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学園裁判所  作者: 真上真
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第42話

第42話



 中学生による殺人事件は、翌日さっそく報道された。


 イジメ被害者だと思われていた馬場が犯人だったという特異性は、世間を大いに騒がせた。


 馬場を異常者として非難の声が上がる一方で、そこまで馬場を追い込んだイジメ加害者たちへの非難も高まり、世論は大きく二分された。

 そして、その非難の矛先は学園裁判所にも向けられることになり、学園裁判所は今度こそ完全に廃止が決定した。


 俺にとっては誤算続きだったが、それでもまったく成果がなかったわけでもない。


 確かに「白河を学園裁判所の検察官役に任命して、その安全を確保する」という、俺の目的は果たせずに終わった。

 しかし、俺が学裁を創設するために動いたことで、白河の存在は生徒会に認知され、気遣われるようになったのだ。

 特に此花などは「貴様の歪んだ性根、わたしが叩き直してやる!」と、白河の教育係を買って出るほどだった。まあ、これはこれで不安はあるが、此花が傍にいる限り、少なくとも白河に危害が及ぶことは2度とないだろう。


 そして最後に久世だが、今まで通り生徒会長を続けている。本人は今回の1件の責任を取って辞任するつもりでいたのだが、周囲から説得されて続行することにしたのだ。

 ちなみに、今その久世は朝比奈と遊園地でデート中だ。今回の事件に責任を感じている久世を見かねて、朝比奈が元気づけようと誘ったのだ。


 そして夕方、遊園地で遊び尽くした久世たちは、最後に美和家の墓参りに来た。よし、時間通りだ。


「今日はありがとう、朝比奈さん。遊園地に誘ってくれた上に、お墓参りまで付き合ってくれて」


 お参りを終えたところで、久世が言った。


「ううん。気にしないで、久世君。わたしは、久世君さえ元気になってくれれば、それで」

「ありがとう、朝比奈さん」

「それに、ここに来て、美和神楽さんて人に直接お願いしたいこともあったし」

「お願い?」

「うん。もう、久世君を解放してあげてくださいって」

「え?」

「あの弁護士の人が言ってたよね。久世君が、学園裁判所のことを、あんなに必死になってがんばってたのは、この人たちのような不幸な人を二度と作らないためだって」

「…………」

「久世君が、あんなに生徒会長になることにこだわってたのも、この人たちのことがあったからなんでしょ?」

「結局、何もできなかったけどね」


 久世は苦笑った。


「そんなことないよ。久世君はがんばったよ。そのことは、みんな知ってる。だから、久世君が生徒会長を辞めるって言ったときだって、みんな止めたんだよ」

「ありがとう、朝比奈さん。君に、そう言ってもらえるだけで、僕もがんばった甲斐があったと思えるよ」

「でも、それもすべては、このお墓にいる人たちのため、ううん、原因なんだよね、久世君」

「え?」

「久世君が、学園裁判所にあんなに固執するのは、自分が何もできずに死なせてしまった美和さんたちへの贖罪の気持ちからなんでしょ?」

「それは……」

「それって、久世君は、ずっと過去に縛られて生きてるってことでしょ? 久世君は、この人たちに何もしてあげられなかった自分の無力さを、ずっと心のなかで責め続けてきたんだよね? 久世君は、そうやって自分を責め続けて、この先も美和さんたちへの贖罪のためだけに生きていくつもりなの? そんなこと、美和さんたちだって、きっと望んでないよ」


 朝比奈の目に、涙がにじんだ。


「このままじゃ、美和さんたちの存在は、久世君にとって呪いになっちゃうよ。そうしないためにも、もう自分を許してあげて、久世君」

「ありがとう、朝比奈さん。そんなに心配してもらえるなんて。それだけで、清川中学の生徒会長をやってよかったと思えるよ、ほんと」

「別に、久世君が生徒会長だから心配してるわけじゃないよ。久世君だから心配してるんだよ」


 朝比奈は目を潤ませた。


「い、いやー、冗談でも、朝比奈さんにそう言ってもらえるなんて光栄だよ。そもそも励ますためとはいえ、朝比奈さんとデートしたなんて学校の男子が知ったら、さぞかし悔しがるだろうなあ。ホント、一生の自慢になるよ」


 久世は照れ笑った。


「そんな、わたしなんて……。それに、それを言うなら久世君だって、女子には人気あるし」

「いやいやいや、そんなの僕は全然ないから。バレンタインのときだって、チョコもらったことないし」

「わたしはあげたよ?」

「え? ああ、そうだった。もらったね、義理チョコ」

「義理じゃないよ」

「え……」


 久世は再び言葉に詰まった。


「わたしがチョコを上げたのは、久世君のことが本当に好きだからだよ」


 朝比奈の目は、まっすぐに久世を見据えていた。青春してるなー。


「ごめん」


 久世は苦渋の表情で、しかしキッパリと断った。


「僕も朝比奈さんのことは好きだ。でも、付き合うことはできないんだ」

「どうして?」

「僕が、もう婚約してるからだよ」

「こ、婚約?」


 マジでか。


「そう、だから君とは付き合えないんだ」

「……その婚約者って、もしかして美和神楽さんのこと?」

「うん」

「でも、美和さんは、もう死んで」

「そうだね。でも、重要なのはそこじゃない。神姉とした婚約は、僕と神姉との絆の証なんだ。それに、婚約のことがなくても、それでもやっぱり君とは付き合えない」

「ど、どうして?」

「それは、君が僕を信じてくれていないからだよ」

「え?」

「朝比奈さん、君は今回の件に関して、僕に隠してることがあるよね」


 いよいよ本題か。


「な、何を言ってるの、久世君? わたしは隠し事なんて……」

「君が話したくない気持ちはわかるよ。僕も、あの人から真実を聞いたときは、どうしていいかわからなかったからね」


 気持ちはわかる。


「今回の事件の黒幕が、君だなんてね」


 久世の指摘に、朝比奈は鼻白んだ。



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