第36話
第36話
果てしなく広がる暗黒世界は、やはり宇宙を連想させる。
いつか宇宙に飛び出せば、こんな時間が数十年と続くのだろう。そして、そんな余生も悪くないと思っていた。
だが!
それはあくまでも、本当の宇宙での話だ。こんな星ひとつない暗闇を、この先延々と眺め続けて余生を送るなど、不本意の極みだ。
俺は、俺が地球を旅立つときの宇宙船は、ハレー彗星と決めているのだ。
75周年で地球にやってくるハレー彗星に飛び乗り、天上にちりばめられた宝石を愛でながら大海原を駆け抜ける。それが、俺の最終的な野望なのだ。そして、その俺の野望を成就させるためにも、まずはこの難破船から脱出しなければならないのだが……。
あの寄生虫どもめ。もうちょっとのところで邪魔しやがって。あれさえなければ一発逆転できたものを。今度会ったら、絶対ブッ殺してやる。ペンチで体を一片ずつ引きちぎってやるから、覚悟してやがれ。
俺は寄生虫どもへのリベンジを、何度も何度も、深く深く心に刻みつけた。
それにしても、うかつだった。イジメを告発する手紙が投函されたって聞いた時点で、罠である可能性を考慮すべきだったんだ。
これは、あくまで俺の推測だが、あの手紙はヘビが出しやがったのだ。
おそらく、あのクソヘビは学園裁判所の存在が気に入らなかったのだろう。だから、わざとイジメを告発する手紙を出して、生徒会が自分たちを裁判にかけるように仕向けたのだ。そして、その上で馬場にイジメを否定させれば、生徒会の信用は地に落ち、学園裁判所を潰せると踏んだのだろう。
おそらく馬場には「自分たちに協力すれば、おまえには2度と手を出さない」とでも言ったんだろう。
俺に言わせれば、そんな約束信じるほうがバカなんだが、それでも馬場にとっては、どれだけ実行力があるかわからない学裁よりも、オッズが高かったんだろう。
それでも、俺が馬場に憑依していれば、一発逆転できたものを。
くそ、考えれば考えるほど腹が立つ。
あの寄生虫ども、絶対ブッ殺してやる!
そのためにも、まずは、ここから脱出する方法を考えんと……。
鏡を影化して抜け出そうにも、鏡面の周りに施されている、光の結界に無効化されるし。まあ、魔を封じる道具なんだろうから、当然と言えば当然なんだが。どうしたもんか……。
切り札を使えば、脱出できるかもしれない。が、その場合、下手すると地球が吹っ飛びかねないからなあ。
かといって、このままだと、白羽にも危害が及びかねない。
仕方ない。こうなったら、ダメで元々、やってみるか。地球が吹っ飛んだら、そのときはそのときだ。
俺が最後の手段を取ろうとしたとき、
「翔くん!」
聞き覚えのある声がした。そして間もなく鏡面の向こうに見えた顔は、間違いなく白羽のものだった。




