風切って、疾走(はし)れ
俺の機能のひとつに、速く走れるってのがある。
本気を出せば、チーターに余裕で勝てるくらいのスピードは出る。
若い頃は、誰もいないあぜ道を猛スピードで駆け抜けて、家に帰ったもんだ。
……そういえば、しばらく走ってないな。
最後に全速力で走ったのは、いつのことだったか?
また、頭の中で自分自身のタイムラインに、アクセスしてみる。
――あれ?
もう、十一年は走ってないのか……。
身体の機能は、使わないと衰える。
インプラントの機能も、使わなければ錆びついてしまう。
これが、俺の持論だ。
――久しぶりに、風を切ってみたい。
思いっきり、全速力で駆け抜けてみたい。
ちょっと、散歩がてら走ってみるか。
周りに誰もいないか、一応確認しないとな。
右見て、左見て……よし。
いくぞ! 若い頃を思い出して、猛ダッシュ!!
まわりの景色が、あっという間に過ぎ去っていく。
ビュンと風を切る音が、心地いい。
久しぶりの、この感覚。
ああ、俺、今、思いっきり走ってる。
この瞬間は、本当に爽快だ。
サイボーグ化してもらってよかったって、純粋に思う。
――でもな。
完全に油断してた。
まさか、あいつらに見られてたなんてな――。