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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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悪役令嬢って何で出来てる?3

 悪役令嬢って何で出来てる?

 悪役令嬢って何で出来てる?

 ワガママとひとりぼっち、縦ロールに高笑い!

 そんなモノで出来てるよ♪



 ぼふんっ……!

 生垣いけがきの扉の中に落っこちたアナベラは、真っ暗な穴の中をしゅるんと通り抜け、柔らかな落ち葉がうず高く積もった上に、着地した。

「びっくりしたーっ! えっ……ここどこ?」

 エプロンをはたきながら立ち上がり、辺りを見渡して、灰色の目を見張る。


 そこは、枝を広げた大きな樹々が、どこまでも広がる、昼でも薄暗い世界。

「森……?」

 なんで? 兎穴の裏庭にいたはずなのに――まるで

「『おとぎ話』の中に、迷い込んだみたい……あっ! そういえば、ナツはどこ? ナツーッ⁉」

 先に扉に飛び込んだ、子ウサギの名を呼ぶアナベラの耳に、どこからか、歌声が聞こえて来た。


 悪役令嬢って 何で出来てる♪ 

 悪役令嬢って 何で出来てる♪ 


 キーキーと甲高く、単調な歌声。何だか、オルゴールの音に似てる。

 しかも……

「また『悪役令嬢』⁉ ほんっと、気に食わない歌だけど――どこから、聞こえてくるの?」

 くるりと周りを見渡した、元悪役令嬢の前に

「ぼくが案内するよ――アナベラ!」

 いつの間にか、一人の男の子が立っていた。


 アナベラより少し年上らしい、艶のある黒髪に、くりっとした黒い瞳。

 寄宿学校の制服っぽい、黒い上着にピンストライプのズボン、頭にシルクハットをかぶった少年は、笑顔で左手を差し出した。

「えっ……あなた誰? なんで、わたしの名前知ってるの⁉」

 嫌な感じはしない――むしろなぜか、親しみを感じる相手に、それでも警戒しながら、問いかけると

「『ナツ』だよ!」

 にこにこと、答えが返って来る。

「えっ――『ナツ』って、まさか……子ウサギのナツ?」

「うん! ほら、見て!」

 指で指した黒いシルクハットの、クラウンとつばの境目から、ぴょこんと、二本のウサギの耳が、飛び出していた。


「わあっ――触ってもいい?」

「うん!」

 恐る恐る、そっと触れた黒い耳は、いつもと同じ、ふわふわの手触り。

「ホントに、ナツなんだ……」

「そうだよ。ほら、行こう!」


 差し出された掌に、右手を重ねながら

「行くって、どこに?」

 少し不安げに、たずねたアナベラに、にっこりと

「この歌声の出処でどころ――『魔法使い』のとこに、だよ!」

 長いお耳をぴくぴくさせて、ナツは答えた。



 かさりかさりっ――二人で手を繋いで、落ち葉の上を歩いて行くと、だんだんと歌声が、大きくなって来た。

「ほらっ、ここが『魔法使いの家』!」

 ナツが右手に持った、カンテラをかかげると、光の中に小さな、木で出来た小屋が現れた。

「あれっ……この小屋、見たことある?」

 兎穴の裏庭、兎小屋の奥に建っている、道具小屋にどこか似ている。


 不思議そうに首をかしげた、アナベラの前で、コンコンとノックを2回。

「おはいり」と返事を聞いて、子ウサギのナツは、古い木の扉を開けた。

「魔法使いーっ! アナベラを、連れて来たよ!」

 あれれっ? さっきの声も、どこかで……?

「ほらっ、入ろう!」



 ナツに手を引かれて、足を踏み入れた小屋の中。

 たくさんの本や紙の束、銀色に光る平たい箱、怪しげな実験道具など――雑多な物が詰め込まれた棚と、大きな机。

 その前に座るのは……


「ようこそ、レディ・アナベラ」

「えっ……トムおじいさん⁉」

 庭師のトム・エバンズが、いつもと変わらない、穏やかな笑顔で、パイプの煙をくゆらせていた。


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