無重力タクシーで、告白メモリアル☆
無重力タクシー乗り場へようこそ!
あなたも、主人公ミカンと無重力タクシーの旅を楽しんでみませんか?
不思議な時間&空間設定で車酔いしたらごめんなさい(笑)
あなたにとって良い時間が過ごせますように・・・。
それでは~~!!!レッツゴーーーー!!!
「無重力タクシー乗り場へようこそ!」
ミカンはそんな看板が掲げてある、
とあるショッピングモールの地下駐車場に来ていた。
「無重力タクシー」の存在を知ったのは、新聞の折り込み広告。
俳優の代わりにギャラが安いであろう二足歩行のクマの着ぐるみと、
日常でよく目にする一般のタクシーの写真がデカデカと掲載されていた。
広告にはキャッチフレーズで
「過去にやり残した事があるならば、まず、過去を変え、明るい未来を手に入れよう!」
と、何とも怪しげな文句が書かれてあった。
「過去なんて変えられる訳ないのに・・」
ミカンの住んでる地域はAIやロボットは行き来できないし(それが国の法律で定められているのだ)そもそもAIやロボットがいたとしても、過去や未来を行き来するそれらを手に入れるには莫大な資産やお金が必要だった。
ただ、この「無重力タクシー」なるものは、無利息で(普通のタイムマシーンは、借りている時間利息がつく)三十万、四十八時間以内に帰って来れば良いと言うのである。しかも、生存率百パーセント!学生でもご利用できます、と言うのである。
レイコとあんな約束しなければ、スルーしていた広告だった。
どんな約束をしたかって?
何とも古典的で、アリガチな話かも知れないが、
レイコの代わりに、隣町に住む、名の通った男子校に通うカズヤくんという御曹司に、
ラブレターを渡すというミッションだ。
所謂、「愛の告白」である。現在でも出来そうであるが、
つい半年ほど前、カズヤくんは、島を跨ぐ移住をしてしまい
連絡先を交換する前に
レイコの恋は撃沈してしまったのだ。
ミカンはレイコの恋バナに何度も乗っていたから、
放課後に泣き崩れるレイコを見て、とても気の毒に思った。
「あーあ。過去に戻れたらな。いっそ告白しちゃえば良かった。何で伝えられなかったんだろう」
聞く所によると、カズヤくんは、無類のUFOキャッチャー好きで、
わざわざ隣町からミカンやレイコの住む街の
遊園地にあるゲームセンターに出没していたらしい。
カズヤくんが、UFOキャッチャーをしたり、
ドラム職人のドラムを叩いたりして遊ぶのは、
毎週火曜日の午後八時と決まっていたという。
その時間を狙って、レイコもそのゲームセンターに
通いつめていたと言う訳だった。
でも、レイコ曰く、最後の日は唐突に訪れたと言う。
カズヤくんはレイコに、
「来週は、来ない。隣の島に引っ越す事になったから」と言い、
レイコは呆然としたが、
まだその時分に告白する勇気がなくて
「そうなんだ」と返しただけだった。
その時にカズヤくんの友達がゲーセンに入ってきて、
レイコとの会話は終了となった。
「可哀想なレイコ。本当に同情する」
「過去に戻りたいけど、私たちの地域じゃ、法律的に無理よね。お金も無いし、山の上の住宅街ばかりだしね。でも、隣町だと資産家も多いから、最近じゃ、高性能なタイムマシーンが利用できるって話」
ミカン達の住む地域は、小高い丘の上にあり、
タイムマシーンの走行は出来ない事になっている。
何でもタイムマシーンは低い土地の滑走路から徐行運転を行って、
高い空の上で消え、過去や未来へ消えるものが多く、
丘の上からの徐行は行っていないのだ。
でも、そんな話をしていた次の日の朝刊の折り込み広告に、
「無重力タクシー」の宣伝が入っていた。
ミカンの住む地域からそう離れた所でない、ショッピングモールの駐車場から、
「無重力タクシー」なるものが出発しているらしい。
さて「無重力タクシー」とは何なのか?
広告には、説明書きとして、
「タクシー徐行運転中に社内を一瞬だけ無重力空間にする事で、モノの数分で過去に戻れます。
妊娠中の女性はお控えください」
と書いてあった。
それをレイコに話したら、三十万利息付きで返すからラブレター渡してきて、と泣き疲れた。
レイコの家庭は、この地域では一番のお金持ちだったが、
過去に戻る際には、必ず第三者が施行するような決まりになっていた。
自分の成長過程のどの辺りを希望するかによって違うが、
当人同士の接触は、ドッペルゲンガーと見なされ、
中には、タイムマシーンで帰ってきた時に死んでしまう人もいるのだそうだ。
なので、これも法律で第三者が協力するように決まっているのである。
無重力タクシー乗り場は空いていた。
秋の夜だったがまだ、寒くはない。
二~三人の列に並んで、いよいよミカンが乗車する番になった。
タクシーの運転手が、ミカンの名前と過去に戻って実行したい事を確認する。
そして、宇宙飛行士が被っているようなヘルメットを渡された。
「シートベルトを締めてください。行き先は、この月の第三週目の火曜日、○×遊園地のゲームセンター二十時でいいですね?」
「はい」
ミカンは、レイコのラブレターを持つ手に力を込めた。
「それでは、出発します」
タクシーが動き出す。
「地下駐車場を一周し、坂を上って行く。坂を登り切った所がタイミングですから」
その瞬間は少し時空がゆがみますが、すぐ元通りになります、と運転手は話した。
「うわ」
ふわっと身体が宙を浮いたような気がした。思わず目を瞑る。
「お客さん、目を開けて大丈夫ですよ」
運転手の言葉を信頼して、目を開ける。
そうすると、ミカンを乗せたタクシーはいつも買い物する商店街の横の道路を過ぎたところだった。
「え???これってもう過去に戻ってるんですか?」
「勿論。そんなぼったくりはしませんよ。正真正銘、その月の第三週目の火曜日です。ほら、もうすぐ遊園地に着きますよ」
それから数分でタクシーは、遊園地の入り口に着いた。
「はい。私はここで待ってるので。お客さんはご依頼をお済ませください」
ミカンはお礼を言い、タクシーを降りた。
半信半疑だったが、遊園地の観覧車の日付が、
依頼した日になっているのを確認して、本当に過去に戻ってきたのだなと、確信した。
腕時計も確認しようとしたが、
タクシーに乗る前に無重力タクシー乗り場付近にいた従業員に
預かってもらったことを思い出した。
時刻や日付を表すデジタルは、壊れてしまう可能性があるから、
手荷物として預けていたんだっけ。
ゲームセンターに向かう。時刻は丁度午後八時だった。
急いでUFOキャッチャーの設置されている場所へ向かう。
すると、見慣れたレイコの顔があった。カズヤくんと楽しそうに笑っている。
「レイコ!」
ミカンはレイコに声をかけた。レイコはきょとんとしてミカンを見た。
「ミカン、どうしたの?」
「へへ。未来のレイコからのお願いで来たの」
そういうと、ミカンはカズヤくんに向かって、
未来のレイコからもらったラブレターを差し出した。
カズヤくんは、それを受け取った。
「へえ。本当に未来から人がやってくる事なんてあるんだ。まだ聞いたことしかなくて。凄い経験だ」
そして、カズヤくんはレイコに言った。
「ありがとう。友達に依頼してくれて」
レイコは不思議そうな顔をしていたが、
その時に丁度タイミングがよくカズヤくんの友達がUFOキャッチャーで遊びに来た。
「じゃあ、またね」
カズヤくんはそう言って、友達と談笑しながら、またコインを入れて遊び始めた。
未来から来たミカンと、過去のレイコ。
ミカンは、レイコを連れてゲームセンターから出て、
外のベンチに腰掛け、簡単に事情を説明した。
レイコはありがとう、ありがとうと何度もミカンに頭を下げた。
ミカンはいいよ、私もこれで自由研究の課題書けるし、と答えた。
「あ、でも何の依頼かは書かないよ。レイコのプライバシーにもなるからね」
二人は夜の月を見ながら笑った。
友達を助けられた事がミカンはとても嬉しかった。
無重力タクシーでまた、現在に戻る。
レイコと別れてまたタクシーが停車している場所まで戻った。
そして、ミカンは現在に戻ったのだ。
現在に戻った日から数えて、二日後が学校だったが、
その日を待たずしてレイコからラインで連絡があった。
「カズヤくんと連絡先交換できて、付き合うことになった。まあ、遠恋なんだけどね」
「よかったね」
無重力タクシーの利用者は、広告に載っていたクマの着ぐるみスタンプが無料でダウンロードできる。
そのスタンプも一緒に送った。
長旅、お疲れ様でした。
いかがだったでしょうか。
お読み頂きありがとうございました。
無重力タクシーの旅が、
面白く楽しめたら、幸いです。