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学園裁判所  作者: 真上真
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第48話

第48話



「重ね重ね、すまないね、久世君。こちらから呼びつけておきながら、何度も見苦しいところを見せてしまって」


 硫酸に漬けられていたフィギュアをなでながら、常盤さんは申し訳なさそうに言った。


「い、いえ、気にしてませんので」


 実際、僕は気にしていなかった。というか、そんなことを気にするレベルの、やり取りじゃなかったし。


「ありがとう、久世君。君は本当に、いい子だね」


 常盤さんは涙ぐんだ。すると、グレイフォードさんの手がポスターに伸びた。


「で、では、本題に入ろう。実は、私もかねてより、君と同じようなプランを立てていたのだよ。各学校に「相談センター」を設け、そこで学校関係の苦情を一括して対処させるというものだったのだが、完璧を期する余りに、発表が先送りになっていたため、結果的に君の後塵を拝すことになってしまったのだがね」

「そ、そうだったんですか」

「そうなのだよ! 決して君の後追いをしたわけではないので、そこのところを、特に留意しておいてくれたまえ!」


 常盤さんは真剣な目で、身を乗り出して念押しした。


「は、はい。わかりました」

「ま、まあ、それはそれとしてだね」


 常盤さんは、ひとつ咳払いをすると話を続けた。


「その後で、君の学園裁判所にかける熱演を聞き、私は実に感銘を受けた。それに、結果こそ、あんなことになってしまったが、君の学園裁判所構想そのものが間違っていたとは、私には思えなくてね。君もアレが廃止になると決まったときには、内心忸怩じくじたる思いがあったのではないかね?」

「それは……」


 なかったと言えば嘘になる。


「そこでだ。私は、君の学園裁判所構想を、ぜひ我が校に取り入れたいと考えているのだよ」


「え?」


 学園裁判所を、この学園に?


「ついては、その発案者である君の協力を仰ぎたいと思って、今日はお越し願った次第なのだよ」

「僕の協力ですか?」

「うむ。君の学校では閉鎖が決まったし、あの事件で公立校はどこも二の足を踏んでいる。国や教育委員会の風当たりも、気になるところでもあろうしね」


 常盤さんの申し出は、僕にとっても願ってもない話だった。


「だが、私立である我が校には、そんな権威は関係ない。それに、あの事件が起きたのも、当事者間のトラブルが原因であって、システムの問題ではなかったと、私は考えている。いや、むしろ大人側が故意に学園裁判所を貶めにかかったがために起きた悲劇であるとさえ思っている。もし、あそこで彼らに正当なる裁きが下されていたならば、あのような結果にはならなかったであろうとね」


 その通り、だけど……。


「君も、本当はそう思っているのではないかね? そして、できることならば、もう一度学園裁判所を、自分の手で復活させたいと思っている。亡くなった友人のためにも。違うかね?」


「はい、そう思っています」


 それは、嘘偽りない僕の本音だったが……。


「でも、あの学園裁判所構想は、本当は僕の考えではなくて」

「それも、すでに承知しているよ。本当の発案者は、羽続翔という大学生なのだろう?」

「ど、どうして、それを?」


 そのことは、僕と羽続さんしか知らないはずなのに。


「我が常盤グループの情報収集能力を、侮ってもらっては困るね。その程度のこと、調べ上げることぐらい、たやすいことなのだよ」

「そ、そうですか。でも、だったら、おわかりでしょう? もし本当に学園裁判所を、あなたの学園に導入したいなら、必要なのは、僕ではなくて、羽続さんだということを」


 悔しいけど。僕は、あの人の足元にも及ばない。


「むろん、彼にも協力願おうと思っているよ」

「そ、そうなんですか?」


 だったら、やっぱり僕の力なんて……。


「だがね、誰が発案したのであれ、それを実現まで漕ぎ着けたのは、紛れもなく君の力だ。君の行動力があったればこそ、学園裁判所は陽の目を見ることができたのだよ。そうではないかね?」

「…………」

「考えるだけなら、誰にでもできる。大事なのは、誰が実行したか、なのだよ。それこそ、かつて歴史に名を残した偉人たちと同じことを考えた者は、もしかしたら他に何人もいたかもしれない。だが歴史に名を残す偉人にはなり得なかった。それは、なぜか? 彼らは思うだけで、それを実行に移さなかったからだ。歴史に名を残すのは、いつの時代であろうとも、勇気を持って一歩を踏み出した者だけなのだよ。君や私のようにね」


 常盤さんは微笑した。


「そして私は、君のその行動力を見込んで、協力を願い出ているのだよ。その力を、ぜひ我が学園のために、役立ててほしい。この通りだ」


 常盤さんは、僕に頭を下げた。


「あ、頭を上げてください」


 僕は、あわてて言った。


「僕でよければ、喜んで協力させていただきます」

「ありがとう。君なら、そう言ってくれると思っていたよ」


 常盤さんは、安堵の笑みを浮かべた。


「ただ、そのためには、君に我が学園に編入してもらわねばならないのだが……」

「何か問題が?」


 お金のことかな? 確かに、うちはそんなにお金持ちじゃないから、有名私立校の授業料を払えるか、微妙だけど。ていうか、有名私立校の授業料って、いったいいくらぐらいなんだろう?


「実はだね」


 その後、常盤さんから聞いた常盤学園の事情というのは、正直僕の想像を超えていた。

 だけど、それでも僕は、迷わず常盤学園に入ることを決めたのだった。







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