表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/155

悪役令嬢って何で出来てる?4

「トムおじいさんって――『魔法使い』だったの⁉」

 驚いてあんぐりと、目と口を開いた、アナベラに

「『魔法使い』と『庭師』は、仮の姿。本当はオブザーバー――『観察者』じゃ」

 庭師で魔法使いで観察者のトム・エバンズは、片目をつぶって答えた。


「いわゆる『神様』に派遣されて、この世界を観察するのが『観察者オブザーバー』。もしも『(ゆが)み』が生じたとき、すみやかに取りのぞくのが、わしの仕事じゃ……話は長い、お座りアナベラ、ナツも」

『神様って言った……⁉』

 スケールの大き過ぎる話にくらくらしながら、ぽふんっと、パッチワークの可愛いクッションが乗った、木の長椅子に腰かけて、たずねる。

「『歪み』って、なに?」

「そうさな、たとえば……『悪役令嬢』」

「えっ!」

 どくんっと、アナベラの心臓が、大きく鳴った。


「わたし……? 取り除くって――わたし、死んじゃうの⁉ そんなのイヤッ! そもそも『悪役令嬢』って、何なのっ⁉」

 動揺と混乱で、ぐらぐらする心を、冷たい両手で押さえながら、アナベラが叫ぶ。

「大丈夫だよ、アナベラ! 魔法使いは、そんな事しないから!」

 隣に座ったナツが、ぽんぽんっと、わななく肩を、優しく叩いた。

 ふんわり、てのひらと声から伝わる温もりに、アナベラのこわばった心が、じんわりとほどけて行く。


『ふーっ』と、深呼吸した、アナベラを見て

「では、説明しよう……アレックサ!」

 にこりと笑った魔法使いが、右手を棚の方に、差し出した。

「ぴーっ!」

 パタパタッ――小さな羽根音と一緒に、雪玉のような小鳥が、その掌に降りて来た。


「えっ、なにこれ? 可愛い……っ!」

 羽根の先と長い尾だけ、黒と茶色。その他は全身ふわっふわで、真っ白な毛に包まれた、小さな身体。つぶらな黒い瞳と三角のくちばし。

 ことりと首を傾げて、見上げてくる愛らしさに、アナベラのハートは、たちまち撃ち抜かれた。


「こやつは『アレックス・サンダー・シマエナガ』、愛称は『アレックサ』じゃ。可愛いだけじゃなくて、とっても賢いぞ。さぁ――何でも、聞いてごらん?」

「えっ? えぇっと、それじゃあ……そもそも、『悪役令嬢』って、なんなの?」


 アナベラの質問を、

「アレックサ、『悪役令嬢』とは?」

 はっきりとした口調で、魔法使いが小鳥に伝えると、瞬時に、小さなくちばしが開いた。


「ピーッ!……『悪役令嬢』とは、小説など虚構きょこうの世界で『女主人公ヒロイン』と対立し、身分や家柄等を盾に、恋路を邪魔し攻撃するも、最後は敗北。孤独の中、破滅する役柄です。特徴は……

 ワガママとひとりぼっち、縦ロールに高笑い、そんなモノで出来てるよ♪」

 単調な甲高い声が、よどみなく答え、最後は歌で締めくくる。


『しゃべった……! さっきの歌声も、この子だったんだ⁉』と、びっくりしながら

「えっと……『きょこうの世界』って? あと『ヒロイン』って、誰のこと?」

 気になったキーワードについて、たずねると

「『ヒロイン』は、『シャーロット・ウルフ』――いやもう、『シャーロット・ヘア』じゃな」

 魔法使いはさりげなく、二番目の質問にだけ答えた。

『やっぱり……「ヒロイン」って、キレイじゃないと、なれないんだ。わたしなんて、せいぜい「悪役令嬢」が、お似合いってこと?』と、むっと眉根を寄せるアナベラ。


「じゃあ、『破滅』って?」

 むかむかする気持ちを押さえて、何気なく問いかけた質問。

「ピーッ! 婚約破棄、国外追放。最悪は――『死刑』!」

 愛らしい小鳥の口から、何とも物騒な答えが飛び出した。



「死刑――わたしが⁉ それが、『取り除く』ってこと⁉」

 あまりのショックに、すうっと目の前が暗くなる。

「どうしよう……」

 両手で口元をおおい、ぶるぶる震え始めたアナベラの肩を、温かなナツの両手が、今度はふんわりと、抱きしめた。


「大丈夫……。ぼくはいつでも、アナベラの味方だし、友達だよ? 初めて会った時、『わたしの髪と、同じ色だね?』って、笑ってくれた時から、ずっと!」

「ほんと……?」

「うんっ! だからアナベラは……」

「わたしは……」

「「『ひとりぼっち』じゃないっ‼」」



「死刑になるのは、悪役令嬢」

 でも……

「わたしは、『「元」悪役令嬢』よ‼」

「その通り……!」

「ぴーっ!」

 ぐんっと立ち上がって、勢いよく叫んだ、元悪役令嬢に、魔法使いとアレックサは、そろって賛同の声を上げた。



「お前さんは、自分で気が付いた。『ひとりぼっちじゃない』――とな? だから『元悪役令嬢』に、クラスチェンジしたんじゃ!」

『まあ、ベティと心が通った、去年の事件の折に――クラスチェンジは、済んでおったがな?』と小声で付け足した、魔法使いに

「ぴーっ!」

 アレックサも嬉しそうに、声を上げる。


「何だか、よく分からないけど……とにかく死刑には、ならないのねっ⁉」

「やったね、アナベラ!」

 嬉しくて嬉しくて、ぴょんっと飛び跳ねた、アナベラの両手を取って、ナツがぐるぐる小屋中を回る。

「なにこれっ!」

「お祝いのダンスだよ!」

「ダンス……」


 笑顔で回っていた、元悪役令嬢の顔から、すんっと表情が消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ