受け継がれる、家族愛
感じる視線の先には、ひ孫のピノの姿。
無言のまま、こちらをジッと見つめている。
何か言いたげな、そんな表情を浮かべて。
とりあえず、俺とあいつのやりとりは聞いてないだろう。
さて、いつものように楽しく過ごすとするか。
「ピノかい? どうしたの? 一緒におやつ食べるかい?」
あいつがピノに、声をかける。
「……話聞いてたよ。やっぱりメガじーちゃんってサイボーグなんだよね?」
予想を裏切るひとことに、思わず息が詰まる。
「ピノに隠しごとしてもムダだから」
やけに洞察力が鋭く賢い子だと、ふだんから感じてはいたが……。
――まさか、俺たちの話を聞いていたとは。
ここまで問い詰められたら、もう隠しようがない……。
「……バレたならしかたないね」
あいつも同じことを考えていたようだ。
「ピノにだけ教えてもいいかい?」
「ああ、いいよ」
知られてしまった以上、この子には本当のことを告げるべきだ。
農作業中の事故の一部始終、医者から告げられたサイボーグ化の話、入院中のリハビリのこと。
すべてをピノに打ち明けた。
サイボーグ化したこと、リハビリに耐えたこと、それらはすべて家族のため。
あいつがいて、ハルカツがいて、俺たちのあとに続く人たちがいる……。
大切に思う人のために、俺は生きることを選んだ。
「俺がここで何もできなくなったら、ばーちゃんにも子供たちにも苦しい思いをさせてしまうと思って、サイボーグ化してもらうことにしたんだ。このことは、俺とばーちゃんの二人だけの秘密にするって決めたんだよ……」
「メガじーちゃん……話したくなかったのにごめんね」
ピノなりに、気遣ってくれているんだな。
そのひとことが、胸に沁みる。
「なんもいいんだよ。ピノに話したことでちょっとホッとしてるんだ」
――あいつの他に、秘密を共有する相手が現れる日が来るなんて。
でも、これまでの重苦しさから、ようやく解放されたような気がする。
「ばーちゃんは何年もじーちゃんを見て来てるから疑問にも思わなかったけど、昔はサイボーグって言ったら『ミサイル発射する!』とか『突然爆発する!』なんて大げさに考える人もいたかもしれないからね。周りの人に誤解されるのが怖くて言えなかったんだ……」
「俺のせいで子供たちがいじめられたら……と思うと、家族にも言えなかった……」
誰だって、“得体の知れないもの”に対する恐怖というものがある。
まさか、俺自身がその“得体の知れないもの”になってしまうとは。
自ら決めた道だけど、俺のせいで大切な人が苦しむのだけは……。
そう思うと、涙が滲んでくる。
「……サイボーグだろうと、メガじーちゃんはピノのメガじーちゃんだもん!! もしメガじーちゃんがサイボーグだって世の中にバレても、ピノがメガじーちゃんのこと守るから!!」
強い決意を込めて、ピノが声を張り上げた。
ピノのその言葉に、何年も抱えてきた葛藤が音を立てて崩れた気がした――。
「ピノ……ありがとう」
いくら感謝の言葉を伝えても、まだまだ足りない。
「ピノは優しい子だね」
あいつも思わず、目尻を下げる。
「だって大切な家族だもん……。家族のことはきちんとわかっていたいし、何かあったら守るのは当然だよ!」
俺が家族を思う気持ちは、しっかりと後世に伝わっている。
ピノの言葉で、それを確信した――。