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6.思ってた予定と違うんだってさ。




「シルビア嬢から手紙がきたの……。」


リリアが自宅のバルコニーで、難しい顔をしながらある手紙を見せて来たのは、高等部2年の夏休みの事だった。


もう定番と化したアイスクリームをお土産に持参した僕を迎え入れたリリアが、すごい勢いで僕を自室のバルコニーに連れて来たかと思うと部屋の中から手紙を持って帰ってきた。その手紙がどうやらシルビア嬢からだという事らしい。


あ、シルビア嬢とは『ヒロイン』の名前だ。割と家柄重視で決まるはずのクラス分けなのに、なぜだか同じクラスに居た彼女は、入学式の翌日から早速リリアに絡み始めた。


…………そう。リリアが絡んだのではなく、シルビア嬢がリリアに絡んでいるのだ。


因みに、リリア自身は避けていた。そりゃかなりの気合いで準備してきた(つもりの)リリアだけど、自分の運命を決める存在か目の前に居るんだもん。誰だって最初は避けると思うんだよね。


だけどそんなリリアに対して、公爵令嬢と子爵令嬢という立場の違いがあるにも関わらず、ありとあらゆる方法で絡んで来た。もうそのしつこさと言ったら、明らかに周りがドン引きするレベルだ。


授業で組み分けをすると言えばリリアの所にきたり、爵位の違いで近付かない筈の食堂の席分けでは何故か近くに座られ、放課後自習室に行けば先回りされ。


いつも明るいリリアが段々とノイローゼ気味になっていき、それでも我慢を重ねている姿に、本気で裏から手を回して学園に来られない様にしてやろうかと思った。……実際はギル様に止められたけど。止められなきゃやってた。


まあ、そんなリリアだったが、ある日我慢の限界を迎えた。


リリアの言うところの『悪役令嬢』の様に、シルビア嬢に嫌がらせ……と言うか反撃を始めたのだ。


嫌がらせの為に自分で池の中からカエルを捕まえようと奮闘する姿は思わず笑い……じゃなかった、涙が零れる様だった。


ある時はシルビア嬢の頭の上に黒板消しを落とそうとして自分の上に落としてみたり、またある時は最後のひとつとなったデザートを横取りしようとしてシルビア嬢から是非食べてください!と言う言葉と共になんとも言えない眼差しで見つめられてみたり。


そんな風に1年間頑張ったが、結局満足に虐める事が出来ず、2年生になった今、こうやって夏休みに手紙が送られてくる位懐かれてしまっている。


「ホントに……どうやったら虐める事が出来るとおもう……?」

「リリアがやる事なら虐めようが優しくしようが喜ぶんじゃないの、あの子。」

「ええー……?」


すごく嫌そうな顔をしてるけど、これは僕の本心だ。彼女はきっとリリアが自分のために何かしてくれるならなんでも良いと思っているに違いない。同族の匂いがする。


だからこそ僕としては早めに排除しておきたいんだけどね。


そんな事を考えながら、目の前のリリアに視線を向ける。


行儀悪く机に突っ伏したままアイスクリームを食べているリリアが、ため息を吐いた。


「ギル様、今すぐ断罪してくれないかしら……。」


なんと言うか、国外追放を避けるには本末転倒なセリフだとは思うけど、そう言えばリリアは最初から国外追放を回避しようとはしていなかった。むしろ積極的に受け入れる姿勢だ。だからといって追放されようとしないで欲しいけど。……と言うか、それは追放じゃなくて逃避だと思う。


「そんな事頼まれてもギル様もいい迷惑だと思うよ……。」


僕の言葉にリリアが苦虫を噛み潰したような顔をしてるけど、知った事じゃない。だってギル様は今も心変わりなんかしていない。相変わらず、リリアの事が好きなんだから。……全く王太子の癖にしつこいったらありゃしない。


まあ、そのおかげで今のところ断罪される事は無い、と自信を持って言えるんだけどね。


「悪役って難しいのね……」


心の底から本心で言っているのだろうけれども、多分そこまで難しいと感じるのはリリアだけだと思う。


根本的に『悪役』には向かないよね。天然だし、すぐ顔に出るし。背も低いし動きもわたわたしてるから、正直何されても虐められてるようには感じないし。可愛い。


まあ……リリアが『悪役令嬢』になる事を避けようとはしてないし、張り切ってて可愛いから黙って見てたけど。ここまで消耗しちゃってるなら何か手を打たなきゃいけないかなぁ。


そんな事を考えながら、もう大分溶けてしまったアイスクリームの最後の一口を、口の中に放り込んだ。




✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤




 「……と、言う訳なんで早々に何とかして貰えませんかね?」

「お前、何でも俺に言えば良いって話じゃないんだぞ……?」


ギル様の仕事の補佐をする為に城に登城した僕がそう訴えると、ギル様から呆れた顔が帰ってきた。


何でも、は言ってない。心外だ。


「あの勘違い娘、いい加減ウザったいんですよね……リリアがどんどん参ってきててそんなリリアも可愛い………じゃなかった可哀想で見てられないんですよ。」

「心の声ダダ漏れてるからな、お前。少しは隠す努力しろよ。」

「隠すべき所では隠してますよ。だからギル様に気を許してる証拠なんですけど、伝わらないですよねぇ。僕は悲しいですよ。」

「だから全然心篭って無いからな?その棒読みやめろ。」


だから本心だって言ってるのに。全くギル様は疑り深い。まあ、ギル様の事は兎も角、問題はシルビア嬢だ。彼女を何とかしなくてはリリアの平穏は有り得ない。


「大体、そうは言っても俺だってただの学生だからな。まさかこんな事に王族権限使う訳にもいかんだろ。」

「…………ちっ。全く役に立たない……。」

「お前な、本気で不敬罪で牢屋にぶち込むぞ……?」


全くギル様は、たまにマトモな事を言うから、嫌なんだよな。


暴言を吐いた僕の言葉に対してまだギル様が何か言っているけど、残念ながら僕の耳には入ってこない。


まあ、ギル様に言ってどうなるもんでもないのはわかってるんだ。王族権限や家の力を使うんであれば子爵家相手なんて『筆頭公爵家』である僕の名前で十分な筈なんだし。


「でもまあ……そう言う事じゃない気がするんだよなぁ……。」


ぽそりと呟いた僕の言葉に、ギル様が不思議そうな顔をしてるけど、残念ながら説明してあげる気分にはなれない。


しょうがない。こうしててもシルビア嬢が何とかなる訳でも無い。1つ溜息を吐き出して、取り敢えず目の前の書類の山を片付ける為に手を伸ばす。



そう言えば、手紙の内容を聞きそびれてたんだよな。



そんな事を考えながら、書類の山から取り出した最初の紙に、ぺたりと判子を押した。





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