第23話
第23話
「……あ、ありがとう、白河君。参考にさせてもらうよ」
久世は、なんとかメンタルを回復させると、議題を罰に移した。
「これは、体罰は与えられないから、奉仕活動ということになるけど、イジメを行うような連中は従わない可能性が高い。別にやらなくても、それ以上罰受ける心配がないってタカをくくってね。そこで、そうなった場合は別の手を取ることにした」
「別の手?」
朝比奈が小首を傾げた。さすがの優等生も、この状況で有効な罰則は思いつかなかったのだろう。
「うん、その場合は、その被告人だけを別の教室に隔離して、個別に授業を受けさせるんだ。教室に監視カメラをつけた上でね。そしてその光景を、リアルタイムで動画配信する」
「動画配信?」
「そう、本当は停学や留年処分ができればいいんだけど、教育法で中学までは停学処分はできないからね。だから、それに代わる処分として、被告人が罰則に服従しない場合、その子だけを隔離して、絶えず公衆の面前にさらすんだ」
そうすりゃ、どんなバカガキでも、少しは堪えるだろ。本当は、少年院と学校の中間に位置する教育施設を創って、そこにブチ込んで教育し直せればいいんだが、現状では不可能だからな。
「できれば名前や罪状も公開したいところだけど、ここまでするとプライバシーの侵害になってしまう恐れがあるからね」
動画配信も、下手をすればプライバシーの侵害に抵触する可能性がある。だが、日曜参観なんかでも普通に授業風景を公開してるわけだし、たぶん大丈夫だろ。ま、そういうツッコミが入ったら取り下げればいい。
裁判で被告人の顔と名前が公表される以上、有罪になって独房に入れられたら、そいつの顔と名前は嫌でも世間に広まることになる。被告人も、それは承知してるだろうから、それで抑止力としては十分だろう。
「さて、おおまかなところは、こんなところかな。それで、これから細かく詰めていく前に、ここで改めて学園裁判所の賛否を問いたいと思う。我が生徒会として、この学園裁判所法案に賛成の者は手を挙げてくれ」
「はい! はい! はい!」
まず、此花が勢いよく挙手した。そして朝比奈、桂の両名も挙手し、残るは川登だけとなった。
「やれやれ」
皆の注目を一身に受けるなか、川登は面倒臭そうに右手を上げた。
「ま、やってみればいいんじゃないですかね。もっとも、それも生徒総会でOKが出れば、の話ですがね」
川登は、そう皮肉った。ま、通るわけのない提案だというのは同感だ。
「だけど、試してみる価値はある」
久世は、力強く言い切った。
「それに、この学園裁判所には法的拘束力がない。実際の裁判所じゃないからね。だから規則違反の生徒を判決に従わせるためには、学生の自主的な協力が必要となるんだよ。そのためにも選挙で賛成多数を取り「学生の総意」という大義名分が必要なんだ。みんなで決めたことに、君は逆らうのか? という無言の圧力を与えるためにね」
「ま、せいぜい、がん」
「では、あたしはこれで失礼します」
川登の話を遮る形で、白河はさっさと生徒会室を出て行ってしまった。まったく、どこまでもマイペースな奴だ。
ともあれ、なんとか生徒会での合意は得た。まだ第1関門を突破したに過ぎないが、それでも学園裁判所の導入に向け、大きく前進したことに間違いはない。
残る関門は、あと3つだ。




