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学園裁判所  作者: 真上真
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第20話

第20話



 翌日の放課後、白河は俺の指示通り、生徒会室へと向かった。すると生徒会室の前で、久世が待っていた。


「やあ、君が白河君だね。君のことは、羽続さんから聞いているよ。これから、よろしく」


 久世は笑顔で白河を迎えた。


「白河流麗です。よろしく、お願いします」


 白河は軽く会釈した。


「じゃあ、行こうか。皆に紹介するよ。大丈夫、皆いい奴だから。きっと、君もすぐ打ち解けられると思うよ」


 久世はフレンドリーに話しかけた。


「お気遣いなく。顔見せを済ませたら、すぐ帰りますので」


 白河はクールに答えた。まさに北風と太陽だ。


「まあ、無理強いはしないけど、できれば君も今日の会議に参加してくれないかな? もし学園裁判所が正式採用されたら、君も当事者になるわけだから、生徒会と連携していく上で、みんなとの意見交流は必要だと思うんだ」


「……わかりました」


 白河は無機質に応じた。きっと内心では、


「どうして、あたしがそんな面倒なことしなきゃなんなのよ。ふざけんじゃないわよ!」


 とか、思ってるんだろうな。家に帰ってから「約束が違うじゃない!」と怒り狂う白河の顔が目に浮かぶようだ。


 まあ、ソッコーでUターンしなかっただけで、よしとしておこう。


 そして2人が生徒会室に入ったところで、


「会長!」


 此花が久世に突進してきた。相変わらず元気な娘だ。


「申し訳ありません!」


 此花は、いきなり頭を下げた。


「先日、会長がおっしゃっておられた調査官の件ですが、辞退させてください!」

「辞退?」

「はい!」

「それは、やっぱりどうしても自分が検察官役をやりたいということかい?」

「いえ、違います」

「え? 違うのかい?」

「はい。昨日の会長の話を、わたしもわたしなりに考えました。そして、気づいたのです。わたしには、もっとふさわしい役目があることに!」


 此花は瞳を輝かせた。


「もっと、ふさわしい役目?」


 久世は眉をひそめた。俺も、何か背筋に冷たいものが……。


「はい! それは、新設される学園警察の長官職です!」


「はい?」


 学園警察?


「そうです! 学園裁判所は、悪を裁く裁判所なのでしょう? ならば当然、その悪を取り締まり裁判所へと送検する、警察に相当する組織も必要になるはずです! 違いますか、会長?」


「え? え-と、そう、かな?」


 確かに、言ってることは一理あるが……。


「バカじゃないの」


 白河が、直球過ぎる感想を投げつけた。


「な……」


 突然のバカ呼ばわりに、此花は気色ばんだ。


「バカだと!? わたしの提案の、どこがバカだというんだ!?」


 此花は白河に詰め寄った。恐れていた事態が。


「仮に、あなたのいう学園警察とやらを創って、生徒の何人かを学園警察官にしたとして、その人たちに、いったい何をやらせるつもりなの?」


「な、何って、決まっているだろう。本物の警察と同じように、日夜この学校をパトロールし、この学校の治安を乱す悪を取り締まるんだ」


「それって、ただの風紀委員でしょ? わざわざ新しく学園警察を創る必要なんて、ないと思うんだけど?」


「全然違う! 風紀委員は、しょせん風紀委員でしかないのだ! 警察官という名称には、それを担う者に風紀委員とは違う、より崇高な! より責任感を与える! 身を正す効果があるのだ!」

「それ、ただ単に、あなたが警察官をやりたいだけなんじゃないの?」


 確かに。


「し、失礼なことを言うな!」


 図星を突かれ、此花は激昂した。


「確かに、各学校に警察官を配置するという発想自体は悪くないわ。でも、その場合配置されるのは、あくまでも本物の警察官であるべきよ。学生が、独断で学園警察なんてものを創ったところで、意味なんてないわ。そんなものにできることなんて、せいぜい休憩時間中の見回りぐらいのものでしょ? それで解決するぐらいなら、最初からイジメなんて起きてやしないわよ。それこそ学園警察なんてできたところで、イジメをやる側にとっては、警戒する人間が少し増えるだけ。イジメ問題を解決するうえで、なんのタシにもなりはしないわ。むしろ、自分は警察官だから偉いんだと思い込む、勘違いバカを生み出すだけよ」


 その通りだ。本物の警察官を配置するのも、今の政府の財政状態じゃ不可能だろうし、そんな余力があるのなら、児童虐待の対策に人員を回したほうが有益だろう。


「だ、誰が、勘違いバカだ! だ、だいたい、なんだ、貴様は! 生徒会役員でもないくせに、どうしてここにいるんだ!」


「あたしは本当のことを言っているだけよ。それに、あたしが誰かということと、あたしが言っていることになんの関係があるの? 相手の言動を、立場を利用して抑え込もうとする輩が、正義を口にするなんて、おこがましいにも程があるわ。小学生から、やり直してきたら?」


「な、な、な……」


 此花の顔が、恥辱で紅潮した。


「ふ、2人とも、落ち着いて」


 見るに見かねた久世が、白河たちの間に割って入った。


「そうよ。その辺も含めて、これから話し合いましょ。ね」


 朝比奈も仲裁に入り、此花はとりあえず息を落ち着かせた。やれやれだ。


「そ、そうですね。すいません。つい興奮してしまいました」


 此花は、自分の席に着いた。白河を、超睨みながら。


「そ、それじゃ、皆に改めて紹介するよ。彼女が、検察官役を頼んだ白河流麗君だ。検察官役を任せる関係から、今日は彼女にも同席してもらうことにしたから、よろしく頼む」


 久世は、生徒会の面々に白河を紹介した。


「今度、学園裁判所の検察官役を務めることになりました、白河流麗です。若輩者ですが、精いっぱい務めさせてもらいますので、どうかよろしくお願いします」


 白河は、俺が教えた通りの挨拶を、超棒読みながら完遂した。そして生徒会のメンバーと一通りの挨拶を済ませた後、学園裁判所に関する2回目の会議が始まった。







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