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学園裁判所  作者: 真上真
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第21話

第21話



「では、今日から具体的な議論に入ろうと思う。議題となるのは、基本的にこの4つだ」


 久世は、黒板に議題となる裁判を行う場所、役職、罪状、刑罰の四項目を書き並べた。


「まずは裁判を行なう場所だが」

「はい。それならば体育館がいいと思います。あそこなら、傍聴人が多くても十分対応できますし」


 ここでも此花が先陣を切った。やる気満々なのは、いいことだが。


「論外ね」


 白河が容赦なく切り捨てた。意外なところから、反論が。てっきり、こいつは会議の間、ずっと高みの見物を決め込んでるもんだとばかり思ってたんだが。やはりイジメ経験者としては、バカな発言には黙ってられなかったのか?


「な、ろ、論外だと?」


 思わぬところから飛び出した全否定に、此花は気色ばんだ。


「ええ、話にならないわね」


「そう言い切るからには、ちゃんと根拠があるんだろうな?」


 此花は、今にも白河に殴りかからんばかりの形相だ。


「わからないの? 体育館は終日部活で使っているのよ? 裁判をする日時にもよるだろうけど、行うのは常識的に考えて土日か、平日でも授業が終わった四時過ぎでしょ。その時間は、まさにクラブ活動の真っ最中じゃない」


「ぬ……」


「だからと言って、裁判のたびにクラブを中止させるわけにもいかないし、もしそんな真似をすれば、運動部の怒りを買って、下手をすれば、その怒りは被害者に向きかねないわ。おまえが裁判なんか起こしたから、自分たちは練習ができなくなったんだ。余計なことをしやがってってね」


 白河の言うとおりだ。反面、その怒りがイジメの加害者側に向かう可能性もあるが、その場合、加害者連中は屁とも思わないだろう。


「そうなったら、被害者側は訴えそのものを躊躇する可能性があるわ。元々イジメなんて、他人の顔色を気にしてる気弱な人間が受けるものなんだし。ただでさえイジメに遭っている人間に、さらに外野から責められる可能性まで背負わせるのは、得策じゃないわ」


「じゃあ、どうするんだ?」


「そうね、今は少子化で教室は余ってるはずだから、どこか空き教室を使うか、でなければ図書室が妥当なところじゃないかしら。あそこなら法廷なみの広さはあるし、元々机や椅子が設置されているからイチイチ用意する必要もない。それに、基本誰でも出入り自由な場所だから、使っても誰からも文句は出ないでしょ」


 白河から、これ以上ない代案を出され、此花は渋々振り上げた拳を降ろした。


「そうだな。それでいこう」


 久世は黒板の場所欄に、空き教室、図書室と書き込んだ。確かに、それが妥当なところだ。


「では、次は役職だ。まず裁判官だが、これは立案書に書いた通り、教師、学生、保護者それぞれ3名による合議制でいこうと思うんだけど、他に意見はあるかな?」

「いいと思います」


 此花が真っ先に同意を示した。


「そう? あたしは学生と保護者は、やめたほうがいいと思うけど?」


 白河が言った。これは、また嵐になりそうな予感……。


「どうしてだ!」


 案の定、此花が不満の声を上げた。


「それこそ教育の観点から考えても、学生にやらせるべきだろう! それに将来、本物の裁判員に選ばれたときのためにも、予行練習としてやらせておくべきだろうが!」


 確かに、一理ある。しかし、


「一般の裁判員制度が、まがりなりにも成立しているのは、犯人に裁判員がどこの誰か、特定が困難だからよ。これを、もし学校で行ったら、生徒にリスクがあり過ぎるわ。もし裁判員になった人が有罪判決を下したら、顔から名前や住所を割り出して仕返しに来かねない。裁判員を行う側も、それは十分承知してるでしょうから、判決に手心を加えかねないわ。先輩、後輩、クラスのカ-スト制、そういう暗黙の身分制度がある学生なら、なおさらよ」


 仮に裁判員を脅すことを禁止しても、守る保障はないからな。それに被告人自身が動かなくても、その友人や先輩後輩を通して間接的に脅しをかけさせれば済む話だ。その後のスク-ルライフを犠牲にしてまで、果たしてどれだけの学生が正義を貫こうとするかというと……。


「保護者にしても同じことで、近所の子供が被告になったら、有罪にはしにくいでしょ? 下手にそんな真似して、隣人トラブルに発展したら目も当てられないし、下手をすれば、今度は自分の子供がイジメのタ-ゲットにされかねない」


 白河の目が、冷気を増した。不本意な会議に参加させられて、やはり内心では腹を立てていたようだ。


「それに、保護者のなかには、昼間パートに出ている人間も多いだろうし、たとえ裁判員に指名されても断る人が続出して、裁判自体が成り立たなくなる可能性があるわ。それでなくても、誰も好き好んで他人を裁きたくなんかないもの。だからこそ、本当の裁判員制度でも、年々集まりが悪くなってるわけでしょ。ま、日本人が飽きっぽいっていうのも、あるんでしょうけど」


「じゃあ、白河はどうすべきだというんだ?」


「そうね、とりあえず生徒側から生徒会長と副会長、それと教員側から校長と教頭、それにランダムで選んだ教員2人。ここら辺が妥当なところじゃないかしら。本当は、教員は入れたくないんだけど、かと言って、法の専門家を雇う金なんてないんでしょうから、仕方ないわね」


「どうして教師はダメなんだ?」


「教員なんて入れたところで、害にしかならないからよ。教員の誰かが入った時点で、判決票には無条件で「無罪」か「執行猶予」に1票入ることになるのが、目に見えているもの。とてもじゃないけど、まともな裁判になんてならないわよ。おためごかしの、それこそ茶番劇に成り果てるのが関の山ね」


「失礼だぞ、白河。仮にも教えを受ける先生に対して、その言動」


「教え? 給料をもらって、与えられた仕事をしてるだけでしょ。他の仕事と何が違うって言うの? 政治家や弁護士もそう。周りが変にへりくだるから、バカが勘違いするのよ。そもそも教員にとって学園裁判所なんて、自分たちの無能さを世にさらけ出させようとする害悪でしかないわ。仮に設置を認めたとしても、できるだけ穏便に済ませようとするに決まっているわ。それでなくても、教員は事なかれ主義だから。まあ、事なかれ主義の権化である教育委委員会の息がかかっているんだから、当然と言えば当然だけれど」


 白河は、皮肉たっぷりに吐き捨てた。






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