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Destiny ~ 負の螺旋と希望の光  作者: 栗坊
第一章 邂逅
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忘れ去られた最果ての地 ガイア

悲しき宿命…  憎むべき運命…  

非情なる過去…  残酷なる現実…  迫りくる未来…

全ては負の螺旋が作り出す絶望へと続く道か……或いは。


(そび)え立つ険しくも神々しい山々はまるで四方を守る鉄壁か、あるいは外界とこの地の一切を遮断する長城(ちょうじょう)のように峻厳(しゅんげん)なその姿を天空へと伸ばし「ガイア大地」を四方から(おお)っている。

ガイア大地の歴史が世界と交錯することはなく「忘れ去られた最果ての地」として、世界から完全に隔絶(かくぜつ)されていた。


東西南北を囲う山々


北方の「玄武山(げんぶさん)

南方の「朱雀山(すざくさん)

東方の「青龍山(せいりゅうざん)

西方の「白虎山(びゃっこざん)


この地に住む人々は四つの山々を合わせて「四神山(しじんざん)」と呼び、太古の昔からガイア大地を守護する神々として(あが)めてきた。


ガイア大地の(およ)そ中央には、(はる)か昔に伝説の大蛇が暴れ回って出来たとされるうねりの激しい「鬼哭川(きこくがわ)」が大地を東西へと真っ二つに引き裂き、その荒々しい激流を横たえている。

そんな鬼哭川(きこくがわ)源流(げんりゅう)となっているのは「北の玄武山」と「東の青龍山」のちょうど間、北東の鬼門の位置にあたる「鬼竜山(きりゅうざん)」で、かつて世界を破滅に導こうとした『魔竜バ・ハーム』が封印された暗黒の山としてガイア大地の人々に伝えられるいわくつきの場所でもあった。


鬼竜山(きりゅうざん)

ガイア大地北東の鬼門に位置し、常にどす黒い瘴気(しょうき)で山全体は覆われ一年中肌寒く、草木はとうに枯れ果て新しい生命(いのち)を産み出せずにいる。毒々しく(むらさき)がかった(もや)で大気は(よど)み、太陽の光さえこの地を照らすことも暖めることはない。

千年以上もの昔から幾度も復活を繰り返しては人間との間で激闘を続けてきた『魔竜バ・ハーム』が封印される呪われた死の山。


山頂付近にはいつも当然のようにかかる暗雲。自らを封じ込める怨山(おんやま)への怒りがそうさせるのか、大気を(くだ)(すさ)まじい轟音(ごうおん)は憎き人間を威嚇(いかく)する竜の咆哮(ほうこう)を思わせ、大地を切り裂かんとする(まばゆ)紫電(しでん)雷光(らいこう)は魔竜の鉤爪(かぎづめ)となって怨山(おんやま)を震わせ、ガイア大地の人々の心を恐怖で引き裂く。


(ほと)んど(きり)に近い濃い(もや)が辺り一体に立ち込める鬼竜山の(ふもと)、湿った大地に何度も足を滑らせながらも焦るように飢えた山肌を登る男の影があった。

生きているとは形容(けいよう)(がた)いほど()せ細った雑草がヒョロヒョロと男の腰くらいまで伸びている。全く抵抗のない雑草を力なく押し分けて進むと、ゴツゴツとした岩が()き出しになった道なき道を、男は肩で息をしながら必死に登っていた。


(ほこり)で汚れたその顔にはかなりの疲れが(うかが)えるが、そこに光る双眸(そうぼう)はまるで何かに()りつかれているかのように(まなじり)は上がり、瞳は血走り、その奥には狂気が支配していると思わせるほど険しく、怪しく光っていた。


男はフラフラになりながらも歩き続け、岩場を越えた山の中腹(ちゅうふく)あたりに辿り着いたとき、眼前(がんぜん)の景色と男の周囲を取り巻く空気が変わった。


『ほぅ…』


男の口から不意に音のない()め息が漏れる。立ち止まり周囲の様子を探ると、さっきまでとは明らかに雰囲気(ふんいき)が違っていた。気が狂いそうになるほど重く息苦しかった空気感は嘘のように消え、この場所だけは別の空間に存在するのではないかと錯覚(さっかく)しそうなほどに大気が()み渡っている。


しかし、眼前(がんぜん)に広がる光景を目の当たりにした男の心はなんとも言えない虚無感(きょむかん)で満たされていく。


『これは…』


呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす男の口からはこれ以上の言葉は出てこなかった。目の前に広がる光景がこの先の未来を暗示しているかのように見えたからだ……絶望的な未来が。


()み渡った空気感の大地に似合わない赤黒く変色した二本の(つるぎ)が互いに寄りかかるようにして深々とクロス(・・・)に突き刺さっている…

数百……数千……

辺り一面に……

見渡す限り……


それぞれの(つるぎ)は一つとしてまともな形状(かたち)の物はなく、かなりの年月を経て石化したもの…風化(ふうか)して刀身(とうしん)がボロボロに崩れ落ちているもの…(つるぎ)だったとは想像できないほど()ち果てたもの……

男は一面を埋め尽くす(つるぎ)(なが)めまわし、ギリギリときつく奥歯を噛み締めていた。


これまで幾果てることなく繰り返されてきた人と魔竜との戦い……

戦いの果てでこの地に散っていった数えきれないほどの(とうと)生命達(いのち)……

戦いが起こる度に生命(いのち)()けて聖剣(せいけん)鍛造(たんぞう)し、製錬(せいれん)し続けてきたかつての錬金術士達(れんきんじゅつし)……

その生命(いのち)の成れの果てが、今、自分の目の前で無残にも無数に大地に突き刺さった歴代の英雄達の墓標(ぼひょう)ともいえる聖剣(せいけん)残骸(ざんがい)なのかと、血塗(ちぬ)られた歴史を(たが)うことなく(あゆ)むこの国の宿命に絶望をおぼえ、男の顔は苦渋(くじゅう)(ゆが)む。


『全ては無駄な死だ。()連鎖(れんさ)を断ち切らない限り…』


音のない雨が男を静かに濡らしていく…

天を(あお)ぐ男の頭上で紅々(あかあか)と燃ゆるような凶星(きょうせい)(あや)しく輝いていた。

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