Holy day3
飲み終わったカップ2個を、前の空席に置いて、ミックがくるりと、こちらを向いた。
少しためらう様に、泳ぐ視線。
『はっ! マフラー渡す、チャンス到来⁉』
プレゼントの入った籠を、急いで手元に、引き寄せたとき
「えっと……一日遅いけど、メリークリスマス」
コートの内ポケットから取り出した、小さな箱を差し出された。
『先越されたーっ!』
心の中は、ムンクの叫び状態。
何とか平静を装い、笑顔でユナは、プレゼントを受け取った。
「わぁ、ありがと! 開けてもいい?」
「どうぞ」
リボンを解いて箱を開けると、中にはジュエリーボックスが。
ぱかんと開くと、青いビロードの上で、銀色のブローチが、静かに光っていた。
「えっ、これ――」
バラの透かし彫りが、花かんむりのように円を描く、シルバーのブローチ……これって
「『推しグッズ』……じゃなくて! 前貰った指輪と、同じデザインだよね⁉」
「うん。同じ店に注文したから……気に入った?」
「めちゃめちゃ気に入った! すっごくステキ……! 付けてみても、いい?」
「もちろん!」
淡いグレーのコートの襟元に留めると、最初からセットになっていたかの様に、しっくりと馴染む。
「すっごく、似合う……」
嬉しそうに、ミックが目を細めた。
「そっ、そぉ?」
てへっと照れた、次の瞬間、
「ちなみにそれ――ウィルフレッド様が、シャーロット様に贈ったのと、お揃い」
「家宝にするっ……‼」
ミックの『ハレルヤ情報』に、かぶせ気味に、ユナが叫んだ。
『推しと、お揃い……』
にまにまと、ブローチを見つめながら、『はっ!』と気付く。
「わたしもっ! ミックに、渡したい物があるの!」
ごそごそと籠から取り出した、自分でラッピングしたため、少し不格好な包みを差し出す。
「これっ……メリークリスマス!」
「えっ、ありがとう……開けていい?」
目を見開いたミックが、尋ねて来る。
「どうぞっ」
がさがさと広げる紙の音と、どきどきと鳴る心臓の音が、競争していると
「あっ――マフラーだ!」
嬉しそうな、声が上がった。
「実はちょっと、網目が揃ってない所が」
「網目って、手編み⁉ まじで――⁉」
今度はミックが、かぶせ気味に叫んだ。
「うん――エマに教えてもらって、初めて、編んでみたんだ」
「初めて……」
ミックがそっと、少しカーキの混じった、灰色のマフラーを手に取り、首に巻いた。
「あったかい……」
たまたま、わたしが着ている新しいコート(シャーロット様からのクリスマスプレゼント)と、似た色合い。
何だか……
『ペアルック、っぽい?』
ひゃーっ! と一人で照れてたら、グレーのふさを手に取って、無言で見つめているミックに、気が付いた。
「あっ、ごめんね! フリンジも揃ってないし、あんまキレイじゃないから、無理に使わなくても」
「……このマフラー、一生、使う!」
絞り出すような、低い声。
ちょ、『家宝』より重たいから……!
「もぉっ……何年も使ってたら、ボロボロになるよ?」
「じゃあ――使わないで、飾っておく」
「せっかく編んだんだから、使ってよ」
ゆっくりと、皮の手袋を外してから、スパダリ従者にマフラーを、巻き直してあげる。
「ボロボロになる前に、また、編んであげるから」
手袋から現れた、ユナの両手。
いつもは、右手にしている指輪が、左手の薬指で光っている。
それを見たミックの目が、プレゼントのブローチみたいに、丸くなった。
「えっ、それって……一生?」
「うん、一生」
急に恥ずかしくなって、俯いた頬に、ミックの右手が、そっと触れる。
指先の冷たさに、ぴくりとしたら
「ごめんっ――!」
「ううん、だいじょぶ」
大きな掌に左の頬を、すりっと寄せたら
ミックの顔が、近づいて来て
「一生、大事にする」
「うん。わたしも」
目を閉じたら、今年初めて振る雪のような、優しいキスが、降りて来た。
「今日は、人生で最高の日――『Holy day』だな」
「ホーリーディって、『聖なる日』?」
「昨日の夜――クリスマスは『Holy Night』だろ? 同じくらい、幸せな日」
「『ホリデー』にも、似てるし?」
と、出来たばかりの婚約者が、楽しそうに囁いた。
『Holy day』完結しました。
拙いお話ですが、読んでくださった方が、ほっこり出来るお話になっていたら、嬉しいです。
ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。
『サウザンド ローズ』は、とても愛着のある作品ですので、短めの続編を、時々書いていきたいと思っています。
また読んでいただけるよう、頑張ります。
ステキなクリスマスを……☆彡




