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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編3】Holy day1

今回は短めの全3話、毎日更新します。

「それじゃ、またね……!」

「うん! お休み、楽しんでね!」

「そっちもーっ!」

 クリスマスの翌日から、兎穴(ヘア邸)の使用人たちは、交代で休みを取る。

 実家が近場の人は二日、遠方だったら三~五日間。


 その期間には、兎穴とヘア村の宿屋の間を、1時間置きに馬車が往復。

 そこからまた、各地方に向けて出発する、大型の馬車と。

 お土産やら大きなバッグやらを抱えた、人々が行きかう、宿屋の広い裏庭は……

「まるで前世の、『バスターミナル』みたい」

 兎穴の侍女で転生者、ユナ・マウサーは、ヘーゼルナッツの瞳を丸くした。


 祖母から『先にお帰り』と勧められ、1番チームで帰省する事に。

 あいにくの曇り空。

 旅行用の厚手のドレスに、フード付きのコート、皮の手袋の完全防備でも、冷たい風が身体を、ぴゅうぴゅう通り抜けて行く。

 旅行用バッグを左手に持ち、腕に(ふた)付きのカゴを下げた右手で、ユナはコートの襟元を、ぎゅっと掴み合わせた。


 隣同士とはいえ、ウルフ公爵家もヘア伯爵家も、王国で一二を争うほど、広大な領地。なので、実家のあるウルフ村までは、馬車でも半日かかる。

 シャーロットお嬢様、いえ奥様のお供でこちらに来てから、帰るのは初めてで。わくわくしないと言ったら、嘘になるけど。

「シャーロット様と、三日も離れ離れ……くすん」

 さらに、心残りが一つ。

「クリスマスプレゼント、ミックに渡せなかったな……」


 手先の器用な、メイド友達のエマに教えてもらって、前世も合わせた人生で、初めて挑戦した、手編みのマフラー。

 まだ編み終わらない内に、新領主夫妻が結婚後、初めて迎える、クリスマスイヴが始まって。

 大勢の親戚やら来客を迎え、シャーロット様のお仕度したくや、晩餐(ばんさん)会の手伝いに走り回っていたら――えっ! 今日はもう12月26日って、噓でしょ⁉


 それでも昨夜、遅くまでかかって仕上げたプレゼントを、出発前に渡したくて、背の高い従者を探していたら

「ミック? 昨日遅くに、実家に帰ったよ」

 従僕仲間のニックから、衝撃の真相が。

「実家って⁉」

「ヘア村だけど――ユナ、知らなかったの?」

「うん……」


 ショックだった。

 わたしに何も言わないで、さっさと実家に、帰っちゃったことも。

 そもそも、実家がヘア村にあるなんて、一言も、聞いてなかったことも。

 マフラー渡して、それから、その勢いで――二ヶ月前のプロポーズの返事を、伝えようと思ってたのに。



「ミックのばか……」

 楽しそうな人達が行きかう、バスターミナル――じゃなくて、宿屋の裏庭で、白い吐息と一緒に、しょんぼりつぶやいたら


「誰が、『ばか』だって……?」

 聞きなれた声が、背後から。

 慌てて振り返ると

「ミック……⁉」


 兎穴の従者で転生者、ミックことミカエル・ドッゴが、ハシバミ色の目を細めて、裏庭の入口にたたずんでいた。


番外編3スタートしました。

ご訪問とご感想、ブクマや評価等、本当にありがとうございます!

今回は番外編1『星月夜の誓い』の前日譚です。

「はじめまして」の方、よろしかったらそちらも、のぞいてみて頂けると、嬉しいです。

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