんわり告げた、侍女の助言は

「それは、無理だわっ!」

 きっぱりと、退しりぞけられた。



 事の起こりは、一冊の本。

 警察も手を焼く、不可思議な難事件を、明晰めいせきな頭脳と鋭い観察眼で、次々と解決する――いわゆる名探偵物の小説、『アラバスター卿の事件簿』。


 ミックから貸りて、ユナがハマり。

 熱いレビューを聞いたシャーロットが、シリーズで取り寄せて。

「アラバスター卿、なんてステキ……頭が良くて紳士で、女性に優しくて!」

「わかりますー!」

 と、盛り上がっていた所に

「ロッティ……! わたしと言う婚約者が、ありながら……誰なんだ、その『なんとか卿』というヤツはっ⁉ そんな名前の貴族、聞いた事ないぞ!」

 嫉妬に狂ったウィルフレッドが、乱入して来た。


 あわててユナが説明して、誤解が解けた後。

「なーんだ、本の主人公か……!」

 ほっとした声を上げる領主に、静かな声で

「ウィル、フレッド様……わたくしが本当に、『なんとか卿』に心を奪われて、禁断の恋に走ったと、思われたのですか? そんな、不実な人間だと?」

 まるで雪の結晶が宿ったような、冷たい言葉と視線を突き刺した、公爵令嬢。


「違うっ! 違うよ、聞いてくれ――ロッティ‼」

「存じませんっ……!」



「あの時のウィルフレッド様、まるで雷に打たれた後みたいに、ボロボロのしおしおでしたね?」

「だって、ただ本の話を、していただけなのに。わたくしの事をまるで、浮気でもしたみたいに、仰るから!」

「本の話くらいで、動揺して、あんなに取り乱しちゃうくらい――お嬢様のことが、『大好き』なんですよ?」

 にっこり、なだめるように、ユナに言われて。


「そう……なの? 本当に?」

 抱き上げたナツに、シャーロットが、小さな声で、問いかけると、

 黒い子ウサギは、くりっとした瞳で。

「ぷうっ!」


『ホントだよ』と言うように、可愛い声で、返事をしてくれた。


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