表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園裁判所  作者: 真上真
45/48

第45話

第45話



「じゃあ、何が問題だってのよ?」


 クソ狐が渋面を作った。


「問題は、最近は焼死体の身元は、歯形でも確認するってことだ。仮に、今の俺の仮説でDNA判定はゴマかせたとしても、歯形まではゴマかせんのだ」

「確かに、そうね」

「だから、美和神楽が入れ替え殺人を成立させるためには、どうにかして歯形という、最大の問題をクリアしなきゃならんのだ。しかし、その方法が、どれもハードルが高すぎて、リアリティーに欠けるんだよ」

「それって、つまり手段さえ問わなきゃ、方法はあるってこと? あるなら言ってみなさいよ。ホラホラ」


 クソ狐が調子に乗りやがって。


「まずひとつは、DNA鑑定を行う人間を買収して、虚偽の報告をさせることだ。しかし、誰がどこで鑑定を行うかわからないうえ、金持ちでもない美和神楽に、そんな真似ができたとも思えん」


 だからボツ。


「ふたつ目は、犯行前に替え玉が通っていた歯医者に自分も治療に行き、後で自分のレントゲン写真を、替え玉のレントゲン写真と入れ替えておくことだが、これもリスクが高い」


 そもそも歯医者なら、なんらかのセキュリティーを入れている可能性が高いだろう。

 そんなところに1女子高生が歯医者に忍び込むなど、ハードルが高すぎる。 

 それに、下手に自分や替え玉の歯に珍しい特徴があったら、医者に顔を覚えられている可能性もある。そうなったら、その時点で計画は破綻してしまう。


「美和神楽が、実は当時すでに「救済者」に選ばれていて、その力を利用して「替え玉の体を操って、自分の保険証を持たせて歯医者に行かせた」とか「DNA鑑定士を操って、嘘の報告者を書かせた」とかは、いくらなんでも非現実的過ぎるしな」


 だいたい、その場合そもそも替え玉殺人なんて回りくどい真似をする必要がない。

 もし本当に、美和神楽に「救済者」の力があったのなら、それこそ自殺に見せかけて殺せば済む話なのだ。


「だから、1番考えられる可能性としては、なんらかのトリックを使って、鉄骨か何かを替え玉の顔に落として、歯形が判定できないぐらい潰すことだが、その場合、さすがに警察も怪しいと思うはずだからな」


 犯行現場で、犯人の顔が潰れて発見されるとか、ご都合主義にもほどがある。しかも、その火も犯人がつけたとなれば、トリックの証拠隠滅を図ったと自白してるようなもんだ。それに気づかんほど、警察もバカじゃないだろう。たぶん。


「だったら、本人に直接確かめればいいじゃない」

「は?」


 どういうことだ、クソ狐?


「だからあ、その久世って子のところに行って、直接聞いてくればいいのよ」


 おまえは美和神楽と結託して、替え玉殺人を実行しましたか? と?


「アホか。そんなもん、まともに答えるわけないだろうが」


 バカも休み休み言え。


「そりゃあ、そうでしょうよ。でも、面と向かって聞けば、その反応から何かわかるかもしんないし、バレたと思ったその子が、あせって美和って娘に連絡を取るかもしれないでしょ? そうでなくても、こっそり家探しすれば、何か接点が見つかるかもしれないし」


 また、さらにバカなことを。


「それは、あくまでも久世が、美和神楽の共犯だった場合だろうが。それに、俺はそこまでして、真相を明らかにしたいなんて思っちゃいないんだ。だいたい下手にそんな真似をして、もし本当に美和神楽が「救済者」で、なんらかの力で替え玉殺人を実行していたとしたら、どうする気だ? 下手すりゃ、口封じのために、白羽たちの身にまで危険が及ぶかもしれんのだぞ」


 そんなリスクを冒してまで、替え玉殺人の真相を知ろうとは、俺は思っちゃいないんだ。


 こんなものは、あくまでも暇つぶし。そんな方法、なんかあるかなーと、ちょっと頭の体操をしていたに過ぎんのだ。


「だいたい、今さら真相をほじくり返して、なんの意味がある? 仮に、俺の推測が正しいとしても、久世も美和神楽も過去を断ち切って未来に生きようとしてるんだ。それを邪魔するほど、俺は野暮じゃねえんだよ」


 虫ケラ2匹殺したことで満足して、あいつらがこれから先の人生を幸せに暮らせるなら、それでいい話だろうが。

 俺は、そこらの名探偵みたいに、過去の事件ほじくり返して、さらに不幸な人間増やして悦に浸るような、歪んだ性癖は持ち合わせちゃいないんだ。


 それこそ、もし美和神楽が、ほとぼりが冷めた頃に復讐でも再開したら話は別だが、さすがにそこまでバカじゃないだろうし。


「というわけで、この話はここまでだ」


 この事件は、もう終わったんだ。蒸し返したところで、誰の得にもなりはしない。


「そうよね。いつまでも過去に囚われていても、どうしようもないものね。未来に向かって生きないと」


 さすが、白羽だ。能天気に、いいことを言う。


「だから、わたしも考えたの。でね、いいことを思いついたの。翔君が人間に戻れないのなら、わたしが影人間になろうって」


「は?」


 何言ってんだ、おまえ?


「だって、そうでしょ? 翔君は人間に戻ることはできないけれど、人間を影人間にすることはできるんでしょ? だったら、翔君が人間に戻るんじゃなく、わたしが影人間になればよかったのよ。わたし、翔君を人間に戻すことばかり考えていたけれど、何もそんな必要はなかったんだわ」


 ヤバい。目がマジだ。


「ね、いい考えでしょ」


 白羽は満面の笑みを浮かべた。


「あのな……」


 俺は白羽を説得しようとして、やめた。こうなったら、もう何を言っても無駄だ。だとすれば、残された道はひとつしかない。


 仕方ない。


「まったく、バカな奴だ」


 俺は力を解除した。すると、俺の体が影から生身の人間へと変わり始めた。


「か、翔君、その体?」


 案の定、白羽は混乱している。


「どうして? 戻る方法はないって」


「あ? 誰が、そんなことを言った? 俺は「能力の再選択は不可」だと言っただけだ。1度として「戻れない」と言った覚えはない」


 おまえが勝手に勘違いしただけだ。


「ついでに言っとくと、どうもおまえは俺が物質を影化したら、2度と元には戻せないみたいに思ってたみたいだが、別にそんなわけじゃない。影化した物質は、俺の意志次第で、いつでも元に戻せるんだ。形も自由に変えてな。たとえば、炭の塊をダイヤの剣にするって感じでな」

「え?」

「言っとくが、これも別に嘘をついたわけじゃないからな。実際、物質を影化することができる力であることは事実なんだ。ただ、影に変化させた物質を、元に戻せると言わなかっただけだ」


 あえて、能力を限定して言ったに過ぎん。元に戻せると聞いたら、その力で人間に戻れと言い出しかねなかったから。


「シェイド化にしても、そうだ。おまえは、シェイドになることを選んだら、その後一生シェイドでいなきゃならないと思い込んでたみたいだが、別にそういうわけじゃない。シェイドを選んだとしても、普段は人間のままで、いつでも本人の意思でシェイドに変身できるというだけに過ぎないんだよ」


 ずっと俺がシェイドでいたのは、ただ単に俺がそうしていたかったからに過ぎんのだ。


 だいたいモンスター化したまま元に戻れなかったら、能力として使い勝手が悪すぎるだろ。仮にも、世界を救うための力なんだから、このぐらい融通が利いて当たり前だ。


「酷いわ、翔君。わたし、本気で心配してたのに」

「だからだよ」


 戻る方法がないとわかったら、あきらめると思ったのに。まさか、あきらめるどころか、自分もシェイドになると言い出すとは。


 本当に、こいつは俺の計算を、どこまでも狂わせる奴だ。


「でも、どうして人間に戻ったの? 翔君、ずっとそんな気ないって」

「おまえが、自分もシェイドになるなんて、バカなことを言うからだろうが」


 まったく、バカも休み休み言え。


「俺の勝手のために、おまえまで日陰者にするなんて、できるわけがないだろうが。おまえが人間やめるか、俺がシェイドやめるかの2択しかないなら、答えは決まっている」


「翔君……」

「言っとくがな。別に、おまえのためにやったわけじゃないからな。そこのところ、勘違いするなよ」


 て、ツンデレか、俺。


「つーか、別にシェイドとして生きることをあきらめたわけじゃないからな。いつか、おまえが俺抜きで完全無欠のハッピーエンドを迎える日が来たら、そのときは今度こそ本当に絶対に人間やめてやるんだからな」


 その日が今から楽しみだ。


「だったら、翔君は、ずっと人間でいることになるわね」

「なんでだよ?」

「だって、わたしの完全無欠のハッピーエンドには、翔君がずっと傍にいてくれることが絶対条件なんだもの」


 白羽は無邪気に笑った。


「おま、それ……」


 自分の言ってることの意味が、わかってんのか?


「なに、翔君?」


 白羽は小首を傾げた。無邪気な顔して、絶対確信犯だろ、おまえ。


「……本当に、バカな奴だ」


 俺は白羽の頬に触れた。クソ狐じゃないが、今のおまえなら、それこそ男なんて選り取り見取りだろうに。


「翔君も十分バカだから、お互い様ね。いえ、この場合、お似合いって言うべきかしら?」


 白羽は、俺に体を預けて来た。


 そして、俺も白羽の肩を抱いた。


「翔君」


 梵は静かに目を閉じた。


「白羽……」


 そして俺は、唇を白羽のそれに重ねた。

 確かに、これはこれでハッピーエンドと言えるのかもしれない。


 ともあれ「羽続翔シェイド化事件」を機に発生した一連の事件は、これで今度こそ本当にすべて解決した。


 よって、これにて当法廷は閉廷とする。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ