悪役令嬢って何で出来てる?7
ぱちりと目が覚めたのは、兎穴の客用寝室、いつものベッドの上だった。
「アナベラ様……! よくお休みでしたね! 昨日の夕方、兎小屋で寝ちゃったところを、庭師のミスター・エバンズが見つけて、連れて来てくれたんですよ。そのまま、お夕食も召し上がらずに、朝まで……色々あって、お疲れだったんですね?」
ほっとした顔のベティに
「あれっ……そう、だった? 何だかおかしな夢、見た気がするけど」
首を傾げて、はっと思い出す。
「あっ……ベティ! 昨日わたし、八つ当たりして、ごめんなさいっ!」
「そんなっ、わたしが隠し事してたから、お嬢様に嫌な思いを――こちらこそ、申し訳ございませんでした!」
二人で謝り合った後、
「実は……シャーロット様のお具合が、悪かったのは『悪阻』のせいなんです」
ベティが教えてくれた。
「『つわり』って?」
「その――赤ちゃんが出来た最初の頃に、気分が悪くなったり、食欲もなくなったりすることです」
「赤ちゃん……⁉ シャーロットお姉様に、赤ちゃんが生まれるの⁉ いつ?」
「11月頃らしいですよ、楽しみですね?」
「うんっ……!」
朝食をもりもり食べてから、人参やレタスのおやつを持って、兎小屋に。
ナツに「昨日はありがとう」ってお礼を言ったら、ぴょんって背伸びして、小さなお鼻でちょんって、ほっぺにキスしてくれた。
それから、『匂いにも敏感になって、大好きなバラの香りもダメらしい』シャーロットお姉様の為に、ベティとソフィー先生と一緒に、爽やかな香りのハーブや、香りのしないラナンキュラスやデルフィニウムを選んで、花束にして。
侍女のユナに頼んで、届けてもらうことに。
「わあっ……ありがとうございます、アナベラ様! お嬢様もきっと、喜ばれます!」
「『お大事に』って、伝えてね! それと――ユナの婚約者って、ステキなひとね?」
「えっ……⁉ あっ、ありがとうございます」
真っ赤になったユナに、にんまり笑いかけながら。
『大丈夫。わたしは「元悪役令嬢」。「悪役令嬢」には、絶対戻らないから!』
って、心の中で誓った。
そして翌日、お母様からの手紙が届き
「『お父様から「デビューはまだ早い」と横やりが入ったので、本当に残念ですが「仕上げ学校」入学は、中止します』ですって――やったーっ!」
ありがとう、お父様!
手紙の事を早く話したくて、ソフィー先生を探して、ハーブ園に。
「『仕上げ学校』、行かなくても良くなったの! 来年も再来年も、ずっと先生に、教えてもらえるわ!」
って、興奮しながら報告すると
「まぁ――良かったわ! これからもよろしくね、アナベラ」
にっこり笑顔で、ハグしてくれた。
そういえば、気になっていた事がひとつ。
「先生、あの……一昨日ヘア村に、会いに行った人って――恋人、ですか?」
だとしたら、イーサンお兄様のライバル!
「まさか、弟よ……! 寄宿学校の休みに、友達の家に行く途中で、寄ってくれたの」
「弟さん?」
「そうよ! アナベラの、二歳上かしら? ほらっ、これ……今ストランドで流行ってる『写真館』で、撮ったんですって」
先生が見せてくれた、『写真』に写っていたのは、制服姿の黒髪で、くりっとした黒い瞳の男の子。
「えっ……『ナツ⁉』」
思わず飛び出しそうになった名前を、アナベラは、慌てて飲み込んだ。
あの冒険の時の、少年姿のナツにそっくりの、先生の弟さん。
その写真を、まじまじ見ていると
「弟のバニーも、亡くなった父と同じ、植物学者を目指しているの。アナベラのお話をしたら、『いつか会いたい!』って」
ソフィー先生の話に、目をぱちくりさせて
「『バニー』って……『子ウサギ』⁉」
「『バーナビー』の愛称よ。昔から、そう呼んでるの」
おかしそうに、先生が答える。
思わず、近くで作業していた、庭師と目が合うと
『ナイショじゃぞ……?』
庭師で魔法使いで観察者の、トム・エバンズは、元悪役令嬢に――こっそり、片目をつぶってみせた。
『悪役令嬢って何で出来てる?』完結しました。
このページが、『サウザンド ローズ』の100ページ目になりました!(『登場人物紹介』を除く)
こんなに長く続けられたのも、読んでくださった、皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
拙いお話ですが、少しでも楽しんで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。
また読んで頂けるように、頑張ります。




