それは入社初日の事だった
九段下の駅を降りて、階段をかけ上がる。
日射しは一気に俺に当たっている。
そんな気がするくらい目が眩むような夏の朝。
今日は俺にとって社会人としてのスタートだ。
あの地震、俺は怪獣災害と思っているが、あの時から八年。
俺は東京の叔母の元に預けられた。叔母のもとで中学転校、高校と通い。
大学では、ロボを作りたい一心でとある私立大学の理工系に進んだ。
その後いろいろあって、就職、入社が遅れたけれど、何よりも今日は初出社。
憧れていた、やりたかった仕事に就く日なのだ。
俺が憧れている仕事は機動戦闘ロボットを作る会社。我ながらよくこのような会社を見つけたものだ。
どの部署に就くのかはまだ分からない。
ロボットを作るから、てっきり工場の多い大田区や
または東京以外の場所での勤務かな、と思ったら九段下。
まあ、いい。プラモのマテリアル作ってる会社も確か九段下にあるし、きっと本社として九段下にあるのだろう。
それにしても朝から暑い。駅近くのマックかスタバでアイスコーヒーを飲んでおけばよかった。
会社に向かうには九段下から靖国神社に向かって坂を下る。汗が止まらない。
日を避ける場所はどこにもない。
暑い、道を歩きながらこの数年、いろいろあった出来事を思い出す。
突然、父さんも母さんも妹もいなくなったあの日から、何とか頑張ってきた。その頑張りが今日で報われるんだ。
会社は数分歩いた所にあるビルの四階にあった。
面接もオンラインで行っていたから、出社は今日が初めてになる。
「着いた」
会社の名前は機動社。ふと外からビルを見上げる。
この会社は機械メーカーでロボットを作っている。
そう、俺はこの会社で機動ロボットを作るために
入社する。
アニメやSFに出るようなロボットを開発したい!
この会社なら名前も近いし、きっと何かできるはず!
求人にも機動力重視と書いてあった!
しかし、思っていたよりもビルは細長くて、
一階ロビーにある、各階の案内を見ると他の企業や
名前をあまり聞いたことのない会社も入っている。
ベンチャー企業なのだろうか。
初出社の緊張とかなり歩いたので、汗は滝のように
首筋から流れている。時計を見る、大丈夫だ。まだ少し時間はある。
俺はビルの中にあるトイレに入って、汗を拭きデオドラントスプレーで汗の匂いを消した。
一緒に入社する人や、かわいい女子社員とかいたら、臭いあの人とか思われたら終わりだ。
トイレを出ようとすると、社員らしき人とすれ違った。
「おはようございます!」
「え? ああ おはようございます」
いきなり挨拶をしたためか、驚かれる。
大柄でメガネをかけたベテランのように見える社員らしき人はそのまま、用を足していた。
深呼吸一回。
会社に一歩足を踏み入れる!
“機動社”のプレートの下にある電話。その受話器を取って、まずは人事にかけてみる。
コール三回。
「はい、総務人事でーす」
女性の声だった。
「おはようございます! 今日から入社します、じ、時代。時代トメルです。」
「はい、はーい。お待ちしてました。じゃあそのままドア開けてくださいねーカ
「はい! よろしくお願い申し上げます!」
軽い?いや明るい女性の声だった。
受話器をおろして、俺は目の前にあるドア、そのドアノブを握った。
今日から始まる俺の社会人生活!
ドアノブは意外に軽く、ドアは軽々と押すと開いた。