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学園裁判所  作者: 真上真
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第33話

第33話



 裁判は土曜の午後一時、場所は体育館で行なわれることになった。


 場所が体育館になったのは、最初ということで傍聴人が多数に上ることが予想されたためだ。

 この場合、傍聴人が多いこと自体は望むところだが、体育館での裁判が今回限りであることは強調しておく必要があった。でないと、この大がかりな舞台に気後れして、この先被害者が二の足を踏みかねないからだ。

 そして役職だが、これも当初は予定通りの面子で臨むはずだった。

 しかし開廷三〇分前、関係者を集めての最後の打ち合わせの席で、久世たちは学校側から人事面でも変更を告げられることになった。


「裁判官を変更?」


 突然の変更に、久世は思わず非難の声を上げた。


「どういうことですか、古谷先生?」


 久世は生徒会の顧問に詰め寄った。


「君たちには申し訳ないことになってしまったが、それだけ事が大きくなり過ぎてしまったんだよ」


 顧問は、さして悪びれた様子もなく言った。このカバが。


「すでに、学園裁判所のことはマスコミも興味を持ち始めている。そして、これだけ関心の集まってしまった裁判の裁判官を、学生に任せるのは、やはり問題があるということになってな」

「……では、誰が裁判官を勤めるんですか?」

「教育委員会の皆さんだ」


 ま-た、最悪の名前が出てきやがった。


「なんだ、その顔は? 皆さん、お忙しいなか、特別に時間を割いてくださったんだぞ。感謝こそすれ、文句など言ったらバチが当たるぞ」


 カバは脳天気に説教を垂れた。


 それを言うなら、保身のための間違いだろ?

 事なかれ主義の教育委員会が、ここまで何も言ってこないのはおかしいと思ってたが、このタイミングを狙ってたわけか。


「そして弁護人だが、この方が任されることになった」


 カバに呼ばれて生徒会室に入って来たのは、見慣れぬ30前後の小男だった。


「どうも皆さん、初めまして、わたくし江藤洋一と申します。ご依頼を受けまして、本日の木戸君の弁護をすることになりました。どうぞ、よろしくお願いします」


 江藤と名乗った小男は、愛想笑いを浮かべた。うわあ、嘘臭い。顔からしてタヌキだし。


「この江藤さんは、本物の弁護士さんだ。おまえたち、下手な真似をしたら名誉毀損で訴えられるから、気をつけろよ」


 本物の弁護士だと?


「ちょっと待ってください!」


 此花が声を上げた。


「いったい、どういうことですか? その人のことも裁判官の変更も、わたしたちは今日まで何も聞かされていませんでしたよ? こんなの不意討ちもいいところじゃないですか! こんなのフェアじゃない! 卑怯だ!」


 此花は毅然と抗議した。


「その通りです」


 朝比奈も此花に加勢した。


「交代するなら交代するで、どうして事前に教えてくださらなかったんですか?」

「そ、それはだな」


 カバは口ごもった。どうせ、上から口止めされてたんだろうよ。


「弁護士のことも、そうです。いくらなんでも、本物の弁護士を連れてくるなんて非常識です」


 朝比奈は毅然と言い放った。


「非常識ね」


 タヌキは苦笑した。


「非常識と言うのであれば、この学園裁判所とやらのほうが、よほど非常識だと思いますがね」


 タヌキは冷ややかに言った。否定できないところが辛い。


「それに、学園法なるものを拝見させてもらいましたが、どこにも正規の弁護士が弁護をしてはいけないとは書かれていませんでしたよ」

「そ、それは……」


 朝比奈は口ごもった。確かに、そこは法の不備だったな。こんな学生主体の裁判に、本物の弁護士を雇ってまで挑むとは考えてなかった。

 抑止力に主眼をおいて、実際に裁判になったときのシミュレーションを怠った俺のミスだ。


「どうやら納得いただけたようですね」


 タヌキは微笑んだ。


「確か、君が検察官役だったね。どうぞ、お手柔らかに」


 タヌキは、白河に握手を求めてきた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 白河は涼しい顔で握手に応じた。

 本物の弁護士の登場にも、白河に動揺の色はない。もっとも白河の場合、元々この裁判自体を、どうでもいいと思っているからかもしれないが。


 それはともかく、教育委員会と本物の弁護士の登場で、今回の裁判でヘビどもを厳罰に処せる可能性は、ほぼゼロになったと言っていい。

 だとすれば、後は公開裁判の場で、ヘビたちの非道を大衆に示し、どれだけ非難の的にできるかが焦点となる。だが、それは向こうも承知の上だろう。果たして、あの弁護士にはどんな勝算があるのか。


 不安が山積するなか、学園裁判所の初裁判は開廷したのだった。

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