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Destiny ~ 負の螺旋と希望の光  作者: 栗坊
第一章 邂逅
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真紅の五芒星 シャイニングスター

ゆっくりと動き出した歯車はガイア大地に何をもたらすのか…

大地を映す天空の紅き星…

大地に揺れる真紅の五芒星…

何を照らし何を隠すのか…

ガイア大地北部に位置する「霊山玄武(れいざんげんぶ)」。山の傾斜は(ゆる)く、種類豊富な木の実や山菜がよく()れる。そんな木の実などを食料とする猪や鹿、野うさぎなどの動物達が数多く棲息(せいそく)する比較的低く(おだ)やかな山ではあるが、かつて、人間と魔竜の戦いが繰り広げられたとき人間は魔竜の強大な力を封じるために、玄武山(げんぶさん)聖精霊獣(せいしょうれいじゅう)大地神(クロム)」の力を借り、辛くも戦いに勝利したという伝説がこの地で語り継がれ、今でも玄武山(げんぶさん)は神聖な霊山として(あが)められている。


玄武山(げんぶさん)(ふもと)からどこまでもどこまでも続く広大な大地に暗灰色(あんかいしょく)の石の壁で国をまるごと囲いこむ「軍事国家スターフォード」はある。

天にも届かんと高く建てられたスターフォード城の威厳(いげん)に満ちた(たたず)まいに、この国の人々は安心と勇気を与えられる。

国をぐるりと囲う城壁と国の中心にあるスターフォード城には、「霊山玄武(れいざんげんぶ)」より切り出した巨石「玄武岩(げんぶがん)」が使われており、その硬度(こうど)は非常に高く、鉄の刃でさえなかなか歯を通さない。そんな玄武岩を整形し積み上げた城壁はどんな攻撃にも耐え得る鉄壁といっても過言ではなかった。

今尚、城壁を積み上げ続けるスターフォードは、石切職人や切り出した巨石を運搬する石工(いしく)や石細工職人などで活気に満ちており、城下の街は常に人で溢れ(にぎ)わいをみせていた。


スターフォードには出入口が東西南北に四つある。

その全てに高さ十メートルはある鋼鉄製(こうてつせい)の巨大な観音開(かんのんびら)きの扉が使われており、昼間は開け放たれているが夜には全て閉ざされ入ることも出ることも出来なくなる。その堂々とした鉄扉(てっぴ)は、かつて魔竜の強大な力を封じた「大地神(クロム)」の力が宿っていると信じられていた。

黒に塗布(とふ)された鉄扉(てっぴ)の中央には、スターフォードの言い伝えで「救世主・力の象徴」と神聖視(しんせいし)される紅星(こうせい)を型取った「真紅(しんく)五芒星(ごぼうせい)シャイニングスター」が深々と刻み込まれている。城内や街中のあらゆる場所にも白い生地(きじ)の中心に(あか)いシャイニングスターが黒の五角形に重なるように描かれ、この地方特有のザラザラとして乾いた風に揺られていた。


南側の重厚な扉の奥に広がるのはスターフォード城下の街「商街区(しょうがいく)スタッツ」。人々で(にぎ)わう街の喧騒(けんそう)が辺りを包む。特にメインストリートである「スタッツ通り」は、一際(ひときわ)活気に満ちており、許可さえ受ければ誰でも出店が可能なことから「自由商特区(じゆうしょうとっく)」と呼ばれ、溢れんばかりの人でごったがえしている。

通行の邪魔にならないように区分けされた道の(はし)に敷物を広げる者や(のき)を構える者、各々(おのおの)が思い思いの品物を所狭しと並べている。


城下は三つの区域に分かれている。

玄武山(げんぶさん)から採掘(さいくつ)した玄武岩を運搬し、城壁に使う巨石に加工する工房や、軍事国家スターフォード(よう)する「(さん)ガイア軍」の武器防具を量産(りょうさん)する工業区「ビナード」。


もう一つは、「ビナード」で働く職人達やその家族が暮らす住民区「キャフエ」。


そして、スタッツ通りを含む自由商特区「スタッツ」の三つである。

スタッツ通りに所狭しと広げられたとりどりの品物は、それぞれの店で様々だ。


~ 昨日の店主は今日の客 ~


日によって店も変われば人も代わる。日々変化しているからこそ毎日新鮮さを味わえるとスタッツ通りは人々で溢れているのだろう。

今日も変わらず通りは(にぎ)わいを見せ、バラエティに富んだ品物が並べられている。

玄武山で採れた山菜をメインとする惣菜屋(そうざいや)、それをつまみに酒を出す立ち()み屋、傷によく効く薬草や熱を下げる丸薬(がんやく)、気つけのための(へび)の酒漬けや、大型で獰猛(どうもう)だが食すと滋養強壮(じようきょうそう)に良いとされる(つばめ)とほぼ同じ大きさの燕蜂(つばめばち)のハチミツ漬けなどといった珍品を並べる薬屋もある。また、色彩(しきさい)豊かな女性物の衣服屋や、木や石などを彫って作ったブローチや飾り物を置く小物屋。さらには、革で造られた軽装(けいそう)の防具やお世辞にも()れ味が良さそうにはまったく見えない短剣や、刃毀(はこぼ)れのひどい()びついた大型の(つるぎ)などを売っている店もあり、実に様々な店や人が朝から日が傾く夕方まで毎日のように通りを(にぎ)わせていた。


人々で(にぎ)わう昼時のスタッツ通りを、そこには全くと言っていいほど不釣(ふつ)り合いな男二人が人並みを()うように足早に歩いている。売り物には目もくれず編笠(あみがさ)目深(まぶか)(かぶ)り黒の布衣(ほい)に身を包んだ陰明寺祈秀(きしゅう)と、その息子秀因(しゅういん)である。

人々の溢れる笑顔を傍目(はため)に、黙々と通りの奥に(そびえ)るスターフォード城へ向けて歩みを進めていた。人々でごったがえす通りを抜けようとしたその時、突然、刺さるような視線を背後に感じ、祈秀(きしゅう)の後ろについて歩いていた秀因(しゅういん)は思わずその場に立ち止まった。

(おもむ)ろに視線を感じた背後を振り返ってみると、そこには「天下一のメロンパン」と黄色の生地に真っ赤な文字で書かれたド派手な(のぼり)が揺れている。しかし、その店の前に客らしき人は見えず、周りの店の繁盛(はんじょう)した様子からは想像もできないほどの閑散(かんさん)とした空気がその店の周りにだけどんよりと(ただよ)っていた。


ただ……その店の前に珍妙(ちんみょう)な客?が腰を下ろしていた。その客とは店のすぐ目の前に"チョコン"と腰を下ろし、大きな欠伸(あくび)をしている全身真っ黒……ではなく、前後両方の足先だけが白く、まるで白い靴下を()いているように見える黒猫だった。その姿は黒の布衣(ほい)に白の足袋(だび)を身に付けている祈秀(きしゅう)秀因(しゅういん)の姿にどことなく似ていなくもない。


(まるで我等(われら)のような猫だな)


思わず失笑(しっしょう)する秀因(しゅういん)の顔をジーッと見ている。


『どうした秀因(しゅういん)


『いえ、何も』


秀因(しゅういん)から視線を()らそうとしない黒猫の瞳はまるで海の底のように深くて暗い。


(さっきの()さるような視線はいったい・・)


まだ目を()らさずに秀因(しゅういん)を見つめる黒猫を尻目に、再びスターフォード城へと歩みを進める祈秀(きしゅう)秀因(しゅういん)

なんとなく気になった秀因(しゅういん)は歩みを止めることなく顔だけ後ろを振り返ってみたが、そこにはもう黒猫の姿はなく相変わらず閑散(かんさん)とした空気がその場に(ただよ)い、ド派手な(のぼり)がまるでこちらに手を振るようにその場で行き場なく風に揺られていた。

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