第32話
第32話
そして昼休み、ヘビたちは素直に生徒会室にやって来た。
もっとも、現れたヘビたちに反省した様子は微塵もなく、むしろ太々しさが増大していた。
ヘビたちの聴取は川登主体で行われ、まずヘビが事情聴取されることになった。
「では、お聞きします。馬場良明氏からの被害届けによると、あなた方からのイジメ行為が始まったのは、今年の五月からだということですが、それで間違いありませんか?」
「どうだったかなあ」
ヘビは白々しく惚けた。
「てか、なんだよ、そのイジメ行為ってのは? オレは馬場の奴をイジメたことなんて、一度もないんですけどお?」
「なるほど。ですが、馬場氏からの訴えによると、馬場氏はあなた方から二〇万を超える大金を、脅し取られたと言っていますが?」
「人聞き悪いな、おい。別に脅し取ってなんてね-よ。全部あいつのオゴリだよ、オゴリ。いや-、オレたちは別にいいって言ったんだけどよ。あいつが、ど-してもって言うからよ-。断るのも悪いから、ありがたくオゴッてもらってたんだよ」
ヘビは、ぬけぬけとほざいた。
「でもよ、返せって言うんなら返してやるぜ。もっとも、今は手持ちがねえからよ、分割ってことになるけどよ。いいよな? 本物の裁判でも認められてるもんな。ぶ、ん、か、つ、ば、ら、い」
ヘビは、皮肉たっぷりに吐き捨てた。
「問題ありません。ですがこの場合、学園法では中学卒業までを返済の期日とし、その期日から逆算して、あなたがたには月に約1万円の返済義務が生じます。そして、もしこの返済を3カ月以上滞った場合、あなたがたはその遅延分の返済が終了するまで、リアルタイムで動画配信される独房での授業となりますので、ご了承ください」
川登がそう言うと、ヘビの威嚇が止んだ。
大方、分割払いということで、この場をスル-しておいて、後はバックレるつもりだったのだろう。これも本物の裁判で、よくあることだ。
実際の裁判でも、判決で支払いが確定した賠償金の未払いには、強制徴収措置があるにはある。だが、それが有効なのは、あくまでも賠償金を支払う能力や資産がある場合の話。もし被告人が無職で財産も持っていなかった場合には、実際のところ取り立てることができない。
だが、オレに言わせれば、これは加害者のせいというよりも、法律のほうが甘いのだ。
それこそ、もし裁判で決定された賠償金なりを加害者側が1年以上滞納した場合、被害者からの訴えにより、その加害者を刑務所に入れればいいだけなのだ。そして、その日数は未払い金5千円につき1日計算で行なう。そうすれば、仮に1千万円の未払いがある場合は5年以上、1億なら50年以上、刑務所にブチ込んでおくことができるのだ。
もっとも、この場合そうすると金を払うのが嫌で、最初から刑務所に入る奴も出てくるかもしれない。だが、そんな奴はどうせ野放しにしておいても払わない。ならば実刑を食らわせたほうが、被害者としても納得がいくはずだし、逃げ得もありえないのだ。
「あと彼は、あなたがたに万引きを強要されたとも言っていますが?」
「それも冗談だよ。あいつに度胸をつけさせるために、冗談半分で言っただけさ」
「しかし、彼が断ると、また暴力を振るったとありますが?」
「それは特訓だよ、特訓。あいつがあんまりヘタレなんで、みんなで鍛えてやろうとしたんだよ。言わば愛のムチってやつだよ」
「ふざけるなああ!」
此花は両手で机を叩いた。痛いだけなのに。
「訓練だと? 愛のムチだと? よくも、そんなことが平然と言えるな! 馬場1人を、よってたかって銃で追い立てるなど! 男として恥ずかしくないのか!」
「なに、1人で熱くなってんだか。あんなもん、ただの遊びだろ、遊び」
ヘビは、小指で耳の穴をほじった。
「遊びだと?」
「そうさ。ダチ同士でやる、ただのサバゲ-、サバイバルゲ-ムだよ。知らねえのか? 遅れてるねえ」
「何が遊びだ! その後、暴力も振るっていただろうが!」
「ありゃあ、ツッコミだよ、ツッコミ。おまえらもやるだろ、ツッコミ」
ヘビは鼻で笑った。
「あいつはさ、元々そういうイジられキャラなんだよ。ま、興奮し過ぎて、ちょっと力が入り過ぎちまったのは事実だけどよ。そこは反省してるよ。この通り、ごめんなさい。許してください」
ヘビは、顔の前で両手を合わせた。
それから、しばらく沈黙が続いた。あまりの怒りに、此花も言葉がうまく出ないようだ。それでも手を出さないのは、川登に釘を刺されたからだろう。
「木戸君」
川登は冷静に呼びかけた。
「聞き取り調査は、これにて終了となります。本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございました。裁判の日程等については、おって連絡しますので、本日のところは、これでお引き取りただいて結構です」
「あっそ、じゃあ帰らせてもらうわ」
ヘビは檻から解放されると、巣穴へと戻っていった。
その後、残る4人の事情聴取も行なったが、どいつもこいつもヘビと同じような反応だった。まさに類は友を呼ぶ、だ。
結果、学裁執行部は、馬場良明とヘビたちとの和解は不可能という結論に至った。
ここに、すべてのお膳立ては整った。
そして学園裁判所は、ついにその初開廷日を迎えることになったのだった。




