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学園裁判所  作者: 真上真
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第22話

 第22話



「じゃ、じゃあ、とりあえず裁判官の人選は保留として、次は罪状に移ろう」


 白河の毒が、これ以上広がることを恐れたのだろう。久世は議題を罪状に移した。


「僕も一応、立案書にリストアップはしたけど、とりあえず考えられるものを、ここでもう1度挙げていこう」


 久世は黒板に、罪と考えられるものを羅列した。暴力、恐喝、万引きの強要、悪口、無視、所持品の盗難、破損、援助交際の強要。


「とりあえず、こんなところかな。他に、何かあれば言ってくれ」


「だったら、無視は罪状から外したほうがいいと思います」


 白河が言った。


「どうしてだい? 無視は、十分罰するに値する罪だと思うけど?」


 久世が聞き返した。本来ここは此花の出番だが、この辺の精神攻撃については疎そうだからな。


「いや、むしろ心に受ける傷としては、他のどのイジメよりも、悪質で陰険なぐらいじゃないかな?」


 久世は、あえて正論を持ち出した。すると、白河の顔に「お坊ちゃんらしい、優等生意見だ」という冷ややかな感想が浮かび上がった。


「まあ、そうですけど、無視は定義が難しいからです。誰かが誰かを無視したとして、それが故意かどうか、誰がどう判断するんです? 証拠も残らないし、証言も集めにくい。なにしろ無視する場合、クラス規模でやる場合が、ほとんどですから」


 確かに。


「もっとも、大多数は率先して無視に加わっているというよりも、他人事を決め込んでいるっていうのが正しい表現でしょうけど。下手に関わって、自分まで標的にされないように。けれど結局のところ、やってることは同じだから仲間意識は強固になる。全員に同罪である自覚があるだけに、裏切り者が出にくいんです。下手をすれば教師までグルの場合まであるし、その場合もちろん教師もダンマリを決め込むことになります」


「それでも1人1人を問いつめれば、話す人も出てくると思うよ」


 朝比奈が言った。さすが善意の優等生。心が洗われる。


「まあ、その可能性もないとは言えませんけど」


 白河は、朝比奈を横目に見やった。その眼光に「バカじゃないの?」という、負の感情をちりばめて。


「そもそも、誰が誰を無視しようと、そんなことはその人の勝手でしょ。だからこそ、本当の憲法でも無視だけじゃ罪にはならないんです。お隣さんからの挨拶を無視したら、無視罪で逮捕されるんですか? それじゃ、オチオチ外も歩けやしない」


「それは、そうだけどね。国が罰しないことを罰するからこそ、学園裁判所の意味があるんじゃないかな」


 久世が負けじと言い返した。いい根性だ。


「そうだぞ、白河。久世会長の言う通りだ」


 此花が、久世を援護射撃した。この娘が言うと、途端に重みがなくなるなあ。


「まあ、そうですけど」


「きみ、自分が他人のことをシカトばかりしてるから、そんなこと言ってるんじゃないのかい?」


 川登が、いつもの調子で揶揄した。また、火に油を注ぐような真似を。どうなっても知らんぞ。


「そうなのか、白河?」


 此花が、非難の眼差しを白河に向けた。


「だとしたら、何か問題でも? あたし自身の個人的行動と、ここで行われている議論と、一体なんの関係があるというんです? 問題なのは、あたしが言っていることが正しいかどうかでしょう? そして間違っているというのなら、正面から論破すればいいだけでのこと。建設的な発言ができないなら、黙っていてもらえませんか、中途半端さん」


「中途半端?」


 川登のこめかみが引きつった。


「そうです。さっから見ていると、あなたはエリート気取りで他人を見下してばかりいますけど、そもそも本当のエリートなら、今頃こんな公立中学になんて通ってないんじゃないですか? もし、あなたが本当のエリートなら、それこそ今頃東大が狙えるような私立中学にでも入学して、上を目指して猛勉強してるはずです。それを、こんな平凡な公立中学に通っている程度の分際で、変にエリート意識だけ高くて、そのくせできることは他人を見下すことだけとか、やってることが中途半端なんです。滑稽な道化の分際で、他人を見下すことだけ人一倍とか、怒りを通り越して笑えてくるんで、やめてほしいんですけど」


 白河の冷凍ビームが直撃し、川登は凍り付いた。


「それに、たとえここでどんな規則ができようと、あたしには関係ありませんし。あたしは、たとえどんな法律ができようが、今のスタンスを変えるつもりはさらさらありませんから」


 それも、どうかと思うけど。


「ただ、無視されることが、そんなにつらいことか? という気持ちは正直ありますけど。社会に出れば、それこそ回りなんて面識すらない赤の他人だらけでしょう? その人たちの顔色を全部伺って生きてる人がどこにいるんです? それが、どうして学校の、クラスのなかだけは特別扱いなんです? 理解できません」


 言ってることが正論だけに、タチが悪い。


「だいたい無視されたところで、実害を受けたわけでもなければ、何かを失ったわけでもない。第一無視してた人を罰して、それでどうしようっていうんです? シカトは悪いことだから、これからは無視せず仲良くしましょう、とでも命令するんですか? それで無視をやめたとして、そんな嘘臭い交友関係になんの意味があると? 根底に侮蔑感を持ったまま、上辺だけは仲良くしましょうって? まあ、それも一人前の社会人になるためには、必要なスキルではあるかもしれませんけど」


 白河は笑い飛ばした。氷の微笑だ。


「もし無視で罪になるとしたら、教員からの報告事項のような、学校生活に支障をきたすような情報を、故意に知らせなかった場合ぐらいだと思います。もっとも、その場合でも問題なのは、そんな重要なことを生徒任せにした、教員のほうだと思いますけど」


 確かに。


「無視で問題があるとすれば、それはイジメが、無視から段々とエスカレ-トしていく傾向にあるということぐらいです。イジメを行う人間は、無視した相手が傷ついているのを見ているうちに、図に乗って行動が過激になる傾向がありますから。教科書への落書きとか上履き隠しとか」


 そうだな。


「その意味では、刑罰に入れとくのもありといえば、ありかもしれませんね。本物のイジメへの予防線にもなるし、世間一般でシカトがイジメの領分に含まれている以上、無視もできませんから」


 白河が口を閉ざすと、生徒会室は静まり返った。 





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