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Destiny ~ 負の螺旋と希望の光  作者: 栗坊
第一章 邂逅
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暗流の悪意

幾つもの運命が交錯する現在…

幾つもの宿命が消失していった過去…

未来は一体何の為に…誰の為にあるのか…


この世に意味のない出逢いなどあろうか……

多くの人々で(にぎ)わうスタッツ通りを抜けて街をさらに北に進むと、堂々としたスターフォード城が巨大な姿で立ちはだかる。街と城を(へだ)てる深く掘られた(ほり)には豊かな水が(たくわ)えられ、城を目の前にして(あらた)めて見上げるスターフォード城は威厳(いげん)に満ち、まさに鉄壁の要塞(ようさい)そのものだった。

隔絶(かくぜつ)されていた空間を(つな)ぐように、城側に吊り上げられている巨大な()ね橋がジャラジャラと鎖が放つ甲高(かんだか)い金属音と共にゆっくりと下りてくる。()ね橋の左右には(とお)ってきた街中(まちなか)で何度も目にしたスターフォードの国旗(こっき)「真紅の五芒星(シャイニングスター)」を連想(れんそう)させる朱塗(しゅぬ)りの匂欄(こうらん)が、太陽の光に反射して(あわ)い輝きを放つ。


師であり父でもある祈秀(きしゅう)の後ろに着いて、たった今下りてきたばかりの橋を渡る秀因(しゅういん)は、さっきまでの喧騒(けんそう)な街の雰囲気(ふんいき)とは一転、城に近付くほどに殺伐(さつばつ)とした空気感へと変化していくのを肌に感じていた。

今までに城下のスタッツまでは何度か訪れたことはあったが、今回、初めてスターフォード城内に足を踏み入れる秀因(しゅういん)(みょう)な緊張感に息詰(いきづ)まり、自分の体が自分のものではないような心許(こころもと)ない感覚に(とら)われた。


『そう固くなるな、秀因(しゅういん)


大抵のことには動じないはずの弟子であり息子でもある秀因(しゅういん)が珍しく緊張感を(ただよ)わせているのを背後に感じ、祈秀(きしゅう)は前を向いたまま秀因(しゅういん)に声を掛けた。


自分が思った以上に緊張していることを知った秀因(しゅういん)は、ゆっくりと深呼吸をし、いつもの自分を取り戻していく。

落ち着きを取り戻した秀因(しゅういん)の心にある疑問が()き上がる。


(あの星(・・・)を見てから父上はまるで何かに突き動かされるようにここまで来た…いったい何が起ころうとしてるんだ…)


後ろの秀因(しゅういん)から伝わってきていた張り詰めた感覚は(うす)祈秀(きしゅう)は少なからず安心した。


『大丈夫のようだな』


『…はい…』


しかし、次はさっきまでの緊張感(きんちょうかん)とはうってかわって、心ここにあらずとすぐに分かる息子の気のない返事に祈秀(きしゅう)は思わず後ろを振り返る。そこには左手に右肘(みぎひじ)をのせ右手でしきりに(あご)(さわ)るいつもの物思いにふける秀因(しゅういん)の姿があった。


(フッ、まったく此奴(こやつ)は…)


小さい頃から思慮(しりょ)深い(気になったことは徹底的に考え尽くす)秀因(しゅういん)を、いつも納得がいくまで考えさせ、自分で答えを見つけるまではいつまででも待つことにしている祈秀(きしゅう)だったが、この時ばかりは秀因(しゅういん)の考えを聞かずにはいられなかった。


『何か気になることでもあるのか?』


『気になるということではないのですが…ただ』


『ただ?』


相変わらず親指と人差し指で(みずか)らのあごを()まみ虚空(こくう)に意識を固定させたまま視線を全く動かさない。考えを(めぐ)らせながらも歩みを止めることなく祈秀(きしゅう)の後ろを一定の間隔(かんかく)で着いてきている。

何かを言おうとした秀因の口は「へ」の字に閉じられ、再び自らの脳内(せかい)へとその意識を(もぐ)らせてしまった。


橋の中央付近まで渡り終えると、城側の袂辺(たもとあた)りに文官らしき濃紺(のうこん)僧衣(そうい)を着た男が立っているのが見える。愛想の良さそうな笑顔を向けて深々とこちらにお辞儀をする男はまだ若く見える。


『お待ちしておりました。祈秀(・・)様に秀因(・・)様』


そう言って男は満面の笑顔で二人を出迎えた。


『ほう!よく分かりましたな。儂等(・・)のことを』


『えぇ、そろそろお()でになるはずと元帥(げんすい)様より(うかが)っておりましたので』


落ち着き払った男は相変わらずその顔に満点の笑顔を張り付かせている。


祈秀(きしゅう)預言(よげん)の塔で秀因(しゅういん)(ひとみ)に映りこんだあの星(・・・)を見つけたあと、スターフォードに出立(しゅったつ)する前に大まかな内容を記した(ふみ)を「(さん)ガイア軍元帥(げんすい)ゼロ」へ()てて運ばせていた。

その(ふみ)の中で遅くとも今日明日中には城に着くことを(しる)していたので、祈秀(きしゅう)が今日スターフォード城へ到着することは容易(たやす)く想像がつくのは理解できるが、息子の秀因(しゅういん)が一緒だということは一切触れていない。


『しかし(わし)はともかく、よく()れが息子の秀因(しゅういん)とお分かりになりましたなぁ』


『それは…秀因(しゅういん)様のご(うわさ)()ねがね(うかが)っておりましたし、何より橋を渡って来られる時のお二人の雰囲気(ふんいき)がとてもよく似ておられましたので』


『ほぅ、(わし)此奴(こやつ)が?』


『えぇ』


満更(まんざら)でもない表情を浮かべる祈秀(きしゅう)ではあったが、その心中(しんちゅう)には目の前の男へのある可能性と疑問が同時に()き上がる。


(まさか監視……?しかし、いつから…何のために…?)


笑顔と困惑(こんわく)が同居した複雑な表情の男は、


『ところで秀因(しゅういん)様は何かございましたか?先ほどからとても難しい顔をしていらっしゃいますが…』


そう言って秀因(しゅういん)祈秀(きしゅう)の顔に何度も視線を往復(おうふく)させる。


『あぁ、此奴(こやつ)(しばら)く捨て置いてくだされ。いつ我等(われら)の世界へ戻ってくるかも分からんので』


我等(われら)の世界…ですか』


困惑顔(こんわくがお)一色になった男をよそに、秀因(しゅういん)(いま)だお得意のポーズで(みずか)らの脳内(せかい)にふけ込んでいる。


『ところで…』


男は祈秀(きしゅう)がそう言って自分の顔を見つめているのに気付き、自分が何者なのかをまだ二人に名乗っていないことを思い出した。


『申し訳ありません、自己紹介が遅れました。私は(さん)ガイア軍元帥(げんすい)ゼロ様に(つか)える「軍令師(ぐんれいし)」のレイと申します。此度(こたび)は本来であればゼロ様が直接お出迎えさせていただくところ、どうしても(はず)せない任務がございまして私がお出迎えさせていただくこととなりました』


『ほぅ、そうでしたか。それはご丁寧(ていねい)に』


(この若さで軍令師(ぐんれいし)(序列的には総部隊長と同等)?それに"元帥(げんすい)ゼロに(つか)える"とは何やら意味深(いみしん)に聞こえないこともないが…これは一癖(ひとくせ)二癖(ふたくせ)もありそうだな)


祈秀(きしゅう)もレイに負けず(おと)らない笑顔の仮面を張り付かせながら、頭の中ではレイの話をあらゆる角度、あらゆる可能性に考えを(めぐ)らせていた。


『いかんなぁ、年をとると無駄(むだ)に疑い深くなっていかん』


『はい?何か』


『いやいやなに、こっちの話です』


古狸(ふるだぬき)妖狐(ようこ)にも見えるお(たが)いが腹の中を探りあぐねているのか、表情と反して周囲の空気が妙にピリピリとしてきた。そんな切れ者同士の二匹?が(かも)し出す(こご)えそうなほど冷たい雰囲気(ふんいき)の中、秀因(しゅういん)は何事もないかのように(いま)(おのれ)の思考の世界にどっぷりと()かっていた。


吊り橋を抜けたアーチ型の城門を抜け、(おごそ)かな城内へと足を踏み入れると石造り特有の冷んやりとした空気感が一帯を(ただよ)う。縦横(じゅうおう)に伸びる石畳(いしだたみ)回廊(かいろう)が歩くたびにその足元から乾いた音を響かせる。


(しばら)く真っ直ぐ進むと東側に階段が現れ、そこから二階へと上がった。階段を上がりきった踊り場正面の壁には、歴代の王達の肖像画が飾られていた。

(がく)(おさ)められた動かぬ王達を前にレイは立ち止まると、目礼(もくれい)だけでやり過ごし再び北に伸びる廊下へと二人を(うなが)した。二人を(ともな)って目の前を悠然(ゆうぜん)と歩くレイは、なんの迷いもなく進んでいるところを見るとこの城の造りを熟知(じゅくち)しているのだろう。

進む廊下の先に外の光が当たっている所が見てとれた。そこでは中庭の演習場(えんしゅうじょう)を見下ろすことができ、近付くにつれて中庭から(くう)()(するど)斬音(ざんおん)幾重(いくえ)も聞こえてくる。

城内中央に位置する広大な演習場は吹き抜けになっており、見上げると四角く切り取られたパノラマの晴れた空がこちらを見下(みお)ろしている。

演習場では、数百にものぼる灰色(はいいろ)(よろい)に身を固めた隊列が空からの光を乱反射させながら整然と並んでいた。


『ほぅ!これは…』


三人の眼下(がんか)では掛け声とともに各々(おのおの)が持つ(けん)短剣(たんけん)(やり)などの多種多様(たしゅたよう)の武器が音をたてて虚空(こくう)()()く。()り下ろした剣先をすかさず袈裟(けさ)に返し、再び大きく降り下ろす連撃(れんげき)の息つく暇もない程の一糸(いっし)乱れぬ隊列の動きは、精緻(せいち)で芸術と言ってもいいほど美しく統一されていた。滅多なことでは驚かない祈秀(きしゅう)でさえ感嘆(かんたん)の声を漏らさずにはいられなかった。



それは突然の出来事だった…


あれほど晴れ渡っていたライトブルーの空は、どす黒い(にわか)に広がる暗雲(あんうん)であっという間に(おお)われていく。その刹那(せつな)、目を(くら)ませる閃光(せんこう)の後に腹の底まで震わせる破音(はおん)が鳴り響き、さらに重い衝撃波(しょうげきは)となって大気や建物、大地までも震え上がらせる。


『ほぅ、これはまさに青天(せいてん)霹靂(へきれき)


『……』


(ほぅ、大した心胆(しんたん)だ。これほどの天変(てんぺん)(まゆ)ひとつ動かさないどころか(うす)(わら)いを浮かべるとは…しかしまぁ……その辺はウチの坊主(ぼうず)も負けてはおらんがな)


青天(せいてん)霹靂(へきれき)どこ吹く風と、(あい)も変わらず眉間(みけん)(しわ)を寄せ(あご)(もてあそ)秀因(しゅういん)尻目(しりめ)に、眼下(がんか)の演習場に視線を戻すと縦横(じゅうおう)に広がっていた見事な隊列は()()りとなり、皆、足早に避難(ひなん)し始めている。

祈秀(きしゅう)(となり)で同じように演習場を見下(みお)ろすレイを横目に見ると、やはり(うっす)()みを浮かべている。演習場をというよりは虚空(こくう)を見つめて何かを夢想(むそう)しているようにも見える。

祈秀(きしゅう)の視線に気付いたレイがスローモーションのようにゆっくりと振り向く。その動きに合わせるかのように空から演習場の一角(いっかく)へと竜の牙のような鋭い稲光(いなびかり)の尾が伸び、数秒遅れて大気を破壊せんと竜の咆哮(ほうこう)を思わせる轟音(ごうおん)が鳴り響く。


閃光(せんこう)に目を細め、向かい合うレイを見つめる祈秀(きしゅう)の目には一瞬、レイの瞳の中に(あや)しい炎が揺らめいているように見えた。

まるで血液(けつえき)を思わせるような(あざ)やかで生々(なまなま)しい紅色(くれないいろ)

街中で揺らめいていた真紅(しんく)五芒星(シャイニングスター)と、預言(よげん)の搭で秀因(しゅういん)の瞳に映り込んで見えた、北東の鬼門(きもん)(あや)しく輝く紅星(こうせい)を連想せずにはいられなかった…

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