それは入社初日の事だった5
頭の中が真っ白になりそうだ。
いや真っ白だよ。燃え尽きそうだ。
俺はロボの開発、ロボを作る事ができる、そう思ってこの会社に来たのに!
大柄な営業社員、吉サブロウさんの一言に全てを打ち砕かれたようだった。
「あ、あの時代くん? 時代くん、大丈夫? 大丈夫ですか?」
「え? あ、ああ。 僕、仕事の中身、分かってなくて、この会社に来ちゃったんですね」
「そ、そんな事ないわ! えーと、ロボ、ロボを作りたいんでしょ? この会社は営業専門だけど、系列は同じだから! 大丈夫」
「ホントですか? 大丈夫って、その根拠は? 誰かこの会社からロボ作ったり、異動した人いるんですか」
さっき紹介された新田さんがやってきた。
「やっぱり、君も営業じゃん! いいじゃん! 営業で! 楽しいよ営業は。ま、オレは営業しか知らないんだけどね」
そう言うと新田さんはビジネスリュックを背負いはじめた。
「あ、赤月さん。オレ、ノーリターンなんで。ホワイトボードに書いといてー。あ、時代くんだっけ? この会社から他の部署とか異動した人、いないからねー」
新田さんは営業先に向かうのか、部屋を出た。
俺に追い討ちをかけるような言葉。いや、ある意味、現実を突きつけられたのだ。
現実、そうだよな、世の中そう簡単に上手く行く事はないんだよな。
やりたい仕事に初めから就けるなんて、まずないのかもしれない。
会社に見る目がないのか、いや俺に会社を見る目がなかったのか。
さっきの雪森さんだっけか、あのスラッとしたクールビューティーな女性社員はもう初めに答え言ってたんだ。
営業専門の会社、それ以上でもそれ以下でもないと。はぁ、俺は馬鹿だ。
なんだか開発がしたい、て挨拶してる事と間違えてこの会社に就職希望した事がとても恥ずかしくなってきた。
「あ、あの時代くん。まだ他の人への自己紹介、終わってないけど、どうする?」
赤月みのりは俺に申し訳なさそうに声をかける。
「あ、いいです別に。 自分の席に座っていていいですか」
「うん、いいけど。 オンラインで説明もしたように、入社式とか、集まっての挨拶とかは特にないから。あと部長の石さんと近藤さん、社長を紹介しなくちゃいけないけど、今三人とも打ち合わせ中だから」
俺は急に暑い中、歩いたせいだろうか、いやそれとも願っていた事が叶わなかったからなのか、脚にいや体に力が入らなくなっていた。
俺は赤月みのりに紹介された自分の座席に重い足取りで向かった。机にカバンを置き、とりあえず座ってみた。
机の上には電話機と俺が使う予定のノートパソコンと諸々の事務書類が置いていた。
触る気にも読む気にもなれない。
間違えた、間違えて就職してしまった!ロボ、作れないじゃないか。
機動社、資本金九千万円、東証一部上場企業。業務概要は……。
①産業用ロボットや、ロボットを含んだ装置の設計開発。
②3次元CADによる解析、MATLAB等による運動分析。
③材料知識、化学知識等を活用した理想的なメカ機構の開発。
ここ九段下は商品化した産業機械を既得意と言われる、既にお客さんになっている企業に新しい商品を買ってもらうために営業する、いわば営業所なのだ。
ああ、確かに俺は求人や募集職種をちゃんと見ていなかったかもしれない。
俺はスマホにブックマークしていた、機動社のウェブサイトにある会社概要をぼんやり見ていた。
どうする?俺。