悪役令嬢って何で出来てる?3
悪役令嬢って何で出来てる?
悪役令嬢って何で出来てる?
ワガママとひとりぼっち、縦ロールに高笑い!
そんなモノで出来てるよ♪
ぼふんっ……!
生垣の扉の中に落っこちたアナベラは、真っ暗な穴の中をしゅるんと通り抜け、柔らかな落ち葉がうず高く積もった上に、着地した。
「びっくりしたーっ! えっ……ここどこ?」
エプロンをはたきながら立ち上がり、辺りを見渡して、灰色の目を見張る。
そこは、枝を広げた大きな樹々が、どこまでも広がる、昼でも薄暗い世界。
「森……?」
なんで? 兎穴の裏庭にいたはずなのに――まるで
「『おとぎ話』の中に、迷い込んだみたい……あっ! そういえば、ナツはどこ? ナツーッ⁉」
先に扉に飛び込んだ、子ウサギの名を呼ぶアナベラの耳に、どこからか、歌声が聞こえて来た。
悪役令嬢って 何で出来てる♪
悪役令嬢って 何で出来てる♪
キーキーと甲高く、単調な歌声。何だか、オルゴールの音に似てる。
しかも……
「また『悪役令嬢』⁉ ほんっと、気に食わない歌だけど――どこから、聞こえてくるの?」
くるりと周りを見渡した、元悪役令嬢の前に
「ぼくが案内するよ――アナベラ!」
いつの間にか、一人の男の子が立っていた。
アナベラより少し年上らしい、艶のある黒髪に、くりっとした黒い瞳。
寄宿学校の制服っぽい、黒い上着にピンストライプのズボン、頭にシルクハットを被った少年は、笑顔で左手を差し出した。
「えっ……あなた誰? なんで、わたしの名前知ってるの⁉」
嫌な感じはしない――むしろなぜか、親しみを感じる相手に、それでも警戒しながら、問いかけると
「『ナツ』だよ!」
にこにこと、答えが返って来る。
「えっ――『ナツ』って、まさか……子ウサギのナツ?」
「うん! ほら、見て!」
指で指した黒いシルクハットの、クラウンとつばの境目から、ぴょこんと、二本のウサギの耳が、飛び出していた。
「わあっ――触ってもいい?」
「うん!」
恐る恐る、そっと触れた黒い耳は、いつもと同じ、ふわふわの手触り。
「ホントに、ナツなんだ……」
「そうだよ。ほら、行こう!」
差し出された掌に、右手を重ねながら
「行くって、どこに?」
少し不安げに、尋ねたアナベラに、にっこりと
「この歌声の出処――『魔法使い』のとこに、だよ!」
長いお耳をぴくぴくさせて、ナツは答えた。
かさりかさりっ――二人で手を繋いで、落ち葉の上を歩いて行くと、だんだんと歌声が、大きくなって来た。
「ほらっ、ここが『魔法使いの家』!」
ナツが右手に持った、カンテラを掲げると、光の中に小さな、木で出来た小屋が現れた。
「あれっ……この小屋、見たことある?」
兎穴の裏庭、兎小屋の奥に建っている、道具小屋にどこか似ている。
不思議そうに首を傾げた、アナベラの前で、コンコンとノックを2回。
「おはいり」と返事を聞いて、子ウサギのナツは、古い木の扉を開けた。
「魔法使いーっ! アナベラを、連れて来たよ!」
あれれっ? さっきの声も、どこかで……?
「ほらっ、入ろう!」
ナツに手を引かれて、足を踏み入れた小屋の中。
たくさんの本や紙の束、銀色に光る平たい箱、怪しげな実験道具など――雑多な物が詰め込まれた棚と、大きな机。
その前に座るのは……
「ようこそ、レディ・アナベラ」
「えっ……トムおじいさん⁉」
庭師のトム・エバンズが、いつもと変わらない、穏やかな笑顔で、パイプの煙をくゆらせていた。




