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それは入社初日の事だった6

 いや、とりあえずはまだ初日だ。しかも、結構、就活は大変だった。書類で落とされたり、面接まで漕ぎつけてもお祈りメールをもらったりと。 

 それにまだ、社長に会ってない。俺の面接を直接した人とまだ会ってない。


 今思えば、面接も二回だけだった。

多分、部長と最終面接が社長だったのかもしれない。


 叔母さんにも言われた事がある、父と母、妹のメグルを失ってから俺を家族同然に育ててくれた叔母さん。

 「明るく生きなさい。意思があれば道は通じる」と。

 今までもそうしてきた。とりあえず、仕事の内容は志望とは違うけれども、何か得られるものが一つでもあればいい。


 「あの、時代くん」

 赤月みのりが声をかけてきた。

 「はい、何でしょうか」

 赤月みのりはニコッと笑いながら

 「ちょっと落ち着いたら、会社の中もう少し紹介させて、それから吉さんに仕事の事、話してもらうから」

 「分かりました」


 自分でも驚くほど、立ち直りが早い。

赤月みのりも俺の返事に安心したのか、立て続けに会社の事を話した。


 赤月みのりは俺を元気づけようと、自分の失敗談なども交えながら話してくれた。


 話している中で、部長の石さんともう一人の男性がやってきた。

 「ああ、オンラインの面接でお会いして以来ですね。部長の石です。よろしくお願い申し上げます」

 石部長は歳下の俺にも敬語で接する。


 「こちらは課長の権藤さん、営業だけど、パワポとか資料は殆どこの人が作ってます」

 「どうも、権藤です。よろしく」

 権藤さんは右手の親指を立て俺に挨拶をした。

 「あ、時代です。よろしくお願い申し上げます」


 石部長は穏やかな口調で赤月みのりに聞いた。

 「もう、自己紹介は終わったのですかね」

 「はい。一通り終わりました」


 「そう。それはよかった。時代さん、まぁ人数は少ない会社なんですが、やる事はそれなりに多くて、覚える事もたくさんありますが、焦らずにやりましょう」

 石部長の言葉になぜだか、落ち込む気持ちも消えていくように感じた。


 それから、時間はあっという間に過ぎて俺は吉さんの元で営業の仕事を覚える事が決まった。

 今日は社長には会えないまま退社となった。


 朝からの暑さと入社の緊張で疲れた。帰りは東京メトロ東西線に乗って帰ったはずだけど、いつの間にか家に着いていた。


 ワイシャツを脱ぎ始め、買ってきた弁当を開けようとした時、電話が鳴った。

 「ん?」

 大学時代の友達、テツヤからだった。


 気心知れてるから、ランニングシャツのまま、スピーカーにして出る。

 「もしもし」

 「あ、トメル? 俺テツヤ! どうだったよ、初日。憧れのロボはできそうかぁ?」

 「え、ああ。まぁまだ初日だし。分からないよ」


 「あ、そう。それなら良かった。いやさ、おまえ、行きたかった部署に配属されなかったりとかなかったのかなと」

 う、図星。


 テツヤは同じ理工学部であるけども、マスコミに関心があり、テレビ局の科学技術文化部に所属している。

 俺とは違い就職も早々と決まり、四月から入社していた。

 「大丈夫だよ。とりあえず今日、入ったばかりだから、まずは仕事覚えていくわ」

 「そっか、あ、それよりさ。おまえ中学の時、地震にあったて、言ってたよな」


 よく覚えてるな。いろいろ話そうとしているが、疲れから睡魔が襲ってきた。

 「あ、ああ、それがどうかしたのか」

 「いやな、先週北海道でさ、地震があったんだけど、地震で出来たとは思えない、クレーターのようなものができていてさ。なんか似たような事、おまえ学生時代に言ってたなぁと思って」

 

 眠気が覚めた。目を見開いた!

 「え?それ、どういう事」

 「いや、だから。おまえが中学の時、地震にあったけど、それが地震とは思えないって。家が飲み込まれたり、ておまえが話してた事とよく似てるなと思って」 


 「え、テツヤ! もっと詳しく教えてくれ! そこに怪獣は出なかったか!」

 「怪獣? なんだそりゃ」

 「あ、いや、なんでもない」


 「たださ。おまえて東北出身じゃん。この北海道の地震の近くにある施設とおまえが住んでた場所にも同じような施設があったんじゃないかと思ってな」

 「え? 施設? どんな施設だ」


 「高精度エネルギー転換処理システム。原子力のようなゴミを出さない、資源が潤沢でない日本を救うエネルギーシステム、その施設だよ」


 高精度、エネルギー……。

あ!中学の時、社会見学に行った!確かに俺の住んでた町の近くにあった! 

 でもあの地震以降、あのシステムて地震の影響で損壊して稼働していないはず。


 高精度エネルギー転換処理システム、それが何か関係しているというのか、俺の家族を奪った地震、いや怪獣災害。

あれ以降も地震はあったけれども、町を飲み込むような地震はなかったと記憶している。


 「もしもし? おーい! トメル。聞こえてるかー」 

 テツヤの電話はまだ続いていたが、適当に返事をして切った。


 窓を開けて風を入れた。外は涼しく、そして静かだった。

遠くで虫の声が聴こえている。


 何かが動き出しているのだろうか。

今の俺には分からないし、何もできない。

 少なくとも今の時点では。

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