【番外編3】Holy day1
今回は短めの全3話、毎日更新します。
「それじゃ、またね……!」
「うん! お休み、楽しんでね!」
「そっちもーっ!」
クリスマスの翌日から、兎穴(ヘア邸)の使用人たちは、交代で休みを取る。
実家が近場の人は二日、遠方だったら三~五日間。
その期間には、兎穴とヘア村の宿屋の間を、1時間置きに馬車が往復。
そこからまた、各地方に向けて出発する、大型の馬車と。
お土産やら大きなバッグやらを抱えた、人々が行きかう、宿屋の広い裏庭は……
「まるで前世の、『バスターミナル』みたい」
兎穴の侍女で転生者、ユナ・マウサーは、ヘーゼルナッツの瞳を丸くした。
祖母から『先にお帰り』と勧められ、1番チームで帰省する事に。
あいにくの曇り空。
旅行用の厚手のドレスに、フード付きのコート、皮の手袋の完全防備でも、冷たい風が身体を、ぴゅうぴゅう通り抜けて行く。
旅行用バッグを左手に持ち、腕に蓋付きのカゴを下げた右手で、ユナはコートの襟元を、ぎゅっと掴み合わせた。
隣同士とはいえ、ウルフ公爵家もヘア伯爵家も、王国で一二を争うほど、広大な領地。なので、実家のあるウルフ村までは、馬車でも半日かかる。
シャーロットお嬢様、いえ奥様のお供でこちらに来てから、帰るのは初めてで。わくわくしないと言ったら、嘘になるけど。
「シャーロット様と、三日も離れ離れ……くすん」
さらに、心残りが一つ。
「クリスマスプレゼント、ミックに渡せなかったな……」
手先の器用な、メイド友達のエマに教えてもらって、前世も合わせた人生で、初めて挑戦した、手編みのマフラー。
まだ編み終わらない内に、新領主夫妻が結婚後、初めて迎える、クリスマスイヴが始まって。
大勢の親戚やら来客を迎え、シャーロット様のお仕度や、晩餐会の手伝いに走り回っていたら――えっ! 今日はもう12月26日って、噓でしょ⁉
それでも昨夜、遅くまでかかって仕上げたプレゼントを、出発前に渡したくて、背の高い従者を探していたら
「ミック? 昨日遅くに、実家に帰ったよ」
従僕仲間のニックから、衝撃の真相が。
「実家って⁉」
「ヘア村だけど――ユナ、知らなかったの?」
「うん……」
ショックだった。
わたしに何も言わないで、さっさと実家に、帰っちゃったことも。
そもそも、実家がヘア村にあるなんて、一言も、聞いてなかったことも。
マフラー渡して、それから、その勢いで――二ヶ月前のプロポーズの返事を、伝えようと思ってたのに。
「ミックのばか……」
楽しそうな人達が行きかう、バスターミナル――じゃなくて、宿屋の裏庭で、白い吐息と一緒に、しょんぼり呟いたら
「誰が、『ばか』だって……?」
聞きなれた声が、背後から。
慌てて振り返ると
「ミック……⁉」
兎穴の従者で転生者、ミックことミカエル・ドッゴが、ハシバミ色の目を細めて、裏庭の入口に佇んでいた。
番外編3スタートしました。
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今回は番外編1『星月夜の誓い』の前日譚です。
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