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学園裁判所  作者: 真上真
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第24話

第24話 



 翌日、学園裁判所の可否が、生徒総会によって決定されることが全校生徒に告知された。


 そして、それに伴い久世たち生徒会メンバーは、学園裁判所の宣伝活動を開始した。


 活動は毎朝校門での演説に始まり、昼休み、放課後も休むことなく続いた。


 そして、ついに生徒総会の日がやってきた。


 投票は選挙形式で行なわれ、結果は201対163。


 学園裁判所法案は、賛成多数で可決された。ちなみに、俺は投票に関して何もしていない。

 学園裁判所は、本当に全校生徒の総意によって導入が決定されたのだ。

 これは俺にとっても意外な結果だったが、どうやら俺が思っていた以上に、生徒たちの間に現状への危機意識が高かったらしい。まあ、数年前にイジメ殺人事件が起きた学校なわけだし、当然と言えば当然だが。


 そして、それから一週間後、学園裁判所の存在は、校長によって正式に承認されることになった。


「やりましたね、久世会長」


 此花は、この結果に喜色満面だ。しかし否決されるとタカをくくっていた川登の顔は、不満で凝り固まっていた。だが、口に出しては何も言わなかった。学園裁判所の導入が決まった以上、もう何を言っても無駄と割り切ったのだろう。


「ああ、本当によかった」


 久世は、此花に微笑み返した。本当によかった。これも、ひとえに久世たちのがんばりのおかげだ。


 そして学園裁判所の話は、瞬く間に広がった。当然、学園裁判所のことは保護者間で問題となり、保護者説明会が開かれることになった。


 そして説明会当日、体育館に詰めかけた保護者が見つめるなか、久世が壇上に立った。


「皆さん、本日はお忙しいなか、ご足労いただき、まことにありがとうございます。僕が今回の学園裁判所を提案した、生徒会長の久世来世です」


 久世は、保護者の面々に演説を始めた。


「説明を始める前に、まず皆さんにお話しておかなければならないことがあります。それは、僕が学園裁判所の設立を考えるきっかけとなった、この学校で起きたイジメによる自殺と、その結果起きた殺人事件についてです」


 久世がそう言うと、保護者の間でざわめきが起きた。


「ご存じの方もおられると思いますが、このイジメ事件の被害生徒は僕の幼馴染でした。彼は、多数の生徒から暴力などのイジメ行為を受け、結果自ら命を断ちました」


 保護者たちは、さらにざわめいた。


「そして、こう言えば皆さんのなかには、そこまで追いつめられる前に、親なり教師なりに相談すればいいと、お考えになる方もおられるでしょう。ですが、それができない子供もいるのです。自分がイジメられている、などという惨めな状況にあることを他人に打ち明けることは、イジメに立ち向かうことと同じぐらい、勇気のいることなのです」


 会場は静まり返った。


「そして、仮に被害者が勇気を持って、その事実を担任に打ち明けたとしても、現状、先生方には明確な対処法がありません。生徒の肩に手を置いただけで、体罰やセクハラと言われかねない昨今の学校では、はっきり言って先生方に過度な期待をするほうが酷なのです。そのことはマスコミ報道などにより、とうに皆さんもご存じのはずです」


 再び、保護者の間に動揺が走った。


「この社会では、誰もが被害者となり、また加害者となり得るのです。そして事件が起きてからでは遅いのです。実際に事件が起き、イジメの被害者なり加害者なりが死んだ後、どれだけ真相を究明したところで、死んだ人間は生き返りはしないのですから」


 学園裁判所に反対し「もし死人が出たら、おまえらのせいだ」と、そう突きつけられて、それでもNOと言える人間などいない。いたとしたら、ぜひ、そいつには代替案を教えてもらいたいものだ。


「現実問題として、裁判所、いえ警察は、実際に事件が起きてからしか動きません。ですが、イジメは最初から命に関わるような重大事件から始まるわけではありません。そのきっかけは、どれも些細なものです。ですが、その些細なものを見過ごした結果、問題は蓄積され、やがて取り返しのつかない悲劇へと発展してしまうのです。僕たちの目的は、そうなる前に、本物の裁判所であれば取り扱わないであろう小事を拾い上げることで、そんな悲劇が起きる可能性を少しでも減らしたいのです」


 そこで、久世は一息ついた。


「学園裁判所の目的は、加害者を裁くことではありません。目的は、あくまでもこの学校から、理不尽な暴力をなくすことなのです。今現在もイジメは確実に存在し、テレビなどでも、その被害報道は後を断ちません。僕たちは、この学園裁判所を創ることで、せめてこの学校のなかだけでも、争いのない平和な学校を作り上げたいのです。「学校を楽園にするための場所」それが学園裁判所なのです。皆様、どうかご理解のうえ、お力をお貸しください。お願いします」


 久世は、深々と頭を下げた。


 保護者の間に、再びざわめきが起きた。しかし、そこに流れる空気は、好感と寛容が大半を占めていた。


 その後、質問タイムが始まった。


 保護者から出る質問には、難癖レベルのものもあったが、久世はそのひとつひとつに、誠意を持って応対していった。


 そして話し合いの結果、学園裁判所は「保護者会の反対により、いつでも廃止できること」を条件に、保護者からの承認を得ることに成功した。


 ここに、学園裁判所の清川中学校への正式導入が、ついに決定したのだった。






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